Mirabilis
jalapa
陰陽既濟爐 RETORT |
同人による文化二年(1806) の『蘭療薬解』の典拠は不明であるが,上記『蘭療方』で用いられた 324 種の蘭療薬を,和名のイロハ順に並べ,蘭語を上に置き,その主効を記した.また,本文には広川獬の漢方知識によると思われる注釈が付記されている.
この『蘭療方』で,ヤラッパは「黴瘡」即ち梅毒の治療に内服する「須布里馬蔑母傑設児(スユプリマノムケセル)」(塩化第二水銀(昇汞)製剤)の副作用を軽減する補助薬-吐劑として処方されている.以下に,本書での「黴瘡」「須布里馬蔑母傑設児(スユプリマノムケセル)」「亜辣捌(ヤラツパ)」の項を記す.
また,『蘭療薬解』での上記「須布里馬蔑母傑設児(スユプリマノムケセル)」の主剤である「須布里馬(スユプリマ)」及び「火炭母(ヤラッパ Jalappa)」の項を記す.
蘭療方「黴瘡」 |
『蘭療方』「傷寒」
「黴瘡
黴瘡。謂二之 私班設朴窟(スハンセポツク)一。是由レ或感觸烟瘴湿-蒸*。
或觸二染賣-妓穢惡一。以内欝經レ久遂醸二成此症一也。
療例。毒在レ表者。驅発遂散為レ主。毒在レ裏者。疏通
瀉利為レ主。又誤治經レ久屬黴労者。解毒兼二滋潤一。
為レ要。蓋黴瘡為二頑毒一。要下用王法一取中寛-効上若用二覇
法一促二速験一者。反致二廃痼之症一。今滔々乎皆然也。」(左図 WUL)
*「1632年に中国で書かれた『黴瘡秘録』という本のなかで、黴毒の原因は次のように説明されています。つまり、広東の近辺には湿気が多くて、マラリアをおこす湿っぽい雨がよく降ります。その食べ物はいつも辛くて熱い。蛇とか虫とかが非常に多くて、あちらにもこちらにも、ものが腐っている。このような環境のなかで男と女が淫れると「淫熱」、つまりミダレタネツの邪気が生じてきます。淫熱の邪気がつもってくると毒瘡がおこります。この毒瘡の傷口と接触すると伝染します。(中略)そしてこのときから19世紀の半ば頃まで、中国でも日本でも黴毒が湿っぽい環境とも淫らな性行為とも連想されるようになりました。」(『日本疾病史考
ー「黴毒」の医学的・文化的概念の形成ー』William D. Johnston(ウィリアム D.ジョンストン) 米国・ウェスリアン大学歴史学部助教授,日文研フォーラム
第47回 1993).
須布里馬蔑母傑設児(スユプリマノムケセル)主二前症更甚者一 須布里馬點
私(スプリマチュス)二分。製造法。丹礬。水銀。硝石。食塩。礬石各四戔以米醋少許一研匀。焼飛如下製生々乳
法上須布里馬試二真假一法。點二石灰水中一。紅恰如レ血爲レ真也。 大黄汁 百戔
蜂蜜 四十戔 右三味。先研二須布里馬一一時。次ニ
合二味。更研一時。分冷-服用。朝午夕三次。一七
日ニ服尽。禁-二忌魚肉酒酪餅油一。食二麥粥一。以調-護
為レ可。」(右図 WUL)
*布:原書では(扌+布)
亜辣捌(ヤラツパ)
須布*里馬為レ物。大孟烈也。故服後必用二此方一。以解二藥毒一。或諸藥煩者。亦主レ之。加二
芒硝一更可 火炭母 研一戔 蘩縷汁 生用搗絞取二十戔一
大黄汁 生用。五戔。若無則 乾物煎取亦可。
右三味。研匀。分三次冷服。」
*布:原書では(扌+布)
『蘭療薬解』
[久]
「ヤラッパ Jalappa 火炭母
主効 解二熱毒一瀉二大便一。若無則紫茉莉根代レ之可。」(右図 WUL)
主効 性猛烈。傳貼シテ能破レ肉流レ濁。又大麻風黴毒瘡以レ法服。製造服法見二蘭療方大麻風一。」(左図 WUL)
*大麻風:ハンセン病
広川獬は,ヤラッパをタデ科の「火炭母」と誤考定していたが,李時珍『本草綱目』における「火炭母草」の「主治」は「去皮膚風熱,流注骨節,癰腫疼痛。不拘時采,於
器中搗爛,以鹽酒炒,敷腫痛處,經宿一易之(蘇頌)。」であり,京都光華女子大学短期大学部の美濃順亮教授は,火炭母は「清熱解毒,利湿,消滞に効能があり、痢疾,腸炎,消化不良,肝炎,扁桃体炎,咽喉炎,瘡腫,湿疹,帯下,白喉、細菌性陰道炎等に使われ、」ているので,ヤラッパとは「主効は基本的に一致する。」としている.(「江戸期における薬学 : 第一報『蘭療薬解』詳解」,京都光華女子大学短期大学部研究紀要 vol.47, pp.61-103 (2009))
宇田川玄随は『内科撰要 12巻 (1798)』で “Resinae Jalapae,” は「火炭母根脂」と考定していて,ヤラッパはオシロイバナだが,その根に輸入品ほどの薬効がないのは,日本の気候が根が大きくなるほど暖かくないからだとしている.
宇田川玄真 (1769-1834) 著,宇田川榕菴 (1798-1846) 校補『遠西醫方名物考』(1822) 第36巻『遠西名物圖』には撰要で取り上げられた薬物の図が収載されているが,「葯剌巴」の図は「オシロイバナ」である.(オシロイバナ-4)
廣倭本草 NDL |
直海元周(龍)『廣倭本草』巻之三(1759)に「火炭母草 和名ヲシロイ 花王思儀三才圖會云
火炭母草生二ス南-恩-州原-野-中ニ一 味酸-平無レ毒 去リ皮膚風-熱流-注骨-節,癰-腫-疼-痛。莖赤而柔,似大蓼。葉端尖,近シレ梗ニ形テレ方夏有白花 秋實如レ菽,黑色,味甘可食 又云花紅黄白ノ三種共ニ根似タリ二烏藥ニ一 コレ即今ノヲシロイバナナリ 仙臺ニテハ秋ザクラトモ云ナリ」とある(右図,NDL).宇田川玄随は『内科撰要 12巻 (1798)』で “Resinae Jalapae,” は「火炭母根脂」と考定していて,ヤラッパはオシロイバナだが,その根に輸入品ほどの薬効がないのは,日本の気候が根が大きくなるほど暖かくないからだとしている.
宇田川玄真 (1769-1834) 著,宇田川榕菴 (1798-1846) 校補『遠西醫方名物考』(1822) 第36巻『遠西名物圖』には撰要で取り上げられた薬物の図が収載されているが,「葯剌巴」の図は「オシロイバナ」である.(オシロイバナ-4)
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