観賞用に交配で改良された花の大きなチューリップの群生も美しい(冒頭図,1979 London Victoria Embankment Garden)が,我が家の庭では「原種系チューリップ」と称されるクルシアナ系チューリップが春を彩る.
チューリップを園芸上の観点から15の Division に分けた,その15番目の Division にカテゴライズされた “Species or Botanical” に属し,この Division は大まかにいえばポルトガルから西アジアに自生する小型のチューリップで,園芸用に交配された種ではないと定義され,150種の野生種が含まれるとされている(Wikipedia(E), Tulip).
クルシアナ系はイラン・アフガニスタン・ウズベキスタン・パキスタン及び西ヒマラヤに自生し,鱗茎からは 2-5 枚の20㎝程の葉を伸ばし,お椀型の花を通常一個つける.花の大きさは園芸種より小さく直径10㎝ほどで,高さは20㎝程,晴れた日には大きく開くが,曇天や雨の日には閉じる.外花被と内花被の花色や模様が異なる種では,天候によって花の与える印象が違う.
Tulipa clusiana, ‘Lady Jane' は外花被片の外側が柔らかいローズピンク色で縁は白色,内花被片は白,晴れた日に花が開くと白いが,花が閉じると赤白のねじり模様のように見えて可愛らしい.可憐な草姿に似合わず繁殖力は旺盛で,ドロッパーと言われる地下で伸ばす紐状の器官(匍匐枝)の先に娘鱗茎を生じさせる栄養繁殖を行う.この繁殖法はアマナと同様である.娘鱗茎からは一枚の葉が出て,二年目に花をつけるらしいが,未確認.この繁殖法によって5年程で1.5×2メートル程の地面が ‘Lady Jane' に占領され,先に植えてあったクロッカスやスノードロップ,はてはフクジュソウまで姿を消した.
Tulipa clusiana var. chrysantha は内花被片が黄,外花被片の外側が濃いオレンジ色なので,晴れた日には黄色に,花が閉じるとオレンジ色に見えて可愛らしい.アマナと同じくドロッパーで繁殖するが,‘Lady Jane' ほど野放図ではなく,比較的まとまって生育するため,まるで花束の様に咲く.分球も容易で,密植も可能で ‘Lady Jane' より扱いやすい.秋10㎝の鉢に10個程の鱗茎を植えても一斉に咲くので鉢植えにしても良い.
この二種とも,その耐寒性と育てやすさ,美しさを評価され,英国の「王立園芸協会
RHS」のガーデン・メリット賞(Award of Garden Merit、略称: AGM)を受賞している.この賞は英国の庭園で育てる場合,
園芸店から入手できる事(must be available horticulturally)
庭における観賞植物又は有用植物として抜群に優秀である事(must be of outstanding excellence for garden decoration or use)
体質が良い事(must be of good constitution)
高度の専門的な生育条件及びケアが必要ではない事(must not require highly specialist growing conditions or care)
特定の病気又は害虫に影響を受け易い事がない事(must not be particularly susceptible to any pest or disease)
先祖返りが不適切な程度に発生しない事(must not be subject to an unreasonable degree of reversion)
の特性を有することが必要で,更に耐寒性・頑健性(hardiness)によって,加温温室での保護が必要な種(H1)から,殆どの欧州の国の屋外の気候(Colder than -20C/-4F)で生育する種(H7)に分けられる.この二種とも H7 と評価されており,英国をはじめ北部欧州で特に保護なく庭に植える事が可能とされている.
Tulipa clusiana の図は多いが,描かれた花のほとんどは
‘Lady Jane' に似た赤白二色である.IPNI で Tulipa
clusiana の原記載文献の一つとされているルドーテの『百合図譜』に描かれているの(下図左端)も赤白二色の種である.以下に
plantillustrations.org で検索した Tulipa clusiana の図譜のいくつかを示す.ただ ‘Lady Jane' には花被の基底部に濃色部分はないので,これらに記載されたとは異なるものと思われる.
左より
Fig. 1 Redouté, P.J., “Liliacées” vol. 1, t. 37 (1805)
Fig. 2 Curtis, W., “Botanical Magazine” vol. 34, t. 1390 (1811)
Fig. 3 Sibthrop, J., Smith, J.E., “Flora Graeca” vol. 4, t. 329 p. 25 (1823)
0 件のコメント:
コメントを投稿