2025年2月8日土曜日

ムギセンノウ-13-2-11. シェイクスピア『リア王』-9,雑草の王冠-9 ドドネウス『本草書』(Crŭÿde boeck)の渡来-2 サフラン-2(Saffron, Crocus sativus L.),中国-2 唐 鬱金香,『舊唐書』,『唐書』,『全唐詩』

 

 
欧州で薬用あるいは実用の長い歴史のあるサフランが中国に伝わったのは,唐太宗の治世(貞觀の治 626-649)に,香料「鬱金香」として渡来したと文献に現れる(前記事参照).平和な時代が続いた唐時代には,多くの周辺国やインド・欧州との交易が盛んとなって,「鬱金香」は貴重な香料として高く評価された.後世に著わされた唐の歴史書には,南方の国から唐の皇帝に献上された貢物として鬱金香が『舊唐書』や『唐書』に残っている.

 また唐の全盛期には香料や化粧料として入手できたと見え ,『全唐詩』には,李白や白居易らによって多くの「鬱金香」で身を飾った女性をたたえる詩が作られた.

★劉昫・張昭遠・賈緯・趙瑩ら編舊唐書』(945)「卷一百九十八 泥婆羅 党項羌 高昌 吐谷渾 焉耆 疏勒 於闐 天竺 罽賓 勃律 波斯 拂菻 大食」には「天竺國」から「貞觀十五年,尸羅逸多自稱摩伽陀王,遣使朝貢.太宗降璽書慰問,尸羅逸多大驚,問諸國人曰「自古曾有摩訶震旦使人至吾國乎」皆曰「未之有也.」乃膜拜而受詔書,因遣使朝貢.太宗以其地遠,禮之甚厚,復遣衛尉丞李義表報使.尸羅逸多遣大臣郊迎,傾城邑以縱觀,焚香夾道,逸多率其臣下東面拜受敕書,復遣使獻火珠及鬱金香,菩提樹」とインドからサフランが獻上されたとある.
   貞觀十五年:641

北宋の★欧陽脩・曾公亮らの奉勅撰唐書』(1060)「西域列傳第一百四十六上 唐書二百二十一上」(冒頭図,WUL, 順治13[1656],請求記号 リ08 01735 0215)には,
 「貞觀十五年,自稱摩伽陀王,遣使者上書.帝命雲騎尉梁懷璥持節尉撫,尸羅逸多驚問國人:「自古亦有摩訶震旦使者至吾國乎」皆曰:「無有.」戎言中國為摩訶震旦.乃出迎,膜拜受詔書,戴之頂,復遣使者隨入朝.詔衛尉丞李義表報之,大臣郊迎,傾都邑縱觀,道上焚香,尸羅逸多率群臣東面受詔書,復獻火珠,鬱金,菩提樹.」とある.上記『舊唐書』の内容とほぼ同一の文章だが,「鬱金香」が「鬱金」となっているが,『唐書』の誤りであろう.


 また同書の「西域列傳第一百四十六下 唐書二百二十一下」には(上図),
東安,或曰小國,曰喝汗,在那密水之陽,東距何二百里許,西南至大安四百里.治喝汗城,亦曰鷿斤.大城二十,小堡百.顯慶時,以阿濫為安息州,即以其王昭武殺為刺史;旟斤為木鹿州,以其王昭武閉息為刺史.開元十四年,其王篤薩波提遣弟阿悉爛達拂耽發黎來朝,納馬豹.後八年,獻波斯+二,拂菻繡氍球一,鬱金香,石蜜等,其妻可敦獻柘闢大氍球二,繡氍球一,丐賜袍帶,鎧仗及可敦袿衣屬裝澤.」とあり,開元二十一年(733)に東安國?からサフランが獻上されたとある.

