2025年4月29日火曜日

ソノオサイシン(園生細辛) ツルダシアオイ

Asarum fauriei var. serpens ソノオサイシン(園生細辛)

  ユキワリソウ(ミスミソウ)を観察に行った取手市内の公園で,カンアオイ(サイシン)類の群落を見た.Google Lens で調べたたところ,ウマノスズクサ科のゼニバサイシン Asarum takaoi var. hisauchii がヒットした.調べると葉の形状は「葉は幅34㎝の小型で円形のもの。葉先が切形~微凹頭。ヒメカンアオイは葉が長さ58㎝の卵円形~腎円形。」にはよく合う.残念ながら,季節が異なり花を見ることは出来なかった.

もし,ゼニバサイシンなら,大場秀章らが,Journ. Jap. Bot., Vol. 64 No. 8. (1989)”  に,「千葉県で見出されたゼニバサイシン,特にその意外な分布と分類」という報文で,「千葉県銚子市にある」「ゼニバサイシンはこれまで千葉県は無論,関東地方にもその分布が知られていなかったので,この発見は植物相の観点からみてたいへん興味深いことであり云々」と報告しているように,本州中部(千葉、長野、岐阜、愛知、三重)には分布しているようだが,ネットで見た限り,茨城県に生育しているとの情報は見いだせない,希少な植物ではないかと思われた.
 「千葉県の保護上重要な野生生物 植物・菌類編 
2009年改訂版」では,上記大場先生の報文を引用し「A ゼニバサイシン ウマノスズクサ科 最重要保護」とあり,「千葉県の保護上重要な野生生物 ―千葉県レッドリスト― 植物・菌類編<2017年改訂版>」でも,「220 種子植物 ゼニバサイシン ウマノスズクサ科 A (2017)  A (2009) (最重要保護生物(A))」となっている.さらに,この銚子市で発見された種は関しては,糟谷大河*先生が「第13回日本ジオパーク全国大会 in 関東」での『千葉県銚子市に隔離分布するゼニバサイシンの系統地理』で「銚子市の集団をゼニバサイシンとは異なる新分類群と見なし,ヒメカンアオイの変種として正式に記載する必要がある.」と発表されていて,一部では,チョウシカンアオイ(銚子寒葵)という仮の名前までつけられていた.(*慶応大学経済学部生物学教室准教授)

 そこでミュージアムパーク茨城県自然博物館に画像を添えて問い合わせたところ,資料課の維管束植物担当の学芸員の方から,「写真と図鑑を照らし合わせる限りはゼニバサイシンに類似します。」との回答を得て更に,「千葉県の銚子で、ゼニバサイシンのDNAの研究をされている糟谷先生が現地を見に行きたい」との事で,詳しい観察地点の地図を送った.

 その後,学芸員の方から,糟谷大河先生の同定の結果,この植物はゼニバサイシンやチョウシカンアオイ(仮称)ではなく,
「葉の大きさがゼニバサイシンよりも大型で,葉の表面に雲紋が発達すること(ゼニバサイシンでは葉の雲紋を欠くものも多い), 茎がよく伸長し,地下茎から,つるを出したように地を這って,林床一面に広がることなどから,取手の公園に生育する植物は,ソノウサイシンで間違いないと思います。ゼニバサイシンは,茎がつる状に地を這うことはなく,林床一面に株が広がることもありません。」の特徴から,ウマノスズクサ科のソノオサイシン(園生
細辛)である事が判明した.更に先生のコメントとして「ソノウサイシンは園芸植物とされており,野生のものがあるのかも含め,はっきりしたことはわかっていません。ただミチノクサイシンに近縁であり,栃木県那須や群馬県北部,長野県北部や東北地方に生育する集団があり,これらの地域では,自生のように見えるものもあるようです。ただし,各地の神社に植栽されるなどして,人為的に分布を広げた可能性もあります。私は宮城県気仙沼のソノウサイシンの生育地を見ましたが,そこは人家の屋敷林で,林床一面に広がって生育していました。」とあり,学芸員の方からも「今回の取手の公園に生育するソノウサイシンは,植栽されたものがしたか,人為的に導入されたものか,いずれかと思います。」との事であった.

