2013年7月28日日曜日

ヤブガラシ(2/3) 方言・ツンベルク『日本植物誌』・学名・伊藤圭介・アマチャヅル

Cayratiae japonica
花盤の蜜を吸っているキアシナガバチ,多くの昆虫が訪れる割には果実を見かけない
関東には3倍体が多いとの説あり. 左下は赤い若芽*
江戸時代の貝原益軒『大和本草』(1709) に,「五爪竜 ビンボウカツラ」と記されているように,ヤブガラシはビンボウカズラと呼ばれていた.これは,この蔓草が資金難のため手入れの行き届かない屋敷林や垣根を覆っているからだとの説がある.
この植物の方言として同様の「びんぼうぐさ(千葉 安房),びんぼーかずら(京都,三重 伊勢,和歌山 西牟婁,徳島)びんぼーずる(大阪 泉北)」があるが,他には,若芽が赤いこと*に基づく「あかかずら(三重)」,葉の形状に由来する「いつつば(長崎 壱岐島)」,旺盛な繁茂力に脱帽して,「かきどーし(河州),やぶあらし(千葉 山武),やぶたおし(山形 飽海,三重 伊勢),やぶだおし(三重 宇治山田市)」が記録され,他にも「いぬえびかずら(京都),うむしかざ(沖縄 石垣島),うむしふさ(沖縄 石垣島),おんは-えび(長州)」がある**.しかし薬草として使われたことをうかがわせる方言はない.

*明の李時珍選『本草綱目』(初版1596)「赤潑與赤葛」,小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806)「初出藤葉トモニ赤黒色」
**八坂書房編『日本植物方言集成』(初版 2001) 八坂書房

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一方,この植物に最初に学名をつけたのは,リンネの弟子で,江戸時代出島のオランダ商館に医師として滞在し,多くの日本の植物を研究したツンベルク(Thunberg, Carl Peter, 1743 – 1828)であった.
彼の『日本植物誌』(Flora Japonica, 1784)に,ブドウ科ブドウ属に属するとして Vitis japonica の名で記録された.残念ながら当時の日本名はないが,その記述は他の植物に比べても長く,葉の形状や花のつくりが詳細に記されている(左図).
たとえば花の部分には以下のようにある.
Peduncle(花柄): smooth, striate, longer than the follies.
Perianth(花被): green, small, obsolete 4-toothed, continuing.
Corolla(花冠): 4-petals, deciduous, petals, concave, ovate, apex under the arched sharp, viridian, visible, and a long line of semi.
Nectary(蜜腺); sertiforme, Branch eingens, 4-grooved corolla much shorter, the saffron
Filaments(花糸.); four, and external support nectary below endangered, subulate, corolla shorter, virescentia.
(ラテン語から英語への訳は Google translator を用いた)

NDL
伊藤圭介訳述『泰西本草名疏』(1829 文政12)(ツンベルク著『日本植物誌』に所収された植物を学名のアルファベット順に配列し,その和名・漢名を記したもの)には,Vitis japonica の和名は「ツルアマチャ 絞股藍」あるいは「ビンボウカズラ 烏蘞苺」とあり(右図),○と「和漢名原欠」とがあることから,原本に和漢名がなく,この和名は伊藤圭介がシーボルトの意見をいれて,ツンベルクの記述から比定したと分かる.○は,出版当時,国外退去させられていたシーボルトの名前を現すのを憚って,記号に代えたもの.

現在有効な学名は Cayratia japonica で,これは 1911 年に Gagnep. (Gagnepain, François, 1866-1952) がブドウ属からヤブガラシ属へ属の組み替え(引っ越し)を行ったからで,種小名はツンベルクの与えた japonica が残り,Vitis japonica は basionym (バシオニム 基礎異名) として残っている.

一時ヤブガラシはアマチャヅルと間違えられ,採取され,健康茶として飲まれた.
1977年日本生薬学会で徳島文理大学薬学部・竹本博士が「アマチャヅルには薬用人参と同じ有効成分がある。抽出された成分は50種以上のサポニンで、そのうちの4種類が薬用人参と同じ構造をもつジンセノサイドサポニンが含まれる」と発表して,アマチャヅルは民間薬として大ブームをまきおこした.ヤブガラシはアマチャヅルとは,まったく異なった植物ではあるが,同じように蔓性であり葉の形状がそっくりなことから誤認されてしまった.
ヤブガラシはアマチャヅルより古くから薬用として用いられていたとはいえ,その薬効は異なり,また全草に araban を含む粘液質と多量の硝酸カリウムやタンニンが知られるが,有効成分は明らかにされていない.

ヤブガラシ(1/3) 薬効 烏蘞苺 本草和名 本草綱目 大和本草 和漢三才図会 本草綱目啓蒙
ヤブガラシ(3/3) 泉鏡花,雀,ごんごんごま,唐独楽・鳴り独楽

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