Ipomoea purpurea
2015年10月千葉県北部 マルバアサガオ園芸種 |
マルバアサガオ Blog-1 に述べたように,新大陸から移入されたこの植物の支持物への巻きつき方は,歐州で親しまれていた蔓植物ホップと逆になるためか,注目されたようで,
英国の園芸家,★ジョーン・グッドイヤーは,1621年の日記で,Convolvulus coeruleus(マルバアサガオ)が “windinge wrappinge and turninge them selves against the sunne,
round sticks or poles”,と,また★ジョン・パーキンソンは『太陽の園,地上の園』 (1629) に “Convolvulus caeruleus major rotundifolius, it climbeth and windeth upon any poles,
herbes, or trees, that stand neare it within a great compasse, alwaies winding it selfe contrary to the course of
the Sunne “ と記した.更に,★トーマス・ジョンソンは,ジェラードの『本草あるいは一般の植物誌』の増補改訂版(1663)に,” windings, wrapping
it selfe against the Sun, contrary
to all other things whatsoever,” と記し(ジェラードの『本草あるいは一般の植物誌』の初版には,この記述はない),いずれもマルバアサガオの蔓の巻き方を
“against the sun” と,(北半球の)太陽の運行(東→南→西)とは逆の方向としている.
また,進化論で有名な★チャールズ・ダーウィンは 1865 年(第1版)と,1876年(改訂版)の “On the movements and habits of climbing plants.” (左図)で,多くの巻きつき植物の旋回運動と巻きつき運動を観察・実験し(旋回運動と巻きつく向きは同じ),” Convolvulus major* (Convolvulaceæ), Ipomoea purpurea (Convolvulaceae)
moves against the sun.” と記述し(データより同一植物),一方ホップはこの逆の運動をするとした.(*第1版での名稱)
Chap. I. TWINING PLANTS.
(DICOTYLEDONS.)
Ipomœa purpurea (Convolvulaceæ) moves against the sun. Plant placed in
room with lateral light. (改訂版)
1st circle was made in 2 hrs.
42 m.
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Semicircle, from the light in 1
hr. 14 m., to the light 1 hr. 28 m.: difference 14 m.
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2nd circle was made in 2 hrs.
47 m.
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Semicircle, from the light in 1
hr. 17 m., to the light 1 hr. 30 m.: difference 13 m
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彼は,この旋回し,巻く方向には光は関係していないが,蔓が上方向に伸びるには重力が関係していると推測した.
この様に,英国では,マルバアサガオの蔓の巻き方は,「太陽の運動方向と逆方向」と観察されていた.但し,太陽の運行方向を基準とすると,南半球では北半球とは逆になり,絶対的な巻き方の定義とはならない.
巻きつき植物の蔓の巻き方を右巻きとするか,左巻きとするかは,成長方向の根元から見るか(見上げるか),先から見るか(見下ろすか)で,逆になる.現在ではこの「太陽の運行方向と逆方向」の巻き方は,「右巻き
dextrorse」と記述するのが適切と考えられる(日本植物学会「学術用語集植物学編」(1956).なお,左巻きはsinistrorse).したがって,アサガオ類の蔓の巻き方は,右巻きである.
一方,中国や日本では巻きつき植物の巻きかたには,あまり注意は払われなかったようで,本草綱目,和漢三才図会,本草綱目啓蒙での「蔓草」のジャンルの各植物にはそのような記述は見つけられなかった.(最下段 追記参照)
しかし,★貝原益軒『大和本草』巻之一(1709)に「論物理」(もののことわりを論ず)の章があり(右図,WUL),以下のように書かれている. (最下段 追記参照)
しかし,★貝原益軒『大和本草』巻之一(1709)に「論物理」(もののことわりを論ず)の章があり(右図,WUL),以下のように書かれている.
