2026年5月5日火曜日

ヤナギラン(6) 番外編

Epilobium angustifolium

久しぶりに 2011年のアナログ放送停止前日に録画した「名曲探偵アマデウス」の,「フィンランディア」を見ていたら,平原を埋めて風に揺られる一面のヤナギランの花が映された.触発されて,ヤナギランのあれやこれやを,

Epilobium angustifolium,Global Biodiversity Information Facility

  ヤナギランの類は北半球の亜寒帯および北極圏に広く分布する周極分布(Circumboreal distribution)を示す植物である(上図).また,「先駆植物(Pioneer plants)」として火事や崩壊,噴火の跡など他の植物に先駆けて進出し,丈夫で長い地下茎は先端や途中から多くの苗を出すので,一面に繁る.英名の Fire weed は,火事の後地にまず咲くからとも,大群落の花盛りの情景からとも言われる.冠毛を持った多くの種子を作り,風に乗ってその生育地を拡げる.


From Left to Right,
W Curtis “Flora Londinensis” Vol. 2, p101 (1777) Epilobium angustifolium
G.C. Oeder et al “Flora Danica, fascicle” 5, t. 289 (1761-1883) Epilobium angustifolium
W Curtis “Botanical Magazine” Vol. 3, t.76 (1790) Epilobium angustissimum (synonym of Epilobium angustifolium subsp. circumvagum)
Kim Hansen https://species.wikimedia.org/wiki/Epilobium_latifolium “Epilobium latifolium”

トランプが欲しがっているグリーンランドでは,矮性のヒメヤナギラン(E. latifolium)を国(地域)の花としているが,その現地名 “Niviarsiaq” はイヌイットの言葉で「女児」を意味するそうだ.画像(上図右端)を見ると,ヤナギランと比べると丈は低くその分花が大きく見えて,なるほどと思われる. 

 2011723日にNHKで再放映された「名曲探偵アマデウス」の,「シベリウス“交響詩フィンランディア”~美酒は謎の味わい~」は,個性的な日本酒を造る醸造元の女性当主が,より大衆受けのする酒を造る方針を発表した際,この名曲を聴いてほしいとのメッセージを残して行方を晦ました老職人の,真意を探る謎解きの話である.その中のシーンには,フィンランドの平原の風にそよぐヤナギランの花が,シベリウスの言葉「作曲するときにピアノはいらない.必要なのは静けさと自然だけだ」と共に写し出されて,深い余韻を残した.

 英國に於いては,ヤナギランは特別の意味を持つ.第二次大戦中,ナチスドイツの空爆やロケット攻撃によって破壊され(London Blitz),できた荒れ地に,まずこの植物が生命力豊かに繁茂し美しいバラ色の花で覆った.この花に力づけられたロンドン市民はこの花を「ロンドンの誇り “London Pride”*」と呼んだ.
 * London Pride: 1700年代から,この名で呼ばれる植物がある.学名 Saxifraga x urbium というユキノシタ科の植物で,当時の大気汚染下のロンドンでも可憐な花をつける事が賞され,多く栽培された.
 

  1969年の822日,ジョン・レノンと小野洋子夫妻が呼びかけてビートルズの四人が,当時夫妻が住んでいた ”Tittenhurst Park” に集まった.ここで撮影した写真が “The Beatles’ Final Photo Shoot” となってしまった.庭で,残んの花をつけたヤナギランの中の彼らの画像が最後の四人そろっての写真になるとは,誰もが想像していなかったとのこと.
 
 1971年公開の英国映画「小さな恋のメロディー “Melody”」は少年少女の恋を瑞々しく描いたロマンティック・コメディである.ラストシーンで,主人公(ダニエル・ラティマー(マーク・レスター)とメロディ・パーキンス(トレイシー・ハイド))が,廢線となった駅から手漕ぎトロッコでロンドンへと漕ぎ出すシーンでは,線路の両側はヤナギランの花盛り.クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング(Crosby Stills & Nash)の “Teach your children” と共に印象的であった.
 
 筆者が英国留学のために羽田空港を飛び立ったのは 1977 年.当時日本航空はソ連上空は飛行できず,アラスカのアンカレッジ経由の大回り経路を通った.周りに何もない空港であったが,購入したのは “Flowers of Alaska” のスライド.その中に,三枚ほどのヤナギランがあった.一面に平坦地を埋め尽くす花盛りのヤナギランはまさに “Fire weed” .

 TBS の「世界遺産」をよく観ているが,自然遺産の旅の画像に,ヤナギランが現れる事がある.2018923日放映のイタリアの「エトナ山 Mount Etna」では,噴火後火山灰に覆われた地面にいち早く進出し,花をつけたヤナギランが映された(上図左端,中央).また.2018122日放映の,カナダ・アメリカ合衆国にまたがる「ウォータートングレーシャー国際平和自然公園」では,2017年にカナダ側でおきた山火事の後の焼け跡に生育したヤナギランと,シロイワヤギのトゥーショットが見られた(上図右端).

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