舊唐書』(くとうじょ)は,中国五代十国時代の後晋出帝の時に劉昫・張昭遠・賈緯・趙瑩らによって編纂された歴史書.二十四史の一つ.唐の成立(618年)から滅亡まで(907年)について書かれている.当初の呼び名は単に『唐書』だったが,『新唐書』が編纂されてからは『旧唐書』と呼ばれるようになった.
 完成と奏上は945年(開運2年)6月だが,その翌年には後晋が滅びてしまうため,編纂責任者が途中で交代するなど1人の人物に2つの伝を立てたり,初唐に情報量が偏り,晩唐は記述が薄いなどの問題があった.なお,北宋時代に『新唐書』が編纂されているが,逆に生の資料をそのまま書き写したりしているため,資料的価値は『新唐書』よりも高いと言われる.

 『新唐書』は,北宋の欧陽脩・曾公亮らの奉勅撰,225巻の中国の唐代の正史である.仁宗の嘉祐6年(1060年)の成立である.五代の後晋の劉昫の手になる『旧唐書』と区別するために,『新唐書』と呼ぶが,単に『唐書』と呼ぶこともある.『旧唐書』は,唐末五代の戦乱の影響で,武宗以後の皇帝は実録に欠落があるなど史料不足による不備が大きかった.宋代になって,新出の豊富な史料によって,その欠を補ったのが,本書である.
 文章は,唐宋八大家の一人であり古文家の大立者である欧陽脩のものであるため,簡潔な文体で叙述されている.ただ,簡略に過ぎていることや,詔勅の文章を古文に改変したり,中には錯誤も見られるため,史料的な価値では『旧唐書』に及ばないとされる.

★彭定求ら『全唐詩』(1703

「卷四十一」「長安古意」盧照鄰
雙燕雙飛繞畫梁 羅緯翠被鬱金香 片片行雲著蟬鬢
纖纖初月上鴉黃 鴉黃粉白車中出 含嬌含態情非一

「卷八十二」「公子行」劉希夷
可憐楊柳傷心樹 可憐桃李斷腸花 此日遨遊邀美女
此時歌舞入娼家 娼家美女鬱金香 飛來飛去公子傍

「卷九十四」「過漢故城」少微
  翡翠明珠帳 鴛鴦白玉堂 清晨寶鼎食 閑夜鬱金香

「卷九十七」「李員外秦援宅觀妓」沈佺期
  玉釵翠羽飾 羅袖鬱金香 拂黛隨時廣 挑鬟出意長

「卷一百八十一」「客中行」李白
  蘭陵美酒鬱金香 玉碗盛來琥珀光
「卷四百三十八」「盧侍禦小妓乞詩 座上留贈」白居易
  鬱金香汗裛歌巾 山石榴花染舞裙 好似文君還對酒
  勝於神女不歸雲 夢中那及覺時見 宋玉荊王應羨君

「卷五百二十五」「偶呈鄭先輩」杜牧
  不語亭亭儼薄妝 畫裙雙鳳鬱金香

「卷七百九十八」「宮詞」花蕊夫人
  青錦地衣紅繡毯 盡鋪龍腦鬱金香

「卷八百九十八」「南歌子」張泌
  錦薦紅鸂鶒 羅衣繡鳳凰
  綺疏飄雪北風狂
  簾幕盡垂無事 鬱金香

全唐詩』は,清の第4代皇帝康熙帝(1654-1722,在位 1661-1722)の勅命により,彭定求(16451719)らが編纂した,唐詩のすべてを収載した奉勅撰漢詩集で,1703年(康煕42年)の成立.全900巻,目録12巻,補遺6巻,詞12巻.唐代の詩すべてを網羅したとされ,作者の数は2,200余人,作品数は48,900余首という.明の胡震亨(1569 -1645)撰『唐音統籤』『唐音癸籤』を稿本に,内府蔵『全唐詩集』を加え,残碑・断碣・稗史・雑書からも採録している.曹寅(1658 - 1712)が1705年に揚州詩局という出版局を設立し,康熙帝勅撰の『全唐詩』を刊刻した.

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