2022年12月17日土曜日

ガーンジー・リリー,ダイヤモンド・リリー (3)  R. ラパン, J. イーヴリン younger, J. ガーディナー younger

 Nerine sarniensis 


前記事に記したように,フランスでは,ガンジー島に近く,またその気候が適している事もあってか,ガーンジー・リリーが英国より早くから広く栽培され,愛されていた.
 フランス人のイエズス会員,詩人・修辞家としても知られるルネ・ラパン (René Rapin , 1621 1687) は,ギリシアの詩人,テオクリトスの田園を詠む「牧歌」の流れを汲む「庭園詩」とも言うべき ”Hortorum libri IV(1665) で,ガーンジー・リリーの花の色や輝きを美しいラテン語詩で詠い上げた.

 ラパンのこの詩集は,園芸が盛んになってきた英国でも好評を博し,John Evelyn the younger (16551699) と,James Gardiner the younger (1689 - 1732) によって英訳され,それぞれ版を重ねた. 

ルネ・ラパン (René Rapin , 1621 – 1687) はフランス人のイエズス会員,詩人・修辞家としても知られる.代々続く薬剤師の一家に生まれたが,1639年にイエズス会に入会し,修道会の大学で修辞学の教授となり,1651 年には司祭に叙階された.1656年から文筆家として活動し,”Eclogæ Sacræ” (1659) により、「第二のテオクリトス」と呼ばれるようになった.ギリシアの大詩人,テオクリトス (Theocritus, 310 B. C. – 250 B. C.) の田園を詠む「牧歌」の流れを汲む,Hortorum libri IV” (1665) では,それまで「牧歌」の対象とされていなかった庭園の花卉をも主題にした.主にアンリ4世(Henri IV1553 - 1610)とその2番目の王妃マリー・ド・メディシス(Marie de Médicis, 1575 - 1642)の庭園から題材を得たとされる.
 このラテン語の詩集は好評を博し,彼を当時最も高く評価されたラテン語の詩人の 1 人にした.この詩集はJohn Evelyn the Younger (1673) 及びJames Gardiner (1706) によって二度も英訳された.


 この詩集は題名通り,LIBER PRIMUS FLORES.LIBER SECUNDUS NEMUS.LIBER TERTIUS AQUÆ.LIBER QUARTUS POMARIUM. の四部からなる.その “lib. I. p. 25.” “NARCISSUS JAPONIUSと題された詩が収載されていて,ガンジー・リリーの花を,古代紫(ギリシャ・ローマ時代に貝から採集したあざやかな赤紫色),濡れたような艶,星のきらめき,つづれ織りの金糸の輝きなど,花被の色や輝きを美しい言葉で詠い上げている.また文面から,フランスの庭園ではそれほど希少ではない事,栽培も難しくはない事も伺える.

‘Renati Rapini
Socoetatis Iesu
Hortorum
Libri IV et Cultura Hortensis’

NARCISSUS JAPONIUS

Narcisssus, flores lucenti concolor ostro,
Auratisque litus maculis, ceu sparserit imber.
Aureus, egregium texto sub murice florem,
Qui possit Tyrios foliis hebetare tapetas.
Vosque boni, vos illum Hortis inducite crebrum,
Cultores, rurique nouum decus addite Franco.”

なお,この詩は立派な6 歩格 (hexameter) で作られているそうだが,なんのこっちゃ?

 英国の文筆家で著名な園芸家でもあったジョン・イーヴリン (John Evelyn, 1620 – 1706) の同名の息子,John Evelyn the younger (1655–1699) は翻訳家である.John Evelyn the younger 1667 年に,若いながらオックスフォード大学のトリニティ・カレジに入学したが, 1669 年の3月にはテンプル法曹院に移り,1673 年の5月にはトリニティ・ハウスのYounger Brethren になった.1675年にはフランス大使バークレー卿に随行して渡仏したが,次の年の5月に帰国.その後,政府の出先機関に勤務中,名誉革命(1688 - 1689)時にはウィリアム3世側に立ち,ジョン・ラブレス (第三代ラブレス男爵)の部隊に加わってオックスフォードの防衛に奮戦した.アイルランドへ赴任中に罹患し,ロンドンに帰ったが,父に先立ってその生涯を終えた.

彼は,ラパンの”Hortorum libri IV” (1665) “Of Gardens. Four books. First written in Latin verse by Renatus Rapinus, and now made English,” (1673) と題して英訳したが,この詩の評価は,James Gardiner the younger の翻訳に比べると必ずしも高くはない. Google transfer で読み上げると,確かに,Gardiner のそれより,口調や押韻が劣るように思われる.

その訳詩集は 'Of Gardens. Four books. First written in Latin verse by Renatus Rapinus, and now made English,’ London, 1673, dedicated to Henry Bennet, 1st Earl of Arlington. と題され,Book I. Flowers., Book II. Woods., Book III. Water., Book IV. Orchards の四部からなる.その第一部.Book I. Flowers. には,

“Purple Narcissus of Iapan now flow'rs,
Its leaves so shine, as if with golden showers
It had been wet; which makes it far out-vy
The lustre of Phoenician Tapestry.
Therefore t'augment the grace of France, 'tis fit
This flow'r into our Gardens we admit.
'Tis true, it hardly answers our desires
At first, but longer culture still requires.
Yet let not this occasion our despair,
When once it blows, 'twill recompence our care.”

とある.

 James Gardiner the younger (1689 - 1732) は,イギリスのリンカーン英国国教会の副主任牧師(sub-dean)であり,作家および翻訳者でもあった.
 ガーディナーは,1695 年から 1705 年までリンカーンの司教だったジェームズ・ガーディナー(James Gardiner, 1637 – 1705)の息子で,1695 年にケンブリッジのエマニュエル カレッジに入学し,学士号を取得した. 1699 年に 16 代目の数学の学位試験の一級合格者(ラングラー)となり,1700 年にはジーザス カレッジのフェローに選ばれ,1702 年には修士号を取得した.
 1704 4 20 日,ガーディナーは父親からピーターバラのセント ジョンズ病院のmastershipを提供され,同年 4 月,先任のJ. ナイトン博士 (1694-1704) の死後,リンカーン大聖堂の副主任牧師(sub-dean)及びアスガービー地区にある大聖堂の参事会員に任命された.彼は 1731 年もしくは1732 年にリンカーンで死亡し,大聖堂の回廊にある父親の墓のそばに埋葬された.


ラパンの詩集の英譯は “Rapin of Gardens ... A Latin poem ... In Four Books ... English'd by Mr. Gardiner” と題され,BOOK I. Of FLOWERSBOOK II. Of TREESBOOK III. Of WATER BOOK IV. Of ORCHARD の四部からなる.その第一部に

“Late from Japan's remotest Regions sent,
Narcissus came array'd in purple Paint,
And num'rous Spots of yellow stain the Flow'r,
As richly sprinkl'd with a golden Show'r :
The radiant Tinctures may with Tap'stry vye,
And proudly emulate the Tyrian Dye ;
Which Flow'r, ye skilful Gard’ners, often plant,
Let not our Nation this fair Beauty want ;
And though the answer not your common Care,
No Cost, no Labour on her dressing spare ;
For should she but her conqu'ring Charms display,
From every Fair she bears the Prize away.”

とある.この文をGoogle翻訳 で読み上げさせると,押韻が美しく耳に心地よい.

0 件のコメント: