2010年9月14日火曜日

番外編 ヘクソカズラ

Paederia scandensx 

個体変異の多いヘクソカズラの花 (画像提供 いわきのトミーさん)
葉や茎を切ると特有のにおいを発する蔓草.万葉集には「屎葛(クソカズラ)」として,臭いではなく蔓を力強く伸ばして繁茂する生命力が賛美されている.
「*莢に延(は)ひおぼとれる 屎葛絶ゆる事無くみやづかへせむ  (16/3855,高宮王)」
*は草冠に皂で,カワラフジあるいはサイカチといわれているが,同じつる性のカワラフジ(ジャケツイバラ)に分がありそう.

花は小さいが可愛く,灰色がかった白と紅色の配色はエレガント.江戸時代初期には,悪臭はありながら観賞用として栽培されていたらしく,また落ちた花を水に浮かべて歌の材料にしていた.

伊藤伊兵衛著『花壇地錦抄』(1695)巻之三「藤並桂のるひ」,「百部桂(へくそかづら) 通草秋中秋初 葉ニあしき香也.白紫成小りんの花さく.そうとめかつら共云」
同じく巻之六 「草木植作伊呂波分」 ,
「へくそかつら 植分春秋合肥 」

伊藤伊兵衛著 『広益地錦抄』(1719)巻之五 薬草五十七種
「女青(へくそかづら) 蔓草冬もあり葉は春出両對きわめて悪臭あり花ハ薬種の丁子のかたち大キさも左のことく外ハうす白く花中紫落花をあつめて水にうかへて詠とせり實丸くちいさく多く付見るにたらず」
今はリースの材料として使われている実も「見るに足らず」と形無しである.
また貝原益軒著『大和本草』(1709)巻之八にも「女青」の項で詳しく記述されている(左図,中村学園HPより引用). なお,文中の「籮藦」とはガガイモの漢名

全草の臭いは特徴的で,漢名もいかにも臭そうな,鷄尿藤,狗屁藤,臭藤などである.
この臭気の元は細胞内に蓄えられたペデロシド (Paederoside 属名由来) という配糖体で,葉や茎が食害を受けることでこれが分解され,揮発性物質のメチルメルカプタン (CH3SH) が生成され悪臭として働く.従って,ヘクソカズラを食草とする昆虫はほとんどいない.一方ヘクソカズラヒゲナガアブラムシは,ヘクソカズラの汁を吸い,成分を体内に蓄積することで,テントウムシの捕食から逃れていると言われており,また,スズメガ科のホシヒメホウジャク,ホシホウジャクの幼虫もヘクソカズラを食草とすることが知られている.チョウの幼虫の多くは狭食性を示すが,このスズメガ科の幼虫は,誰も手を出さない植物を選択したことで,食草を独占できる.

2010年9月12日日曜日

ヤブラン 斑入りヤブラン

Liriope muscari cv.variegata やぶに生えて,葉がランに似ているというのでこの名がついたが,ラン科ではなくキジカクシ科の植物.葉は常緑で株は丈夫で育てやすい.ふちが黄白色になったフイリヤブランは,日陰でも明るい印象をあたえるので,植え込みなどによく使われる.ジャノヒゲとともに,被子植物でありながら子房は成長せず,果実ができなくても種子ができる数少ない植物で,種子は固い面に打ち付けるとスーパーボールの様に跳ね返る.葉は細くて強くそり返り,花は花被の下部が子房にくっついて,種子は黒色の薄い膜をかぶる.

根にはよいにおいのする紡錘形の肥大部分がでる.これを掘り取り,水洗いして天日でよく乾燥させると生薬,大葉麦門冬(だいようばくもんどう)となる.シャノヒゲの該当部分(麦門冬)の代用品として漢方薬に配合される.
また園芸種としては花色や葉の変異した'Lilac Beauty', 'Royal Purple', 'Samantha', 'Monroe White', 'Silvery Midget', 'Variegata', 'Gold-banded', 'Akebono', 'Evergreen Giant' などが知られる.


