2022年10月6日木曜日

シロバナマンジュシャゲ(2)学名原記載 小泉源一,ヒガンバナとショウキズイセンの交配種 牧野富太郎

Lycoris x albiflora Koidz.

暑さも一段落,庭では,三度目の月下美人の開花シーズンも終わり,ヒガンバナとシロバナマンジュシャゲが花を開いている.

 庭では山口の姉からもらった球根が増えた.関東地方ではまだ珍しいらしいが,球根が市販されているようで,最近はところどころで見かける.庭の個体の花は親のヒガンバナとショウキズイセンの血の濃さに従ってか,牧野富太郎の観察のように,咲き始めは赤味が濃い個体や黄味が濃い個体があり,終わりになっても真っ白になることはない.咲く時期はヒガンバナよりやや早く,ヒガンバナに比べると,花茎の色はやや紫がかっており,花後に拡がる葉はやや幅広く,上面色は薄く,白い筋は入っていない.球根もやや大きいようである.

両者が混合して咲くとなかなか美しいが,残念ながらいずれも花期はそれほど長くはない.

 学名をつけたのは日本植物分類学会の創立者,小泉源一1883 - 1953)で,栽培品を基に,1924年に新種として発表した(『植物学雑誌,Bot. Mag. (Tokyo) vol.38, p.100 (1924).

その約二十年後,牧野富太郎は,自身が九州の知り合いから貰って育てていたシロバナマンジュシャゲの観察結果を,より平易な言葉で『シロバナマンジュシャゲの記』(植物分類,地理 Vol.13, p. 17 (1943))美しく,精密正確な図とともに述べ,その性状や形状から本種は赤い花を咲かせるヒガンバナと黄色い花を着けるショウキズイセンの交配種であろうと考察し,原産地は肥前五島方面或は南九州と考案した.また『植物一日一題』では,純白の花を見たと言い,さらに『牧野日本植物圖鑑. 増補』(1955) にもこの考察を記し,生育地は九州及び済州島とした.

 


小泉源一植物学雑誌Bot. Mag. (Tokyo)vol.38, p.100 (1924

Contributiones ad Cognitionem Frorae Asiae Orientalis
By G. Koidzume Rigakuhakushi

 

Lycoris albiflora n. sp.

Species L. radiatac HERBERT. affinis sed floribus albis parvioribus,
tepalis minus recurvis, staminibus brevioribus, versus apicem leviter dec-
linatis nec curvato-ascendentibis, filarnentis albis brevioribus, styls albis
brevioribvs, ovario globoso-ovoideo profunde trisulcato ; forum pedicellis
duplo triplove brevioribus latioribusque differt.

Folia hibernalia, linearia apice rotundata 12-13 mm. lata. duplo
latiora quam in L. radiata, circiter ad 25 cm. longa, supra nitidula
subtus opaca.

Flores in septembri ad Novembri.
N
OM. JAP. Shirobana-manjushake.
H
AB. in Japonia culta. forsan in insula Amamiohshima spoatanea.

「ヒガンバナではあるが,白い花はより小さく,花被はあまり湾曲しない.雄蕊は白く短く湾曲も小さい.花柱も短い.冬季の葉は線形で先端は丸みを帯び,幅広くヒガンバナの約 2 倍で 12 -13 mm,長さは約 25 cm.葉の上面には光沢があり,下の色は濃い.花期は9月~11月で,和名は「シロバナマンジュシャケ」,日本で栽培されているが,奄美大島には多分自生している.」(私訳)とある.

 


牧野富太郎 植物分類,地理Vol.13 p. 17-19 (1943)

シロバナマンジュシャゲの記

牧野富太郎

On Lycoris albiflora
Tomitaro M
AKINO

  曾て京都帝國大學教授小泉源一博士に由て我邦マンジュシャゲ(ヒガンバナ)屬の一新種として命名發表せられた者にシロバナマンジュシャゲ即ちLycoris albifiora Koidaumi
がある,本種は疑ひも無く我が日本で絶て無くして僅かに在ると評せられる稀品と謂つて
も敢て誣言では無いのである。

 此シロバナマンジュシャゲの原産地に就ては私はまだ之れを知るには及ばないけれど,
其れは惟ふに確か九州の者であらうと想像する,そして或はヒョツトすると肥前五島方面
乎或は南九州乎の原産では無い乎と云ふ樣な感じがする,幸に誰れ乎其野生せる産地を知
つてゐられる御方があれば斯學の爲め叉我がフロラの爲め其れを個で公にせられん事を望
んで止まない。

 私は先年其生根を前の知人から得て爾來今に至るまで十年近くも之れを愛撫してゐる
が,其間威勢よく生活して年々其時期には能く開花してゐる,今此處に掲げた圖は其れを
寫生し叉其生態を撮影した者である。そして其繁殖は極めて旺盛で,年々其仔球を増して
行く事宛かも普通のマンジュシャゲの如くである。