「蔓草ハ皆左旋(サセン,左ニメクル)ス 天ノ左旋ニ順フ也 左旋トハ左ヨリ上リ右ニ落ルヲ云
天道ハ左旋ス 日月星皆同シ 人ハ北ヲ背(ウシロ)ニシ南ニ向ヘハ左ハ東 右ハ西ナリ 日月天行皆東ニノホリ西ニヲツ 是レ左旋ナリ順ナリ
茶臼ノメクルモ蔓艸ノ物ニマトフモ皆左旋ナリ 右ヨリ上リ左ニ落ルハ右旋ナリ 逆ナリ 或ハ茶臼ノ旋ルモ蔓草ノ物ニマトフモ皆右旋ト云人アリ 非ナリ ヨク思フヘシ 人力ヲ以テセスノ天氣ト茶臼ト蔓草トノメクリヲ以テ考フヘシ」
大和本草 第一巻 目録 蔓艸 |
益軒はアサガオに限らず,すべての巻きつき植物が左巻きであると断じている.その左巻きの定義として日月の天行の向き(東→南→西)を挙げているのが,英国での観察と同じように,太陽の動きと関連付けているのは興味深い.「左旋」は「左へ向う」ではなく,「左から」動くのであるのだが,結果的に現在の「左巻き」と同一である.
貝原益軒『大和本草』巻之八 草之四 蔓艸 には,37種の蔓草とされる植物が記載されている(上左図,WUL)が,そのうち巻きつき植物は15種と考えられ,現在確認されているそれぞれの巻き方は表の右端に示した.「蔓草ハ皆左旋ス」と益軒は言っているが,実際は「右旋」の方が多い.
『大和本草』巻之八 草之四 蔓草 のうち,巻きつき植物と確認された植物の巻き方
わが国の植物学の草分けとして名高い貝原益軒でさえ,こと蔓の巻き方に関しては,教条的に「太陽の動き,臼の回り方と同じ」と,実際の巻き方を見ないで,左巻きと断定している.
我が国の植物図鑑における,右巻き・左巻きの定義は,時代により,また著者により一定していない.参考サイト 2. に詳しい.
物理小識 |
我が国の植物図鑑における,右巻き・左巻きの定義は,時代により,また著者により一定していない.参考サイト 2. に詳しい.
参考サイト
1. アサガオの茎の旋回運動と巻きつき行動の微速度撮影動画.
morning glory
tendrils showing thigmotropism (https://www.youtube.com/watch?v=m2xKjA69jNM),
Twining
motion of vines (https://www.youtube.com/watch?v=dTljaIVseTc)
2. 図鑑の推理 〔左右巻定義における、図鑑記載での混乱理由・牧野式定義の原点、などを推理する〕 (homepage2.nifty.com/syokubutu-kensaku/topic22.htm)
3. 広島の植物ノート特集-Ⅰ つる植物の右巻きと左巻き (forests.world.coocan.jp/flora/issue/issue-1b.html)
マルバアサガオ-5 種子は幻覚剤? Flowers and Their Histories,フランシスコ・エルナンデス,オロリウキ,ウルビナ,ホフマン,LSA含量=0.
マルバアサガオ-7 条斑点絞咲き,トランスポゾン,曜斑点咲き(ミルキー・ウェイ),花色の変化.
以下は2016年1月19日の追記
マルバアサガオ-5 種子は幻覚剤? Flowers and Their Histories,フランシスコ・エルナンデス,オロリウキ,ウルビナ,ホフマン,LSA含量=0.
マルバアサガオ-7 条斑点絞咲き,トランスポゾン,曜斑点咲き(ミルキー・ウェイ),花色の変化.
以下は2016年1月19日の追記
一方,中国明時代の哲学者★方以智
(1611-1671) の『物理小識』(画像は康煕三 (1664) 年序刊本,NDL)の「卷九 草木類 草木通理」には「藤刺之用○蔓艸皆左旋
盖體天左旋也 陰而承陽也 藤能入筋 象筋也 有刺者辛而走竅 夜合楊梅刺
其葉夜合 辛而属陰 其性破血」とあり,蔓草は皆左旋し,これは天体の動きと同じだとあり,幾つかの例が挙げられている(ようだ).
上記の★貝原益軒『大和本草』巻之一(1709)の「論物理」(もののことわりを論ず)の章は,これを参考にした可能性がある.
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