キャベツを食べに来たヒヨドリの糞中に排泄された種子(左)を冬に回収し,ポットに播いたところ,夏に芽が出てきた(右).


斑入りでないところを見ると我が家の庭のヤブランの子孫ではなさそう.

ほとんどが未消化のまま排泄されるのに,鳥が食べるのは他にめぼしい食物がないからか?それとも特別の誘引法を備えているのか?不思議

2010年9月8日水曜日

ニチニチソウ

Catharanthus roseusマダガスカル南東部及び東部原産で,欧州入植者の手により移出され,今では世界中で観賞用に栽培されるキョウチクトウ科の植物.原産地及び多くの土地で糖尿病の民間薬として使われる.1950年代に始められた研究で,ニチニチソウには70ほどのアルカロイドが含まれることが分かった(これらを総称してビンカアルカロイドと呼ぶ).このアルカロイドには血糖値を下げる作用も確認されたが,いずれも毒性が強く糖尿病治療薬として使えなかった.しかし,その研究途上でニチニチソウアルカロイドには,ラットで顆粒球を減少させ骨髄を抑制する作用のあることがわかり,抗癌成分の探索にきりかえられ,1958年にビンブラスチン(Vinblastine),1961年に類似成分のビンクリスチン(Vincristine)が単離された.これら2種のアルカロイドはいずれもチューブリン脱重合による強い細胞分裂阻害作用を有し,今日,臨床で抗腫瘍治療薬として用いられている.特に小児白血病に対し著効を示し,生存率を10%から90%に改善した.中枢神経刺激作用,心機能障害,痙攣,筋肉麻痺,嘔吐などの毒性があるので素人の利用は危険.たんに食すると嘔吐や下痢程度では済まないことになるとのこと.


日本では左馬之助著,享保2年(1717年成)の『諸禽万益集』に初出.また佐藤中陵(1762年-1848年)が水戸藩主徳川斉昭の命により編纂した『山海庶品』には「安永中,琉球ヨリ来タル-----安永六年,広ク四方ニ伝フ----寛政中,変ジテ白花ノ者出ヅ」とある(明治前園芸植物渡来年表 磯野直秀).



このところの暑さと乾燥でますます元気.センニチコウ(ローズネオン)と共に夏の花の少ない我が家の庭を彩る.

2010年8月17日火曜日

ミント

Mentha sp.
23 Woe unto you, scribes and Pharisees, hypocrites! for ye tithe mint and anise and cummin, and have left undone the weightier matters of the law, justice, and mercy, and faith: but these ye ought to have done, and not to have left the other undone. (Matthew XXIII)

‘mint’ の名は L menthe のなまりで,ローマ神話の妖精 Minthe に由来する.Minthe は地獄の河神 Cocytus の娘で,Pluto に愛されたのでその妻 Proserpine のねたみを買って,この草に変えられた.水辺に好んで生えるのも,もとは河神の娘だったからだという.

この草が野菜・薬草として古来高く評価されていたことは,パリサイ人が十分の一税(tithe)として mint,anise(アニス),cumin(ヒメウイキョウ)を納めていた(マタイによる福音書,XXIII,23)ことからも察せられよう.
「偽善な律法学者,パリサイ人たちよ.あなたがたは,わざわいである.はっか,いのんど,クミンなどの薬味の十分の一を宮に納めておりながら,律法の中で最も重要な正義・慈悲・誠実はないがしろにしている.これこそ行うべきことである.もとより、十分の一の献げ物も無視してはならないが.」

ローマ人もこれを盛んに用い,Plinyは,mintの香りをかげば頭がすっきりし,肉がむしょうに食べたくなると言っている.また,Ovid:Met- Amorphoses VIII, 631によれば,PhilemonとBaucisのふたりは,旅びとに身をやつしたJupiterとMercuryに食をふるまう前に,食卓を青いmintの汁で清めたという.この草はミルクの凝固・酸化を防ぐといい,したがって胃によいとされていた.
イギリスへはローマ人が伝えたものらしく,既に9世紀の尼僧院でも栽培していて,中世紀の植物誌でmintに触れていないものはないという.(英米文学植物民俗誌 加藤憲市著より 一部改変)