 ソノオサイシンは「庭える細辛」の意味で名づけられ,ミチノクサイシンの変種と位置付けられ,学名は Asarum fauriei var. serpens (syn. Heterotropa fauriei var. serpens) .さらに「ソノウサイシンは各地の神社に点在しているが,これは明治以前に長野県の戸隠神社で戸隠講というものがあって,戸隠講のみやげに,ソノウサイシン,ヒメシャガ,クリンソウの3点(いづれも薬草)がもらえたことに由来するとされる」(日本の植物たち https://kasugak.sakura.ne.jp › comment › sonousaishin)とある(出典未確認).
 確かに観察地の近くには,平将門所縁の「妙見八幡宮」があるので,ここから.逸出あるいは,植栽された可能性もある.

 なお,学名に関しては以下の様な情報がある (https://ameblo.jp/aoinishiki/entry-12484471131.html)
 「村田*によれば、名付け親の前川**がソノフサイシンの和名とAsarum Fauriei var. serpens F. Maek.の学名を最初に発表したのは、石井勇編1944:園芸大辞典・誠文堂新光社であるが、裸名(記載文を伴わず、正式に発表されてない学名)であること、その後大井次三郎1951:日本植物誌(初版)455に引用され、更に昭和天皇1962:那須の植物には Heterotropa serpens F. Maek. ツルダシアオイとされ、昭和天皇1972:那須の植物159にも同様に出ているが、これらも正式に発表されていなとのことで、このように前川はソノウサイシンをツルダシアオイと改称し、ミチノクサイシンとは別種としての新学名を作ったが、正式な発表はしなかった由である。 青森県では古くから庭木の下草(地被植物・グランドカバ-プランツ)として当地方の日本庭園に植えられているが、野生では見られない。」(青森県植物図譜・ミチノクサイシン,解説  細井幸兵衛)(*村田源,**前川文夫)

J. Ohwi. “Flora of Japan, in English” (1965)

26. Asarum fauriei Franch. Heterotropa fauirei
(Franch.) F. Maekawa – M
ICHI-NO-KU-SAISHIN.  Rhisomes
elongate, with long internodes; leaves 1-3, rounded to reni-
form-orbicular, about 3 cm. across, deep green and lustrous
above, not variegated; flowers small, 1-1.5 cm. across, the
perianth-tube short; styles exserted from the tube. – Apr. -
May.   Honshu (centr. and n. distr.). – cv. Serpens. A.
fauriei var. serpens F. Maekawa. – S
ONOU-SAISHIN.   A
cultivar of gardens with reniform-orbicular retuse lusterless
gray-green leaves with pale variegation above.

fauriei:フランス人宣教師で明治大正期に日本の植物標本採集家であったフォーリー神父(Urbain Jean Faurie, 1847 - 1915)への献名
serpens: creeping, 這性の

 なお,y-list には,「ソノオサイシン」は記載されておらず,「ツルダシアオイ」が標準的な和名とされ,var. stoloniferum が標準とされている.
Asarum fauriei Franch. var. stoloniferum (F. Maek.) T. Sugaw.  ツルダシアオイ 標準
Asarum fauriei Franch. var. serpens F. Maek.  ツルダシアオイ synonym
Asarum fauriei Franch. var. takaoi (F. Maek.) T.Sugaw.  ヒメカンアオイ synonym

2025年4月26日土曜日

Spring Scene in 1977 & 78, Cambridge U. K.

Spring Scene in 1977 & 78, Cambridge U. K.

Daffodils on the Backs of St. Johns, Flooded Cam River  King's College, on a street
 

Daffodils on the Backs of St. Johns, Emmanuel College, Routine way to central city 

Daffodils on the Backs

Daffodils on the Backs, Swans

Daffodils on the Backs

Cherry in a garden of  a college. Clare College, Mathematical Bridge, University Botanical Garden

2025年4月19日土曜日

Tulipa clusiana, ‘Lady Jane' & var. chrysantha, 原種系チューリップ.レディー・ジェーン.クルシアナ・クリサンタ ガーデン・メリット賞

 観賞用に交配で改良された花の大きなチューリップの群生も美しい(冒頭図,1979 London Victoria Embankment Garden)が,我が家の庭では「原種系チューリップ」と称されるクルシアナ系チューリップが春を彩る.

