Epilobium
angustifolium
2008年7月 栃木県日光 |
Epilobium
angustifolium
ヤナギランは北方系の植物であるためか,出島の三学者ケンペル・ツンベルク・シーボルトの日本の植物に関する著作には記録されていない.しかし,シーボルトは協力者が採集した腊葉標本をオランダに持ち帰った.
ミクェルは1862年ブルーメ(Blume)の後継者として,オランダ ライデンの王立植物標本館“Rijksherbarium” の館長となり,シーボルトの収集品や,日本の本草学者,ロシアのマキシモウィッチ,米国訪日艦隊の植物学者らの標本を集めたコレクション
2,000種以上を調べて同定して記録した,『ライデン植物標本館標本目録1,日本植物』 “Catalogus Musei Botanici Lugduno-Batavi 1,Flora Japonica” (1870) を著した.これには,シーボルトが採集者である標本が一点ある事となっていて,この標本を基にしたと思われるミクェルの記述が『ライデン植物園年報』
“Ann. Mus. Bot. Lugduno-Bat” に残り,和名は「ヤナギソウ」であると記した.残念ながら,この標本はナチュラリス生物多様性センターの BioPotal データベースには,登録されていない.
一方,日本の植物研究をミクェルと競っていたフランスのフランシェは,著した『日本植物目録』 ”Enumeratio Plantarum in Japonia Sponte Crescentium” (1873-1879) に,共同研究者のサバティエが,明治政府の横須賀造船所のお雇い外国人医師として滞日中に日光で得た資料を基に
Epilobium spicatum として記述し,和名は「キソヤナギソウ」であるとし,飯沼慾斎著「草木図説」のヤナギサウを引用している.
★ミクェル (Miquel, F. A. W.
,1811 - 1871) , “Catalogus Musei Botanici Lugduno-Batavi 1,Flora Japonica” (1870)
“ONAGRARIEAE.
I. EPILOBIUM L.
angustifolium L. var. S* 1.”
*S: 採集者がシーボルト
“ONAGRARIEAE.
EPILOBIUM LINN.
1. EPILOBIUM
ANGUSTIFOLILM LINN., LEDEB. Fl. Ross. II. p. 105. MAXIM. Prim. p.
104, var.
stylo basi hirtello.
Specimina pauca praesto
sunt quae ab europaeis differunt foliis novellis subtus in costa
pubero-albidis, adultis
glabris; stylus basi hirtellus, superne glaber.
Reliqua congruunt. Fere transire videtur ad E. Dodonaei VILL. —
SIEBOLD legit. — Janagi soo iap.”
1. E. angustifolium 2. E. Dodonaei |
ドミニク・ヴィラール(Dominique
Villars, 1745 - 1814)はフランスの医師,植物学者,住んでいたドーフィネ地域の植物の収集と分類の研究を行い,医師としても後にスウェーデン王カール14世となるジャン=バティスト・ジュール・ベルナドットから侍医として望まれたほどの評判を得た.1786年から1789年の間に,主著の『ドーフィネの植物誌』(Histoire des plantes du Dauphiné)を出版した.この著作に20回以上の調査旅行で得られた2700以上の植物の種について記述した.
ドーフィネ(ドフィネ)またはド(ー)フィネ・ヴィエノワ(Dauphiné, Dauphiné Viennois)は,フランス南東部のかつての州.現在のイゼール県,ドローム県,オート=アルプ県を含む.歴史的な州都はグルノーブル.
J. Sturm, E.H.L.
Krause, K.G. Lutz, Flora von Deutschland in Abbildungen nach der Natur, Zweite
auflage, vol. 9: t. 42, fig. 2 (1901)
★サバティエ(Paul Amédée Ludovic Savatier, 1830–1891),フランシェ (Adrien René Franchet, 1834-1900),『日本植物目録』(Enumeratio Plantarum in Japonia Sponte Crescentium, 1875-79.)
サバティエ(ポール・アメデ・ルドヴィク,Savatier,
Paul Amédée Ludovic. 1830 –1891)はフランスの医師・植物学者で,お雇い外国人医師として横須賀造船所に1866年から1871年まで,また1873年から1876年に二度滞日した.自ら横須賀や伊豆半島で植物採集を行った他,植物学者伊藤圭介や田中芳男などと交流し,また標本を入手した.帰国後,フランシェ(アドリアンFranchet, Adrien. 1834 - 1900)との共著で『日本植物目録』(Enumeratio
Plantarum in Japonia Sponte Crescentium) を1873-1879年に出版した.
“168
ENUMERATIO PLANTARUM JAPONICARUM.
ONAGRARIÆ
EPILOBIUM L.
parte. Miq. Prol.,
p. 258.
Hab. in Japoniâ
(Siebold).
Japonice. —
Yanagi soo.
Icon. Jap. - Sô
mokou Zoussetz, vol. 7, fol. 40, sub :
Yanagi sô.”
“370 ENUMERATIO
PLANTARUM JAPONICARUM.
(651). Epllobinm
spicatum. — Adde :
Hab. in
fruticetis bumidis tractûs Nikô (Savatier, n. 2570)
Fl. Aug.”
“INDEX NOMINUM
JAPONICORUM. 693
Kisu Yanagi sô.
— Epilobium spicatum
(K*.).”
*K: 伊藤圭介をあらわすと思われるが未確認
Epilobium spicatum Lam. は,フランスの有名な博物学者ラマルク(ジャン=バティスト・ピエール・アントワーヌ・ド・モネ,シュヴァリエ・ド・ラマルク(Jean-Baptiste Pierre Antoine de Monet, Chevalier de Lamarck, 1744 -
1829))が,フランス産のヤナギランに,E. angustifolium とは別種としてつけた学名で,Fl. Franç.* 3: 482 (1779) に発表した.現在は E. angustifolium の synonym とされている.
*Fl. Franç.: Flore Française, ou descriptions succinctes de toutes les plantes qui croissent naturellement en France. Troisième édition, Tome troisième.
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