Hibiscus coccineus
北米南東部の湿地に自生し,寒季に上部が枯れる背の高い多年生草本.大きい緋色の花が目を引き,’ Field Guide of North American Wildflower – Eastern Region’ (Audubon Society, 2001)’ でも ” It is certainly one of the loveliest of our native flowers.” と紹介されるなど,米国でも高く評価されている.
現在有効な学名-正名 Hibiscus coccineus Walter の原記載は Flora Caroliniana, 177 (1788),種小名の coccineus とは「緋色の」の意味で,花の色に由来する.一方 Hibiscus speciosus という学名の,性状のよく似た植物が記録されている(Ait. Hort, Kew.
2. p. 456).これは Hibiscus coccineus の異名だという説もあるが,IPNI では,”Unchecked” とあり,その正体は不明らしい.しかし
Curtis の “Botanical
Magazine” の図などを見ると,素人目ではモミジアオイとの違いは分からないので,以下の記事では同列に扱う.
モミジアオイの現在有効な学名は Hibiscus coccineus であり,原記載文献は “Flora Caroliniana” (1788) である.著者のトーマス・ウォルター (Thomas Walter, c. 1740 - 1789) は,英国ハンプシャーに生まれ,1769 年以前に米国に移住し,最初はチャールストンで商業を営み,その後サンティーン川の流域で,コメのプランテーションを経営した.彼はその地の50マイル四方の土地の植物を庭に集め,また卓越した標本庫も作った.
1787 年には,この地域の顕花植物についての論文を著したが,これはリンネの分類法に従った,北アメリカの東部地域の植物に関する最初の包括的な文献であった.彼は,友人のスコットランドの植物学者,ジョン・フレーザー (John Fraser, 1750 - 1811)にこの著作を送り,フレーザーは,1788
年にはこの著作を基に★『カロライナの植物』(Flora caroliniana)を出版した.この書では,短いラテン語の記述文と共に 1,000 を越す植物種と 435 の属について記録した.その内 200 の種を新種,4つを新属としたが,現在では 88 種と1つの属 (Amsonia) が Walter が付けた名を有効名とされている.
死後フレーザーに送られた標本は,英国自然博物館(the British Museum of Natural History)に購入され,現在でも保存されている.
この書の 177 頁に
272. HIBISCUS. Cal. duplex, exterior poly-
lysperma.
とあり,178 頁には
5. coccineus foliis digitato-palmatis quinquepar-
titis acuminatis, caule ramoso; flo-
ribus patulis coccineis.
と「掌状に五つに分れ先端の尖った葉,枝分かれした莖,開いた緋色の花」との簡明な記述がある.
★"Flora of the southern United States" (1860) は,米国の医師・植物学者,A. W. チャップマン(1809 - 1899)による,フロリダ州北部の植物相に関する最初の学術的著作であり,この書の,
9. HIBISCUS, L. ROSE- MARROW.
Involucel many-leaved or many-cleft, and, like the calyx,
persistent: Signe
5, peltate or capitate. Capsule globose
or oblong, 5-celled, loculieidally 5-
valved, many-seeded. — Herbs, shrubs, or trees, with petioled stipulate leaves,
and large showy flowers, on axillary peduncles.
の部の
* * Leaves of the pilica entire.
☩ Perennial herbs :
stipules deciduous
の項には
7. H.
coccineus, Walt. Smooth; stem glaucous ; leaves long-petioled,
5-parted to the base, the lobes lanceolate, remotely toothed, with
long-tapering
entire tips; corolla expanding, bright scarlet; petals long-clawed ; seeds pu-
bescent. (H. speciosus, Ait ) — Deep
marshes near the coast, Florida, Georgia,
and westward. July and August. — Stems 4° - 8° high. Leaves 6' - 12’ long. .
Corolla 6' - 8’ wide. Column of stamens naked below.
+ + "Trees or shrubs : stipules persistent.
とある.トーマス・ウォルターの原記載文献よりは性状が詳しく記述され,分布域が広い事が示されている.また,H. speciosus にも言及されている.
A. W. チャップマン(Alvan Wentworth Chapman, 1809 -
1899)は、米国マサチューセッツ州のサザンプトンに生まれ,1830年にアマースト大学で古典の学位を修め,ジョージア州やフロリダ州で教師として働いた。1839年に Mary Ann Hancock と結婚した後、1840年代初めに醫学の教育を受け、1946年に医学博士号(M. D.)を得て、1847年からフロリダ州北部のアパラチコラ(Apalachicola)に落ち着いた.医師として働きながら,それまで研究がされていなかったフロリダ州北部の植物相の研究を行い,1859年に論文を纏めた.彼はその成果をもって,五カ月間ハーバード大学の著名な植物学教授エイサ・グレイ(Asa Gray)の指導をうけ,1860年に本書 "Flora of the southern United States" を出版した.
0 件のコメント:
コメントを投稿