 今熟ら其れを觀察して靦ると,其れは疑も無く一の間種即ちhybrid である事が首肯せ
られる,そして其兩親は赤花を開くマンジュシャゲ即ちヒガンバナ(Lycoris radiata
Herb
.)と,黄花を開くショウキラン(Laurea Herb.)とである事が想像し得られる,
即ち其れは今絶對に實をむすばないマンジュシャゲが能く實を結ぶショウキランにかヽつた
もので,乃こで結實し此間種を出生させた者であらう。然かし是れは單なる外觀觀察であ
るから,誰れ乎此兩親と看徹さるヽ マンジュシャゲとショウキランとの兩品幷に其子と看
倣さるヽ此シロバナマンジュシゲに於ける染色體の研究を爲て見たら,必ずや蓋し其外
觀觀察と一致する結果を把握し得られ愈よ之れが間種なる事を確定する事が出來るでは無
い乎と思はれ私かに其學者に期待する所である。

此シロバナマンジュシャゲは其種名の albiflora が示してゐる樣に,其花は先づ先づ白
色であると謂って可いが,然かし雪の樣な純白色であるとは謂へなく常に微しくウルミが
ある事を免がれ得ない,そして隠々微黄色を帯ぶる者が多く其黄采は花の咲き初めに於て
稍濃厚であるを覺ゆる。叉株により始め微黄色で後ち白色と成る者も多い,叉株によりて
は多少淡紅色を帶ぶるものも見られるが,然かし花蓋片の邊縁は漸次に淡白色と成つてゐ
る,叉株により花蓋片の上部極淡紅で下部多少極淡黄色を呈する者もある,叉株によつて
は花蓋片の中部と下部とが淡紅色を呈し上部幷に其邊縁の方は次第に淡く成つてゐる者も
ある,或は叉株によつて白色花蓋片の一に一,二條の紅色線を出現さす者も見られる,要
するに其花色は各,株の異なるに從つて多少の相違ある事が認め得られる。

 花は九月葉に先だつてマンジュシャゲの花と同時に發らき之れを混植して置くと紅白相
映じて頗る美しい,そして其花序の狀,花序に於ける花數,叉葶の形狀大小高低色彩は全
くマンジュシャゲの其れ等と同じく,又花後に決して實を結ばない事も同樣である。

 葉は無論花了つて後に萠出し冬の霜雪を凌いで一,二月に盛茂し三月に至れば萎黄して
枯死に就く事宛かもマンジュシャゲ幷にショウキラン其等の者と同じである。そして其葉
は無論マンジュシャゲ葉と同形でも無く,叉ショウキランとも同じでは無い,然かし其れ
は何ち等乎と謂へばショウキランの葉に其形質も其帶黄な緑色も能く似てはゐるが其葉幅
に至ては其れよりは狹い,されどマンジュシャゲの葉とは大分徑底があつて其れは彼れの
樣に狹く無く叉彼れの様に濃線色をば呈してゐない。

 襲重鱗莖(tunicated bulb)はマンジュシャゲの其れよりも太く,ショウキランの其れ
よも小く,即ち其中問の太さを占めてゐる。
 以上は誠に咄嗟に筆を馳せた疎漫な記事ではあるが,無限に永く生生繁殖する此
Lycoris albiflora Koidzumi
其者を以て私は其名け親である小泉博士を祝福する事にし
た。

牧野富太郎『随筆 植物一日一題』(1953)

狐ノ剃刀

 キツネノカミソリ、それは面白い名である。(中略)
   この属すなわち Lycoris 属には日本に五種があって、その一は右のキツネノカミソリ、その二は桃色の花が咲き属中で一番大きなナツズイセン、その三は黄花の咲くショウキラン、その四は赤花が咲き最も普通でまた多量にはえているヒガンバナ一名マンジュシャゲ、その五は白色あるいは帯黄白色の花が咲きヒガンバナとショウキランとの間の子だと私の推定するシロバナマンジュシャゲである。今日までまだ純粋の白色ヒガンバナを得ないのが残念であるが、しかしこれはどこかにあるような気がする、というのは数年前摂津の某所にそれが一度珍しく見つかったことがあったからである。惜しいことには、その白花品をある小学校の先生が他へ運んでついになくしたという事件があった。私は人に頼んでその顛末を詮議してもらったけれど、ついにそれを突き止めることが出来ず、よく判らずにすんでしまった。

(後略)」

牧野富太郎『牧野日本植物圖鑑. 増補(1955)


3691図 ひがんばな科

しろばなまんじゅしゃげ

Lycoris albiflora Koidz.

 九州及び済州島に稀に発見される多年生草本で、時に人家で観賞のために栽植される。ヒガンバナとショウキランの雑種と推定される。地下の重襲鱗莖は卵形で黒褐色、横径4cm内外。葉は秋に出で、1-2月頃最も繁り、線形で軟質、黄緑色で、ヒガンバナより淡く、巾 10-15 mm、春に枯れる。秋10月頃高さ40-50 cm の中空の花茎を抽き出して、膜質の総苞を反転し、繖形に外向して10数花をひらく。小梗は長短があり、花はヒガンバナと同大であるが、6個の花蓋片は強くは反曲せず、辺縁の皺曲も弱く、6個の絲状雄芯は彎曲して、長く花外に超出する。花色は株によって変化があり、純白に黄、或は淡紅を帯びる。果実を結ばない。

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