2000年7月 長野県 高峰山 |
日本では北海道,本州(長野県・群馬県・宮城県等)の比較的標高の高い山地に分布する北方植物.世界的にはシベリアを中心にアジア北東部,ヨーロッパ東部に分布する.
小葉が茎の片側に車輪状に着くので車軸草,しかも半輪状なので片葉車,片輪車の別名もある.また,笠の内側の骨が仏像の光背の形に見えることから,後ろ下がりにかぶる笠に例えた「阿弥陀笠(草)」の名もある.
江戸時代には鑑賞用として育てられ,また,斑入りの個体が珍重された.
(挿図はNDL の公開デジタル画像の部分引用)
★水野忠暁『草木錦葉集』(1829) 著者の忠暁は幕府旗本. 草木の培養に長け斑葉植物を集大成した本書を著した.木版芸術としても大変優れた美しい図を描いたのは博物画家の関根雲停(1804-77)である.本書は斑入(ふいり)植物の図譜だが,葉変わり(葉型の変化)や奇品も取り上げ,本文と附録から成る.本文は種類名のイロハ順に配列され,精巧な図に解説を添えて,合計は1000品を超える.
その「第一巻」には,花をつけ葉に斑が入った美しいシャジクソウの絵が載せられ
「半邉連(はんぺんれん)(ハンペンレン)○宿根〇一名かた葉車(くるま)○葉駒留萩(こまとめはぎ)に似て???花も駒留に似??文月?咲??にて?(つぎ)之 ○並」とある.(?:解読不能)
駒留萩,駒留とはコナツナギ(学名 : Indigofera
pseudotinctoria)か.
★飯沼慾斎『草木図説前編』(成稿 1852年ごろ,出版 1856年から62年).草類1250種をリンネの分類法に従い配列し,植物学的に正確な解説と写生図から成る,江戸時代の植物誌としては最高峰の一つ.
その「巻之十四 ○十七綱」には
「車軸サウ
木曽山原ニ生ズ。宿根莖高一尺許。葉鈍披針狀ニシテ至細ノ鋸齒アリ。肋脈文明鶏眼
草(ヤハズサウ)ノ葉ノ如ク。五葉一蒂。柄鞘様ニシテ莖ヲ包ミテ互生ス。ソノ五小葉相並ノ形半輪ノ如
キヲ見テ。車軸サウノ名ヲ下ス。秋梢葉腋花莖ヲ出スコト二寸許。頂ニ五七花ヲ
並列ス。蕚筒様五出細ニシテ針ノ如シ。半開蛾形花。色淡紅色叉白色ノモノアリ。生殖部
似類一般」
第八種
trifolium lupinaster (チリホリユム ルュピンアステル)羅 lupinachtige klaver
(リュピンアクチヘ
カラーヘル)蘭」
とあり,紅色のみならず白色の花をつけるものもあるという.
上記,慾斎の『草木図説前編』を増補改訂した★牧野富太郎『増訂草木図説』(1907) の「草部巻十四」には
「シャヂクサウ
Trifolium Lupinaster L.
マメ科(荳科)Leguminosa.
木曽山原ニ生ズ,宿根莖高一尺許,葉鈍披針狀ニシテ至細ノ鋸齒アリ,肋脈文明鶏眼草(ヤハズサウ)
ノ葉ノ如ク,五葉一蒂,柄鞘様ニシテ莖ヲ包ミテ互生ス,ソノ五小葉相並ノ形半輪ノ如
キヲ見テ車軸サウノ名ヲ下ス,秋梢葉腋花莖ヲ出スコト二寸許,頂ニ五七花ヲ並列ス,
蕚筒様五出細ニシテ針ノ如シ,半開蛾形花,色淡紅色叉白色ノモノアリ,生殖部似類一般
第八種
Trifolium Lupinaster (チリホリユム ルュピンアステル)羅 Lupinachtige Klaver (リュピンアクチヘ
カラーヘル)蘭」
とあり,科名以外の追記は見られなかった.
しゃぢくさう
一名 かたわぐるま・あみだがさ・ぼさつさう
Trifolium Lupinaster L.
我邦ニテハ信州ノ山原並ニ北地ニ生ズル
多年生草本。莖ハ高サ 30cm 許、直立或ハ
斜上シ、通常分枝セズ、無毛或ハ上部有
毛。葉ハ互生シ、甚ダ短キ葉柄アリ、通常
五小葉ヨリ成リ、小葉ハ披針形或ハ長楕
圓形ヲ成シ、至細ノ鋸齒アリ、支脈分明
ナリ。托葉ハ鞘狀ヲ成シ薄クシテ莖ヲ包
ム。夏秋ノ侯、梢葉腋ニ花梗ヲ抽クコト
3cm、頂ニ五-六箇ノ蝶形花ヲ並列ス。淡
紅紫、稀ニ白色ヲ見ル。萼ハ五裂、下部
ハ筒狀ヲ成シ十脈アリ、裂片ハ毛狀ト成
リ最下端ノ者最長ナリ。花冠ハ蕚ノ二倍
長、莢ハ四乃至六種子。和名車軸草ハ其
小葉相並ビ其形中軸ヨリ出タル車幅ノ
如ケレバ云ヒ、片輪車ハ其葉片ノ排列半輪狀ヲ
成セバ云ヒ、阿彌陀笠モ其擴張セル葉狀ニ基キ、
菩薩草モ亦笠狀ノ葉ニ基キシ名ナラン。」とある.
別名としては,★木村陽二郎監修『図説草木名彙辞典』柏書房
(1991) に「(同)車軸,(別)片輪車,阿弥陀笠,菩薩草,阿弥陀がき,しやじき,しやちこ」が載る.
★八坂書房編『日本植物方言集成』八坂書房(2001)には地方名として「シャジクソウ とんぼはぎ 常陸」が収載されている.
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