Ipomaea
purpurea
2015年10月 茨城県南部 |
アサガオ (Ipomaea nil) は日本へ中国から奈良時代に移入されたが,観賞用としてよりは,その種子の瀉下剤としての薬用の有用性が高く評価されたからである.現在ではマルバアサガオにも同様の薬理活性があるとされている.
★木村康一,木村孟淳『原色日本薬用植物図鑑』保育社 (1981) 「アサガオ Pharbitis nil
種子を牽牛子(けんごし,Pharbitis Semen)と呼んで,瀉下薬とする。種皮の色によって白牽牛子と黒牽牛子に区別するが,薬効に差はない。瀉下作用はきわめて強く,1日0.2g~0.3g(粉末)で緩下薬,0.5-1.5gで峻下薬となり,それ以上用いる時は注意を要する。通常エタノールで抽出したエキスから水溶性物質を去った樹脂を牽牛子脂(けんごしし,Resina Pharbitidis)と呼んで使うことが多い。薬用植物としての産地は奈良,徳島,和歌山などの各県があげられる。有効成分は樹脂配糖体のpharbitinで,ほかに11%の樹脂油が見いだされている。
同属のアメリカアサガオ P. hederacea CHOISY,マルバアサガオP.
purpurea VOIGT.なども種子が牽牛子として用いられている。」とあり,マルバアサガオもアサガオと同様,その種子は瀉下剤として用いられるとある.
現代中国においてもネット上の★『藥用植物圖像數據庫』(2015年11月8日閲覧)で
「圆叶牵牛(註 繁文では圓葉牽牛)
「圆叶牵牛(註 繁文では圓葉牽牛)
【中文名稱】 圓葉牽牛,牽牛花圓葉牽牛,牽牛花
【藥用部位】 以種子入藥。中藥名: 牽牛子。
【藥理作用】 瀉下、利尿作用。
【性味功能】 苦、辛,寒,有毒。瀉水消腫,瀉下通便,殺蟲攻積。
【主治用法】 水腫,喘滿,痰飲,腳氣,蟲積食滯,大便秘結。內服: 入丸、散,1-3分;煎湯,1.5-3錢。」
と種子には下剤,利尿剤として,アサガオ種子(牽牛子)と同じとみなされ,遼寧では栽培されていることを記している.
アサガオの種子は牽牛子として知られ,★李時珍『本草綱目』(明代,1596)『本草綱目 草之七 蔓草類』の「牽牛子」の項には「【主治】下氣,療腳滿水腫,除風毒,利小便(《別錄》)。治痃癖氣塊,利大小便,除虛腫,落胎(甄權)。取腰痛,下冷膿,瀉蠱毒藥,竝一切氣壅滯(大明)。和山茱萸服,去水病(孟詵)。除氣分濕熱,三焦壅結(李杲).逐痰消飲,通大腸氣秘風秘,殺蟲(時珍)。」とある.
★『頭註国訳本草綱目 第六冊』白井光太郎(監修),鈴木真海(翻訳)(1931)の「第十六巻 蔓草類 牽牛子」の頭註には
「木村(康)*曰,あさがほノ種子ハ峻下剤トシテ有効ナレドモ,ソノ瀉下作用著シキヲ以テ注意ヲ要ス.用量ハ一―三瓦ヲ粉末トシテ内服シ,局方ヤラツパ根ニ代用スルヲ得ベシ.叉牽牛子ヲ細砕シ酒精ニテ温浸シ,浸液ヨリ酒精ヲ溜去シ,残渣ヲ水洗シタル後水浴上ニテ乾燥セシメテ製シタル物質ハヤラッパ脂ノ代用トスベク,一回用量ハ〇・五~〇・七瓦トス.尚英国局方ニ Kaladana (Pharbitis seeds) トシテキスルモノハまるばあさがほノ乾燥セル種子ニシテ,複方カラダナ散(Pulvis Kaladanae Compositus)カラダナ脂(Kaladana resin)カラダナ丁幾(Tincture Kaladana)等ノ製剤アリ.複方カラダナ散「カラダナ三,重酒石酸加里六,生姜一」ノ割合ニテ各ノ粉末ヲ混ジテ製シ,一日量〇・六五~四・〇瓦ヲ服用ス.生薬学,英局方,猪子吉人,東京医事新報,明,二四(六八一)五七一(六八二)六一八.」とある. *考定者の一人,木村康一
頭註 |
この,「英国薬局方」に「まるばあさがほノ乾燥セル種子Kaladana
(Pharbitis seeds) 」より得られた「複方カラダナ散(Pulvis
Kaladanae Compositus)カラダナ脂(Kaladana
resin)カラダナ丁幾(Tincture Kaladana)等ノ製剤」が,記載されているか,調べたが,実際には主に熱帯英植民地の民俗自然薬物を記載した局方追補(当局承認) “THE BRITISH PHARMACOPOEIA
1898, INDIAN AND COLONIAL ADDENDUM” (1900) 「英国局方 印度及び植民地追補」には記載されていた.但し起源植物はアサガオ或はアメリカアサガオとされ,マルバアサガオとは,されていない.
該書の31ページには “KALADANA. Kaladana. Synonym.—Pharbitis
Nil. The dried seeds of Ipomoea hederacea, Jacq.” とあり,以下規格及び試験法が記載されているが,効用についての言及はない.
I. nil c. v. hinomaru |
遡ると,1868年の “PHARMACOPEIA
OF INDIA 印度薬局方” に,” PHARBITIS NIL, Choisy. KALADANA” の項があり,薬理については
“Active principle, a resin, Pharbitisin (infra)., Properties
and Uses. " Safe and effectual cathartic, closely resembling in properties
and uses officinal jalap, for which it forms an excellent substitute, though
not quite so active in operation.” とそのレジン(脂)はヤラッパ程ではないものの,十分その代替物となる,安全な下剤であるとしていて,インドではアサガオを古くから下剤として用いていたことが分かる.
現在の『日本薬局方(JP 16)』の「医薬品各条 - 生薬等」には,アサガオの種子が「ケンゴシ Pharbitis seed, PHARBITIS
SEMEN, 牽牛子 本品はアサガオ Pharbitis
nil. Chosy (Convolvulaceae) の種子である.(以下性状,灰分,貯法)」として収載されている.
一方,マルバアサガオの種子には,幻覚剤としての作用があると考えられていたとの記述もある.次記事.
以上の記事で,学名は該図書文献文書の記載に準じた.
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