地植えにしてはいけないハーブのNo.1.以前頂いたミントを地植えにし,退治するのに数年かかった.今年もアップルミントを家内が買ってきたので,絶対庭に植えてはいけない,といって,鉢に植えさせたが,実際は使いもしない.
この花はもう数年,プランターの中で生育しているミントの花.種類は不明.

2010年8月15日日曜日

アサガオ(3)曜白梅咲き

Ipomoea nil (3)
1695 年の伊藤伊兵衛『花壇地錦抄』では白,赤,浅黄,るりと花色の違いで分類していたが,約 100 年後の小野蘭山 『本草綱目啓蒙』 (1803 - 1806年) 巻之十四上 草之七 蔓草類には

牽牛子 アサガホ ケニゴシ 仮君子 三日草
古、アサガホト云ハ木槿ナリ。故ニ万葉集秋七種哥ニ、アサガホトイフハ牽牛ニアラズ。牽牛ハ人家二多クウユ。花青碧色ノモノヲ黒丑卜云、マタ黒牽牛トモイフ。又白色ノモノヲ白丑ト云、マタ白牽牛ト云ナリ。葉ノ形ミナ三尖ニシテ互生シ微毛アリ。
品類尤多シ。花鼓子(チャルメラ)ノ形ヲナシテ五尖アルキノハ尋常ノモノナリ。又五弁筒マデキレクル者アリ。又花頭五尖ナルモノヲ桔梗ザキトイフ。葉モ亦五尖ナリ。其円弁ナルモノヲ梅ザキト云。尋常ノ花ノ形ニシテ中二小弁アルモノヲ孔雀トイフ。
紫アリ、淡紫アリ、紅アリ、浅紅アリ、間色ナルキノアリ。碧白相間ルモノヲ黒白江南花ト云、俗ニ、マツヤマアサガホト云。又藍色ニシテ紅点ナルモノアリ、又千葉ニシテ間色ナルモノアリ。弁多シテ重シ。故ニ正開スルトキハ茎自ラ折テ実ヲ結ビガクシ。

と,薬用の観点からの黒牽牛及び白牽牛の区別のほかに,桔梗咲き,梅咲き,孔雀咲き(二重?),八重咲きなどの咲き方や,花色の変化が多数あることを記しており,100年の間に観賞用の園芸種として改良が相当進んだことが伺える.
画像のアサガオは,その中の曜白梅咲きに当たるか.

2010年8月13日金曜日

ニホンカナヘビ

Takydromus tachydromoidesキジバトに続いて,仲の良いご夫婦の画像を.
日本固有種の爬虫類.鼻先から尾の先端までの全長は20cm程度.尾は全体の2/3を占め,体のほとんどが尻尾の感じ.トカゲと同様,捕まりそうになると尾を自切することがあり,その後尾は再生するが,再生した尾には骨がないので,完全な再生ではない.鱗には光沢がなく,表面はザラザラして乾いた感じに見える.背面は灰褐色 - 褐色で腹面は黄白色 - 黄褐色.側面には二本の黒褐色の帯があり,この2本の帯の間は黄白色の帯となっている.

古くはトカゲの一種と思われ,和漢三才図会では「蜥蜴」,本草綱目啓蒙では「石竜子」の項にトカゲと共に記述されている.
シーボルトの「日本動物誌『Fauna Japonica』(1833 -1850)」の爬虫・両生類(1842~1844)の分冊でヘルマン・シュレーゲルが新種として学名をつけた(『Fauna Japonica』のニホンカナヘビの原記載文(101頁)--京都大学電子図書館).テキストにはシーボルトが,長崎近辺にも棲息し,「シジムシ」と呼ばれていると水谷助六から聞いたと記されている.日本動物誌のニホンカナヘビの画像も
京都大学電子図書館で見ることが出来る(http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/b03/image/01/b03s0310.html).

