Calendula arvensis 地中海沿岸原産の一年草.中国では古くから薬用として広く育てられていた.金盞花、醒酒花,金盞兒花,長春花、杏葉草,長春菊,金仙花、長春草等と呼ばれ,周憲王(周定王)朱橚選『救荒本草』(初版1406)には「金盞兒花,人家園圃多種。苗高四、五寸,葉似初生莴苣葉,比莴苣葉狹窄而厚,抪莖生葉。莖端開金黃色盞子樣花。其葉味酸。」と,また明の李時珍選『本草綱目』(初版1596)には「金盞草,夏月結實,在萼內,宛如尺蠖蟲數枚蟠屈之狀。」とある.
日本には中国由来で古代に入ったと考えられ,913 年頃に成立した『倭名類聚抄』に「こむせんか」の名が出る.日本でもこのキンセンカは広く栽培され,狩野探幽(1674没)の『草木花写生図鑑』に図が載る.
中村惕斎『訓蒙圖彙(キンモウズイ)』(初版1666)には図(左図)が載り,伊藤伊兵衛『花壇地錦抄』(1695)に「草花春之分 金銭花(きんせんくわ)四季ニ花咲 花形名のごとし又金盞花(キンセンクワ)共書よし」とあり,また「草木植作様伊呂波分(いろはわけ) きんせんくわ 植替何時成共種も毎月蒔ハ年中花たへず合肥よし」とあり,育てやすく,年中花が見られるとしている.
貝原益軒『花譜』(1694)には「金盞花 和俗きんせん花と称す.春の初より花咲く.色黄金のごとく,かたちさかづきのごとくなる故に,名づく.子の形は蟲に似たり.実をとりて逐時まけば,四時常に花あり.故に長春花ともいふ.本草綱目湿草部に,葉を食す,毒なしとあり.」と記されている.
また,寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)には 「金盞草(きんせんか) キンツアン ツアロウ 杏葉(きようよう)草 長春(ちようしゆん)花 〔俗に幾牟世牟(きんせん)花という〕『本草綱目』(草部湿草類金盞草〔集解〕)に次のようにいう。金盞草は苗の高さ四、五寸。葉は出はじめの萵苣(柔滑莱チシャ)の葉に似ていて厚く狭く、茎を抱いて生え出る。茎は柔脆で、頭(さき)に花が開く。花は指頭ぐらいの大きさで金黄色。状(かたち)は盞子(ちょこ)に似ていて一年中花が絶えることがない。夏月に萼の内に実を結ぶが、ちょうど数匹の尺蠖(しゃくとり)虫が蟠屈(わだかまり)しているような状である。葉の味は酸。よく茹でてから水に浸過し、油・塩を拌(かき)まぜて食べる。腸・痔の下血を治める効がある。
△思うに、盞〔音はサン〕とは杯のことである。花の形のことである。近頃では白花のものもあって珍重される。俗にこれを金銭花(次出)というのは間違いである。」(現代語訳 島田・竹島・樋口,島田勇雄,竹島淳夫,樋口元巳訳注,平凡社-東洋文庫) とある(右図).
さらに,小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806)の巻之十一 草之四 隰草類 上には,「金盞草 キンセンクハ トコナツバナ フダンバナ トキシラズ ケイセイクハン(如州)アリヤケ(摂州),コガネグサ 〔一名〕常春花 長春菊(花疏) 回回菊(三才図会) 金盞児 萵苣花
家二栽テ瓶花二供ス。葉細長ニシテ尖ラズ。鼠麹草(ハハコグサ)ノ葉二似テ、大ニシテ白色ヲ帯。初メ地二就テ叢生ス。取テ食料ニ供ス。春月茎ヲ抽ヅ。高サ六七寸、枝頭ゴトニ花ヲ開。久シク相続ク。形単弁ノ菊花二似テ、小サク、正開セズ。常二盞子様ヲナス。紅黄色亦淡黄色ノ者アリ。花後実ヲ結ブ。其形屈曲シテ虫ノ状ニ似タリ。蘇頌、変生一小虫ト云ハ、非ナルコト時珍弁ゼリ。本邦ニテ和名金銭花ト云ハ誤ナリ。唐山ニテ銭ト云ハ満開シタルモノヲ云。金盞草ノ花ハ半開ニッチ盞ノ如シ。故二金盞花ノ名アリ。午時花、旋覆花(注 オグルマ)ハ、正シク開ク。故二金銭花ノ名アリ。」とあるが,『和漢三才図会』や『本草綱目』と同様種子が蟲のようだといっているのは,その特徴をうまく捉えていると興味深い.また,ゴジカと混同しないようにとしきりに注意を促しているのは,逆にゴジカが江戸時代広く栽培されていた事を示すと考えられる.
これらの書物に記されている「金盞草」は,その記述から現在一般的に「キンセンカ」と呼ばれているトウキンセンカ Calendula officinalis ではなく,背は低く,枝分かれして多くの比較的小さな一重の花を永くつける Calendula arvensis (ホンキンセンカ)ということが分かる.
一方, シーボルトが日本から持ち帰った腊葉コレクションに「金盞草」の標がついた標本があり(左図,牧野標本館),これは C. officinalis と同定されていて,江戸時代にはトウキンセンカが栽培されていた証拠とされている.
なお,現代中国での薬効は「利尿,發汗,興奮,緩下,通經。 又治腸痔下血不止。降血壓」とある.
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