 チューリップを園芸上の観点から15 Division に分けた,その15番目の Division にカテゴライズされた “Species or Botanical” に属し,この Division は大まかにいえばポルトガルから西アジアに自生する小型のチューリップで,園芸用に交配された種ではないと定義され,150種の野生種が含まれるとされている(Wikipedia(E), Tulip).
 
クルシアナ系はイラン・アフガニスタン・ウズベキスタン・パキスタン及び西ヒマラヤに自生し,鱗茎からは 2-5 枚の20㎝程の葉を伸ばし,お椀型の花を通常一個つける.花の大きさは園芸種より小さく直径10㎝ほどで,高さは20㎝程,晴れた日には大きく開くが,曇天や雨の日には閉じる.外花被と内花被の花色や模様が異なる種では,天候によって花の与える印象が違う.


 Tulipa clusiana
, ‘Lady Jane' は外花被片の外側が柔らかいローズピンク色で縁は白色,内花被片は白,晴れた日に花が開くと白いが,花が閉じると赤白のねじり模様のように見えて可愛らしい.可憐な草姿に似合わず繁殖力は旺盛で,ドロッパーと言われる地下で伸ばす紐状の器官(匍匐枝)の先に娘鱗茎を生じさせる栄養繁殖を行う.この繁殖法はアマナと同様である.娘鱗茎からは一枚の葉が出て,二年目に花をつけるらしいが,未確認.この繁殖法によって5年程で1.5×2メートル程の地面が ‘Lady Jane' に占領され,先に植えてあったクロッカスやスノードロップ,はてはフクジュソウまで姿を消した.



 Tulipa clusiana
var. chrysantha は内花被片が黄,外花被片の外側が濃いオレンジ色なので,晴れた日には黄色に,花が閉じるとオレンジ色に見えて可愛らしい.アマナと同じくドロッパーで繁殖するが‘Lady Jane' ほど野放図ではなく,比較的まとまって生育するため,まるで花束の様に咲く.分球も容易で,密植も可能で ‘Lady Jane' より扱いやすい.秋10㎝の鉢に10個程の鱗茎を植えても一斉に咲くので鉢植えにしても良い.

この二種とも,その耐寒性と育てやすさ,美しさを評価され,英国の「王立園芸協会 RHS」のガーデン・メリット賞(Award of Garden Merit、略称: AGM)を受賞している.この賞は英国の庭園で育てる場合,
 園芸店から入手できる事(must be available horticulturally)
 庭における観賞植物又は有用植物として抜群に優秀である事(must be of outstanding excellence for garden decoration or use)
 体質が良い事(must be of good constitution)
 高度の専門的な生育条件及びケアが必要ではない事(must not require highly specialist growing conditions or care)
 特定の病気又は害虫に影響を受け易い事がない事(must not be particularly susceptible to any pest or disease)
 先祖返りが不適切な程度に発生しない事(must not be subject to an unreasonable degree of reversion)
 の特性を有することが必要で,更に耐寒性・頑健性(hardiness)によって,加温温室での保護が必要な種(H1)から,殆どの欧州の国の屋外の気候(Colder than -20C/-4F)で生育する種(H7)に分けられる.この二種とも H7 と評価されており,英国をはじめ北部欧州で特に保護なく庭に植える事が可能とされている.

Tulipa clusiana の図は多いが,描かれた花のほとんどは  ‘Lady Jane' に似た赤白二色である.IPNI Tulipa clusiana の原記載文献の一つとされているルドーテの『百合図譜』に描かれているの(下図左端)も赤白二色の種である.以下に plantillustrations.org で検索した Tulipa clusiana の図譜のいくつかを示す.ただ ‘Lady Jane' には花被の基底部に濃色部分はないので,これらに記載されたとは異なるものと思われる.


左より

Fig. 1 Redouté, P.J., “Liliacées” vol. 1, t. 37 (1805)
Fig. 2 Curtis, W., “Botanical Magazine” vol. 34, t. 1390 (1811)
Fig. 3 Sibthrop, J., Smith, J.E., “Flora Graeca” vol. 4, t. 329 p. 25 (1823)