2013年9月4日水曜日

シュロソウ (1/3)  藜蘆(りろ),延喜式,本草和名,和名類聚抄,多識編,草花絵前集,大和本草,和漢三才図会,広益地錦抄

Veratrum maackii
2008年08月 赤城 覚満淵 
本州中部以北・北海道の山地に生える日本特産の多年草.根茎は短く斜めに出る.茎の基部とともに葉鞘を覆う,枯れ残った黒褐色の繊維が,シュロの毛のようであるためこの名がある.シシノクビ(ノキ)の和名は,春に出る粗い毛に覆われた若芽を,イノシシの首に例えたからか.
夏に1㍍以上の草丈で,径1cm位の赤黒褐色の花をつけて草原では目立つ.下部に雄花,中部以上は完全花がつく.古くから薬用とされ,漢名の藜蘆(りろ)と比定されていたが,正確に言えば誤用.

平安時代に著された書物には,ヤマウハラ,シシノクヒ(ビ)(ノ)キの和名でしるされ,延喜式では,毎年,伊勢国・飛騨国から薬用として宮廷に献上されたとある.(薬効についてはシュロソウ (3/3) に記す予定)

★深根輔仁撰『本草和名 上』(901 - 923)編纂
「○(莉の下に木)蘆 (中略) 和名 也末宇波良 之々乃久比乃岐」(左図左 NDL)

★『延書式 巻第三十七』(905編纂開始 - 927完成)
「諸国進年料雑薬  伊勢国五十種 藜蘆二斤四両。飛騨国九種 藜蘆十斤」
「延喜式附録和名考異  藜蘆 也末宇波良 之々乃久比伎 之々乃久比久左 宇波良 也末无久良 於毛止久左」

★源順『和名類聚抄』(931 - 938),那波道円 [校](1617)
「藜蘆 ヤマウハラ シシノクヒキ 本草ニ云藜蘆ハ上ハ音藜 和名 夜末宇波良 一ニ云 之之乃久比乃木」(左図右 NDL)

江戸時代になると「日光蘭」の名で庭園で観賞用植物として栽培される一方,「藜蘆」の薬草としての需要は大きかったようで,薬店で万年青(オモト)やツクバネソウの根がこの名で売られていた.また,バイケイソウ,コバイケイソウも「藜蘆」の一種とされ,さらにはエビネまで「藜蘆」と一括りにされていた.

★林羅山『多識編』(初版 1612)には
「藜蘆 志志乃久比岐 [異名] 山-葱(サンサウ)別-録」と,和名は「ししのくびき」とある.(右図,NDL)

★伊藤伊兵衛三之丞画・同政武編『草花絵前集』 (1699)
日光蘭(につくわらん) 花のいろうすがき、○むらさき、○うす白と有、葉はゑびね草のごとし。六月にさく。」(下図,左端, NDL)

★貝原益軒『大和本草 巻之六  草之二 薬類』 (1709)
「藜蘆 ヲモトト訓ス非ナリ 薬肆ニヲモトノ根ヲ藜蘆ナリテウル用ユルヘカラス ヲモトハ万年青ナリ エビ子モ藜蘆ニ似タレトモ別ナリ 又 大葉蘭ト云物アリ 藜蘆ニ似テ非ナリ 唐ヨリ来ルヲ用ユヘシ」

★寺島良安『和漢三才図会 巻第九十五 毒草類』(1713頃),現代語訳 島田・竹島・樋口,平凡社-東洋文庫(下図右端)
「藜蘆(りろ,えびね,リイロウ)(中略)
〔和名は山宇波良(やまうばら)また,之之乃久比乃木(シシノクビノキ)ともいう〕
『本草綱目』(草部毒草類藜蘆〔集解〕)に次のようにいう。藜蘆(ユリ科リロ)は山谷の各処にある。冬に凋(しぼ)み春に苗が出る。葉は出初めの椶(しゅろ)の心に似ていて、また車前草(湿草類オオバコ)にも似ている。茎は葱白(ねぎのくき)に似ていて青紫色。
高さ五、六寸。上に黒皮があって茎をつつみ、椶の皮に似ている。花は肉紅色。板は馬腸根(ばちょうこん)に似ていて長さ四、五寸ぐらい。黄白色で、鬚は二、三寸ぐらい。二、三月に根を採って陰乾しにする。高山に生えるものが住い。
(薬効 略)
△思うに、藜蘆はいま多く庭園に植えて、その花を愛でる。形状は全く上説のようで、根が少し異なっているだけである。陰処がよく、冬も凋まない。葉は車前草に似ていて厚く長く、地にひろがって生える。三、四月に茎が抽(ぬき)ん出て肉紅色の花を開く。また淡黄・柿色のもの、あるいは外は褐(きぐろ)色で内白く、外は紫で内は黄のもの、あるいは樺色のものがある。また外は青く内の白いものがあり、吾須手という。また淡紫のものを出船という。根は円くて梟茈(くろくわい)に似て、中の根は大抵髭のようなので、蝦根(えびね)という。恐らくこれが藜蘆であろう。
けれども古から万年青を日本の藜蘆としている。これは大へんな誤りである。和方に桑山小粒丸というのがある。よく小児の諸虫や癲癇を治す。その処方の中に苦参・藜蘆があり、これは互いに相反するものである。どうして宜いことがあろうか。ただし、和方の藜蘆には万年青を用いているのならば問題はない。だから薬店の和の藜蘆とは恐らく万年青の根なのである。
注 - 桑山小粒丸 大坂天王寺の珊瑚寺から売り出されていた小児病の万能薬。朝鮮出兵の際、豊臣家の臣、桑山修理大夫が持ち帰ったと伝えられる。」

★伊藤伊兵衛『広益地錦抄 巻之六』(1719) (上図中央, NDL)
「藜蘆(里ろ) 宿根より春生ル葉ハ紫蘭白蘭に似たれば日光蘭といふ 日光山におほくあるよし 花の色黒べに色にて花形は薬種の丁字頭のごとく穂をたしておほくはなさく 六七月ひらく 花壇にうへながめあり 根元土中よりしゆろの皮のごとくなる毛をかぶりて生る たねをとりおき二月まくべし」

シュロソウ (2/3) 藜蘆(りろ)花木真寫・物類品隲,花彙,本草綱目啓蒙,物品識名,日光山草木之図,梅園百花図譜,増補古方薬品考,草木図説前編

シュロソウ(3/3) 薬効 本草綱目・和漢三才図会・本草綱目啓蒙・原色日本薬用植物図鑑・薬草カラー図鑑

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