2013年4月11日木曜日

アセビ(4/5) 毒性・ウマ・シカ・『毒草を食べてみた』・ヒツジ・ヌートリア,殺虫薬

Pieris japonica
園芸種 アケボノアセビ Pieris japonica f. rosea
ウマやシカはアセビの葉や茎を食べない.この植物に毒性物質が含まれているからである.
お水とりを拝観するため訪れた奈良東大寺で,正倉院の脇を通りかかったとき,背の低いアセビの植え込みがあるにもかかわらず,多数のシカがちんちんのような格好で立ち上がって,高い位置にあるカシ類の葉を食べているのを見た.このような圧力で春日山にはアセビの純林があるとの事である.また,母シカが仔シカにアセビの葉が食べられないと教えるという話もあるが,真偽のほどは定かではない.

江戸時代の文献では,アセビの毒性について,東麓破衲編『下学集(下)』(1444)「馬此ノ葉ヲ食シテ則死ス」,伊藤伊兵衛『花壇地錦抄(三 冬木の分 ○笹のるひ)』(1695)「馬此葉ヲ食スレハかならず死ゆへに馬酔木といふ」,貝原益軒『大和本草(巻之十二 雑木)』 (1709)「微毒アリ 馬此葉ヲクラヘハ死ス」,寺島良安『和漢三才図会(巻第八十四 灌木類 』(1713頃)「相伝フ馬此葉ヲ食ヘハ酔フ」,小野蘭山『本草綱目啓蒙(巻之三十二 木之三 灌木)』(1803-1806) 「モシ牛馬コノ葉ヲ食へバ酔ルガ如シ。故ニ馬酔木ト云。鹿コレヲ食へバ不時ニ角解ス。」とあり,ウマは酔ったり死んだり,シカは角を落とすとある.

日本における動物に対する毒性の報告・文献は見当たらなかったが,米国における類縁植物注1)を摂食したヒツジの中毒状況が,植松黎『毒草を食べてみた』(文藝春秋社,2000)に記されている.

「アセビ」の項より引用すると,「1979年8月、アメリカのカリフォルニア北部シャスタというところでおこった事故は、道に迷った羊たち注2)がアセビの仲間である野生種注1)を食べたものだった。広い牧草地のなかにはまだ野生種が多く生えていたのだった。群のすべてが食べたかどうかわからないが、様子がおかしくなったのは二百頭のうちの二十頭だった。羊たちは大量のよだれを流し、激しい下痢とおう吐をくりかえした。そして、悶絶しながら腸から大量出血するという悲惨な状態に陥り、二頭が命を落とした。
死んだ注2)を解剖してみると、胃に葉っぱの断片が残っていた。胃の炎症は少なかったものの、毒が胃壁の神経系に作用したことがおう吐をひきおこした原因ではないかとみられた。また、呼吸器が炎症をおこしており、心臓のまわりには大量の出血があって、表面にあらわれないダメージがこの毒の恐ろしさを物語っていた。」

またこの項には,体重1キロあたり葉っぱ2、3グラムを食したヌートリアが中毒したこと,さらに,「基本的に、動物がアセビやツツジ科の植物をさけることは、実験によって明らかにされている。モルモットはほかに餌がなく、飢えていたときのみむりやり葉を食べ、ウサギは、はじめパクついたがすぐにおかしいと思ったのか、食べるのをやめてしまったという。そして、中毒症状はどの動物もさきに挙げた羊と似ている。」とある.

Thomas C. Fuller, Elizabeth May McClintock "Poisonous plants of California" (1986),  p132 'Rhododendron occidentale. Western Azalea' に基くと,
注1)植松氏のいう「アセビの仲間である野生種」は,正確には,「シャクナゲの野生種(Rhododendron occidentale」とすべきではないかと思われる.
注2)「」は「ヤギ」とすべきではないかと思われる.

一方,小野蘭山『本草綱目啓蒙(巻之三十二 木之三 灌木)』(1803-1806) に「又菜園ニ小長黒虫ヲ生ズルニ、コノ葉ノ煎汁ヲ冷シテ灌グトキハ虫ヲ殺ス。」とあるように,この毒性は各種の昆虫にも強く働くので,日本では,粉末および葉を煎じた煎汁を農用殺虫薬として,また,牛馬の皮ふ寄生虫防除に古くから用いられて来た.たとえば,アリマキ退治には,生葉に十倍量の水を加えて半量に煎じたのを,十倍ほどに薄めた液を使った.が,今日ではあまり使われていない.

中国の马醉木(梫木)Pieris polita W. W. SM. et J. F. JEFF. は,アセビに類似しているが,花序がたれ下らず直立し,穂状になる.中国でもアセビと同じようにこの木の葉を煎じて農用殺虫薬としている。

有毒成分としてジテルペノイドの asebotoxin-Ⅰ, -Ⅱ, -Ⅲ および grayanotoxin-Ⅲ が知られ,ほかに asebotin, aseboquercitrin, asebopurpurine, taraxerol などが葉から見出されている.

アセビ(3/5)下学集,多識編,花壇地錦抄,大和本草,和漢三才図会,薬品手引草,物品識名,本草綱目啓蒙

アセビ (5/5) ツンベルク 英国・米国の園芸種 属名の由来

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