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欧州原産の大型の二年草.乾燥させた頭花にはタワシのような穂先にトゲがあり,そのトゲにはマイクロメートル単位の鈎がびっしりついている.この鈎で毛織物の表面をひっかくと,ラシャガキグサの別名が示す様に,肌触りの良い風合いが生まれる.織物の起毛に用いるため古代から重要な作物であったが,現在ではそのような利用法はごく限定的となっている.
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★大英自然史博物館『ビジュアル博物館 第11巻 植物』(1990) 同朋舎出版の「自分の身を守る」の章には「溺死
オニナベナの茎についた1対の葉は、根元でくっつき合って小さなくぼみをつくり、そこに雨水がたまるようになっている。このくぼみは植物を守る堀のような役割を果たす。この草にのぼって若い葉を食べようとするカタツムリや昆虫は水たまりにぶつかり、退散するか、あるいは水に落ちて溺死する。」とあり,この堀で溺死した昆虫類の画像がある.(2019年11月追記)
また,欧州では俗に Venus はこの水でゆあみをしたと言い,またこの水には,そばかすやいぼを取る効があって,それで洗顔すれば Venus のような美人になれるというので,この草を Venus’-basin,Venus’-bath,Venus’-cup などと呼ぶ.
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日本では明治時代,毛織物産業のために移入された.明治 18 年(1885) に東京の大日本農会三田育種場から出版された『舶来穀菜要覧』には「チーセル チースル(英) 二年草,山梗菜科 欧州原産にて丈夫なる二年草なり.四月上旬地床に散播きし五月下旬圃地に移し翌年七月中旬頃子鞠を結ふ.其老熟を待ちて採収すべし.其子鞠長体?にして片々鱗次端末鈎刺をなす.絨布の製造に供し其絨毛を惹起するに欠くべからざるものとす.」とある.その後毛織物産業の盛んな地方に広がり,高度成長期にはカシミヤなど高級毛織物の仕上げに珍重されて,大阪・泉州などで頻繁に栽培されていたが,毛織物業の衰退と金属製の起毛機の開発で現在では栽培面積は激減している.
北米では広く帰化して一個体から 2,000 個の種が散布され,プレーリーの原植生を破壊する有害外来植物とされていて駆除対象とされているが,作物としてではなく,種が他の有用植物に混入して移入されたのが始まり.
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