最近,庭での棲息数が増加.春浅いうちは,日のあたる敷石の上で体を伸ばし,動きは鈍いが,温度が高くなると活動が活発となる.この画像を撮った時は夢中なのか,かなり近づいて写真を撮っても動きもしなかった.最近現れたこのご夫婦の子供たちかも知れない若い個体は痩せ型でスマート.増えて害虫を食べてくれることを期待している.

2010年8月12日木曜日

エビスグサ 杜甫,決明,視力を回復させる薬

Senna obtusifolia

雨中百草秋爛死 階下決明顏色鮮
著葉滿枝翠羽蓋 開花無數黃金錢
涼風蕭蕭吹汝急 恐汝後時難獨立
堂上書生空白頭 臨風三嗅馨香泣

秋雨嘆三首 (一) 杜甫(712- 770年)
In autumn rain, the grasses rot and die, / Below the steps, the Chinese Senna's colour is fresh.
Full green leaves cover the stems like feathers, / And countless flowers bloom like golden coins.
The cold wind, moaning, blows against you fiercely, / I fear that soon you'll find it hard to stand.
Upstairs the scholar lets down his white hair, / He faces the wind, breathes the fragrance, and weeps.

降りつづくながあめの中で、草という草はこの秋に当たってくさって枯れてしまったが、階の下の決明だけが黄色い色もあざやかに咲いている。
その葉は枝にいっぱいついて、翠羽(カワセミの羽)の車蓋のようだし,その花は無数で、まるで金の銭のようだ。
今やうすら寒い風が粛々としてしきりにお前を吹いている。恐らくはお前が、時におくれてやっと咲き出しても、いまさら独り立ってゆくことはむつかしいであろう。
いたずらに白頭となって来ているこの堂上の老書生は、風に向かって、いくどもお前のかおりを嗅ぎながら泪を流すのである。(目加田誠)

中国名は決明.熱帯地方に広く分布しているジャケツイバラ科の小草本.日本では一年草として扱う.草丈は1m以上になり,葉は互生し,5-6枚の小葉からなる羽状複葉である.茎や葉をつぶすと,不快臭がある.花は葉腋に一輪か二輪ずつ咲き,いびつな5弁花で,10本ある雄しべも不揃い.

3世紀頃に編纂された「傷寒論」や「金櫃要略」には見られないが,種子を漢方では決明子(けつめいし)といい.唐以降よく用いられるようになる.「決明子」とは,「眼をすっきりさせるタネ」という意味で,石決明(せっけつめい,アワビの貝殻)とともに,視力を回復させる薬として用いられてきた.

《本草綱目》「此馬蹄決明也,以明目之功而名,又有草決明、石決明皆同功者。草決明即青葙子,陶氏所謂萋蒿是也。」

陶弘景《本草經集注》稱「決明,葉如茳芒,子形似馬蹄,呼為馬蹄決明……又別有草決明,是萋蒿子,在下品中也。」

而草決明在《本經》中有記載,又稱牛尾花子、狗尾巴子。《本草綱目》中有「青葙子治眼,與決明子、莧實同功」的明述。


また,一方,便秘や排尿障害・高脂血症・高血圧などの生活習慣病の予防や改善に効果があるとされ,健康茶の一つとしてそのままあるいは,どくだみ・はとむぎなどと混合して売られていることもある.日本では,炒ったものを,お茶のようにお湯を注ぎ,少し蒸らした後,かすをこして飲む.中国や韓国では,生のものを煎じてのむ.少々不快な青臭いにおいと,苦みやえぐみがある.

本来「ハブ茶」というのは,同属の植物ハブソウの種子を用いるべきだが,現在利用されているのは,すべてエビスグサの方である.
(左:大和本草巻之十九「大和本草諸品図上」より)