2019年2月 茨城県南部 |
フクジュソウは,春にさきがけて花開く.古来,アイヌでは春の魚イトウの到来を知らせる花であった.温室のなかった昔,人々がフクジュソウの花に季節の復活を喜んだ様子も,めでたい
”福寿草” の名にしのばれる.
正月にこの花を飾る習慣は江戸初期からあり,松平重頼は俳語の入門書『毛吹草 巻第二 誹詣四季之詞』(1638)の中で,「正月 福壽草(ふくじゆさう) 元日草とも」と書いている.生け花にも使われたことが,『古今立花大全』(1683)をはじめ,花道の古書に記録されている.
フクジュソウは,学名をアドニス・ラモサ(Adonis ramosa)という日本特産の固有種*で,野生のものがそのまま栽培に持ち込まれた.江戸中期には品種がふえ,幕末の泉本儀右衛門の『本草要正』(1862) には,紅花,白花,八重咲,段咲,糸咲,紋咲など実に百二十六品種があがっている.現存するのはその三分の一ほどで,「銀世界」や「弁天」のような白花系,「玉孔雀」のような緑花系,「秩父紅」や「日の出」のような赤花系,「寿」に代表される段咲き系に分類される栽培品種がある.
*四種に分類する考え方もある.北海道から九州にかけての広い範囲に分布するフクジュソウ,北海道だけ分布するキタミフクジュソウ,別名イチゲフクジュソウ(A. amurensis**),本州と九州にはミチノクフクジュソウ(A. multiflora),本州・四国と九州に産するシコクフクジュソウ(A. shikokuensis).** A. amurensis は大陸北東部にも分布する.
我が家の庭でも,江戸時代に育種された「秩父紅-チチブコウ」と言う赤花(赤と云よりは赤銅色)をつける株が二つ花をつけた.黄色いフクジュソウの半分ぐらいの小さな花であるが,花容は花辧が短く整っている.(左図:湯浅浩史『花の履歴書』 1995)
4年ほど前にホームセンターで,小さな鉢で売られていた正月用の飾りの売れ残りを購入.赤玉土の中で根は張っておらず,着くかしらと危惧しながら地植した.これまで葉は出ていたのであろうが気が付かず,花を着けているのを見つけて,よくまあ地道に活動していたものと,感心した.
本草要正 フクジュソオ |
1862年の 泉本儀左衛門『本草要正』は,テフ(蝶)を「チョオ」,メウガ(茗荷)を「ミョオガ」のように,和名を発音表記とした和漢名辞典で,和名の方言や異名も記している.園芸植物の花銘を多数挙げるのも特色で,アサガオ130点,フクジュソウ131点126品種,ツバキ236点などを記す.著者は江戸の人と思われるが生没年等は不明.
その第四巻,不之部に,
「フクジュソオ 獻歳菊 臺灣府志 桂海虞衝志 等
此品近年花重辧重々段咲花色紅白青絞リ等又重
辧替リ莖替リ葉替リ猶多シ年々實生ニテ諸方ヨリ
替リ多ク出ス舉ニ
暇アルヘカラス」とあり,
「替リノ部」には「紅花類,白花類,八重咲類,段咲類,大輪類,細咲糸咲類,青軸打抜類,絞リ類,変化類,撫子咲類,葉替類,奇品類」の類があり,
「紅花類
サガミコオ リコオ
オホメコオ チヽブコオ
サガミコオ ニホンコオ
シンコオ」
とある.
上記文献中のフクジュソウの異名「獻歳菊」の献歳(けんさい)は,陰暦一月の異称で,この時期に咲く(黄色い)キクに似た花の意味であろうか.引用文献の『臺灣府志』にも『桂海虞衝志』には,「獻歳菊」は確認できなかった(Chinese Text Project)が,清の朱仕玠(1712年-?)が教師として派遣された臺灣の風物を著した『小琉球漫志』(1766年序)の「第九巻 海東月令」に,
「正月
獻歲含英 歌女鼓脰 鷾鴯來巢 丹鳥懸輝 冬瓜蔓生
獻歲,菊名,又名元宵菊.歌女,蚯蚓也.月令四月蚯蚓出,台地正月即鳴.鷾鴯,燕也,亦以是時來巢.丹鳥,螢火也」とある. (Chinese Text Project)
「台湾の一月には「獻歲」別名「元宵菊」という名の菊が花を開き,蚯蚓が大地から顔を出し,燕が巣に帰ってきて蛍が光り,冬瓜の蔓が生える」の意味であろうか.なお,書名の「小琉球」とは沖縄ではなく,臺灣のことである.
なお,台湾にフクジュソウが分布するか否かは,未確認.
また,清国政府より台灣知府として 1757年に派遣された覚羅四明と,1761年に台灣府知府、台灣府海防補盜同知に任じられた余文儀 (1705 – 1782) が続脩した
★覚羅四明,余文儀 続脩『續脩臺灣府志』(乾隆39 (1774) 序)には,
「續脩臺灣府志巻十八
欽命巡視臺灣朝議太夫戸科給事中紀録三次六十七
欽命巡視臺灣朝議太夫雲南道監察御史加一級紀録三次 范咸 同脩
分巡臺灣道兼提督學政 覚羅四明
臺灣府知府 余文儀 続脩
物産二 草木 鳥獸 蟲魚
草木
(中略)
鐵樹花 貝多羅 倒垂蘭 迎年菊 含笑 獻歲菊 七里香 月桃 交枝蓮 ○以上花之属
附考
(中略)
獻歲菊立春始開其性尤殊凡菊 臺海志畧」
とある.立春のころに咲くキクによく似た花を着けるとの意味であろう.
なお,台湾にフクジュソウが分布するか否かは,未確認.
また,清国政府より台灣知府として 1757年に派遣された覚羅四明と,1761年に台灣府知府、台灣府海防補盜同知に任じられた余文儀 (1705 – 1782) が続脩した
★覚羅四明,余文儀 続脩『續脩臺灣府志』(乾隆39 (1774) 序)には,
「續脩臺灣府志巻十八
欽命巡視臺灣朝議太夫戸科給事中紀録三次六十七
欽命巡視臺灣朝議太夫雲南道監察御史加一級紀録三次 范咸 同脩
分巡臺灣道兼提督學政 覚羅四明
臺灣府知府 余文儀 続脩
物産二 草木 鳥獸 蟲魚
草木
(中略)
鐵樹花 貝多羅 倒垂蘭 迎年菊 含笑 獻歲菊 七里香 月桃 交枝蓮 ○以上花之属
附考
(中略)
獻歲菊立春始開其性尤殊凡菊 臺海志畧」
とある.立春のころに咲くキクによく似た花を着けるとの意味であろう.
2018年 02月 茨城県南部 |
0 件のコメント:
コメントを投稿