2005年5月 塩釜神社参道 |
梅園草木花譜春之部 NDL |
通泉草トモ言
癸巳*三月十日 庭園真写」
*1833年(天保4年)
『梅園百花画譜』は、春4・夏8・秋4・冬1の計17帖から成り,約1,300品が記載されている.他人の絵の模写が多い江戸時代博物図譜のなかで,大半が実写であるのが特色.江戸時代の植物図譜のうち写生数がもっとも多いものの一つで,正確さでは一二を争い,江戸の動植物相を知る好資料でもある.当時の博物家との交流が少なかったのか,名が知られたのは明治以降.
また,岩崎灌園(1786-1842)の著作『本草図譜』(巻5-10は文政13 (1830)刊)にも,巧みな彩色図で,サギゴケ類が記載してあり,以下のように余白に名称・生態などについて説明を付している.
本草図譜 通泉草 NDL |
平原湿地に多し 宿根より生し葉は菘(すずな・ナ)に似て小く対生し地に貼して生ず 節間ごとに根を生ず 春月短(き)茎を抽て花を開く 形丹参(クワガタサウ)に似て小く淡紫色なり 又紅花のもの白花黄点ある物又花大なる物等あり 物理小識云 葉似(二)地丁(一)中抽(レ)茎白花摘下経(レ)年不(レ)枯
一種 なつはぜ 夏月庭際にずる苗葉にして枝葉対生し花小さく淡紫色なり
一種 あきはぜ 形状なつはぜに似て小なり
一種 たちはぜ 葉細長くしえ湿姑草(イカノコケ)の如く叢生し色浅く光沢なく花ハ通泉草(サキコケ)に似て小く淡紫色なる物
一種 あぜはぜのちゃぼ 葉密に重なり深緑色光沢あり 花淡紫色なる物
これらのサギゴケ類について,大正5-10年に刊行された『本草図説 岩崎常正 著』(本草図譜刊行会)の「本草図譜名疏 和名考訂 白井光太郎 学名考訂 大沼宏平」では,以下の学名や和名が対応するとしている.
「通泉草
〔和名〕通泉草*,カマツカナ ハゼナ ホカケサウ ジロタラウバナ カハラケナ サギゴケ サギサウ アゼナ タハゼ チドリサウ ムギメシバナ カミツカウ モチハゼ トノヽウマ ミヽヅク コジタ (以上本草啓蒙)
〔学名〕Mazus Miquelli Mak. (玄参科)
一種 白花の者 〔和名〕さぎしば。(勢州,本草啓蒙) (同上)
〔学名〕Mazus Miquelli Mak. f albiflora Mak.
一種 紅花の者 〔和名〕べにさぎごけ。
〔学名〕Mazus Miquelli Mak. f. rosea K. Ohnuma. (同上)
一種 なつはぜ 一名 うりくさ。(以上二名草木図説)一名 なつのさぎさう。(本草啓蒙)
〔学名〕Torenia crustacea Chm. et. Schl. (同上)
一種 あきはぜ 一名 ときははぜ。(本草名寄) 一名 もちはぜ。(食物伝信纂)
〔学名〕Mazus japonicus O. Kze. (同上)
一種 たちはぜ 一名 あぜたうがらし。(本草要正)
〔学名〕Lindernia angustifolia Wettst. (同上)
一種 あせばせ 一名 あぜな。一名 うりくさ。(帯化品)
〔学名〕Lindernia pyxidaria All. forma (同上)」
草木図説 前編 巻十一 NDL |
その第十一巻に
「サギゴケ ハゼ 通泉草
普ク田野ニ生ス.茎初メ塌地漸台頭三四寸.葉匕(さじ)様ニシテ粗鋸歯アツテ略菊葉ノ如クシテ小.互生或対生.春梢上分又数花ヲ放ク.萼鐘状五尖.花双唇様ニシテ.帽短シテ尖.唇長ノ三裂.色淡青紫或白色.又弁尖裂.又夏ニ至テ盛開ナル等種々アリ.ミナ子室円シテ一柱長シテ頭ニ粒アリテ頗ル葯形ノ如ク.雄蕊短長四茎
其族未詳」とある(左図).
明治三十年,牧野富太郎博士は『植物学雑誌 第百廿九号,p389- 』に,これら本草書に記されたサギゴケ類の和名と学名について以下のように述べている.
「○うりくさ,あぜな,はつはぜ,ときははぜ及ビさぎごけ等の名実考
本草図説巻之十一第六十八葉裏うりくさアリ 云々
今上述ノ諸品ヲ捕テ之レニ学名ヲ配スルコト左ノ如シテときははぜヲ之レニ副フ
○Vandellia Pyxidaria Maxim.
(和名)うりくさ(本草図説)〔Lindernia crustacean (L.) F.Muell.〕
○Torenia crustacea Chmam. et. Schllecht.
(和名)なつはぜ(本草綱目啓蒙・本草図譜),あぜな(本草図説)〔Lindernia procumbens (Krock.) Borbás〕
○Mazus rugosus Lour. (=Lindernia japonica Thunb.)
(和名)ときははぜ(物品識名拾遺),(?)あきはぜ(本草綱目啓蒙・本草図譜)〔Mazus pumilus (Burm.f.) Steenis, Mazus japonicus (Thunb.) Kuntze (Syn)〕
○Mazus japonicus (Miq.) Makino
(和名)さぎごけ さぎさう はぜな あぜな等(本草綱目啓蒙)〔Mazus miquelii Makino〕」
Mazus japonicus という牧野富太郎博士のサギゴケの学名は,トキワハゼの学名の一つとバッティングしていたためであろうか,現在有効なサギゴケの学名は Mazus Miquelii で,トキワハゼの学名は Mazus pumilus となり,Mazus japonicus はトキワハゼのシノニムとされているが,欧米では現在でもトキワハゼの学名として Mazus japonicus が多く使われている.
サギゴケ,ムラサキサギゴケ(2/3) 古名ハゼ菜の語源,葩煎(はぜ),三才図会・守貞謾稿・東京風俗志
ムラサキサギゴケ・サギゴケ・ハゼナ (1/3) 大和本草・地錦抄附録・本草綱目啓蒙・本草図譜・救荒並有毒植物集説・牧野富太郎
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