大正時代以降,秋に渡りで南下してくるツグミを対象にかすみ網猟が大規模に行われるようになり,多くの野鳥が乱獲された.
加えて,戦中・戦後の国土の荒廃によって野鳥の数は著しく減少した.このため,1947(昭和22)年にGHQ(連合軍総司令部)の勧告によって,当時の狩猟法施行規則が改正され,かすみ網猟の対象鳥であるツグミ,アトリ,カシラグカ等が非狩猟鳥とされた.これによって,事実上かすみ網猟はできなくなった.
さらに,1950(昭和25)年には,狩猟法施行規則改正でかすみ網猟が禁止猟法とされた.しかし,霞網の製造・販売・輸入は禁止されていないので,現在でも密猟は存在すると言われている.
Dr. Austin, cica. 1947, 1973 |
昭和二十一年にGHQ 天然資源局野外生物科長として来日した米国の鳥類学者オースチン博士(Oliver L. Austin, Jr. 1903-1988)が鳥屋を見てまわり,その残虐性(網にかかった小鳥達の首を折っては収穫する)*と無節制な大量捕殺に心を痛め,かすみ網猟を禁ずるために,ツグミ・カシラダカなどを非狩猟鳥にすることを勧告(1947. Mist Netting for Birds in Japan. Natural Resources Section,
Report No. 88, GHQ, SCAP, Tokyo, pp. 1-24.)(未確認)した.これに基づき1947(昭和22)年 9月9日 に 『狩獵法施行規則』が一部改訂されて,狩猟鳥種の数が減らされ,ツグミは非狩猟鳥となった.
*伊藤 桂一(1917 - 2016)『鶫』(伊藤桂一時代小説自選集 第二巻「藤棚の下」収載)
しかし,かすみ網猟が禁止された訳ではないので,ツグミの密猟は絶えず,半ば公然と鶫料理を提供する店や,季節の味として賞味する客が絶えることはなかった(遠藤 公男『ツグミたちの荒野』1983).
1950(昭和25)年 9月30日の狩猟法施行規則改正で,かすみ網猟が禁止猟法とされた.
「農林省令第七十二号
狩獵法施行規則の一部を次のように改正する
昭和二十二年九月九日
農林大臣 平野力三
第一條
狩獵鳥獸の種類左の如し(以下略)」
とあり,狩猟鳥類として,アイサ類, ウズラ, エゾライチョウ, オオバン, カモ, カラス(ホシガラスを除く), キジ, キジバト, クイナ, コジュケイ, ジシギ, スズメ, タシギ, タマシギ, ニュウナイスズメ, バン, ヒクイナ, ヒシクイ, マガン, ヤマシギ, ヤマドリが定められた.
これを大正七年の狩猟鳥類と比較すると
アトリ,アホウドリ,アオサギ,アオジ,イカル,イスカ,ウ,ウソ,カケス(ルリカケスを除く),カシラグカ,カワラヒワ,クマタカ,クロジ,ケリ,ゴイサギ,シギ,シメ,シロハラ,ダイゼン,チドリ,ツグミ(トラツグミおよびクロツグミを除く),ノジコ,ハクチョウ,ハト,ハヤブサ,ヒヨドリ,ヒワ,ホオジロ,マシコ,マミチャジナイ,ミサゴ,ミヤマホオジロ,ムナグロ,ワシ,ヲシドリ
の三十五種の鳥類の狩獵が禁止された事となる.中でも,ツグミ,マミチャジナイ,カシラダカなど,それまでかすみ網で捕獲されていた鳥類の狩獵が禁止されたことにより,実質的にかすみ網猟はできなくなった.
狩猟法(大正七年法律第三十二号)を実施するため,及び同法に基づき狩獵法施行規則を次のように定める.
昭和二十五年九月三十日
農林大臣 広川弘禪
(狩猟鳥獸の種類)
第一條 狩猟法(以下「法」という.)第一條第二項の狩猟鳥獸の種類は,次の通りとする」(中略)
とあり,狩猟鳥類として,ウズラ,ウミアイサ,エゾライチョウ,オオバン,カモ類(オシドリを除く),カワアイサ,キジ,キジバト,ゴイサギ,コウライキジ,コジュケイ,ジシギ,スズメ,タシギ,ニュウナイスズメ、ハシブトガラス,ハシボソガラス,バン,ヒシクイマガン,ミコアイサ,ミヤマガラス,ヤマシギ,ヤマドリ,ワタリガラス
の二十四種の鳥類が挙げられた.更に,
「第三條 狩猟鳥獸は,左の各号に一に該当する猟法を用いて捕獲してはならない.
一 かすみ網を使用する方法
二 飛行中の飛行機及び運行中の自動車並びに五ノット以上の速力で航行中のモーターボートの上から銃器を使用する方法
三 はご(千本はごを含む),つりばり又はもちなわを使用する方法
四 キジ笛を使用する方法
2 狩猟鳥類は,わなを使用する方法を用いて捕獲してはならない.
(以下略)」
とされ,霞網猟が禁止され,この省令は現在でも有効である.
現在(平成30年7月)現在では,
エゾライチョウ,オナガガモ,カルガモ,カワウ,キジ,キジバト,キンクロハジロ,クロガモ,ゴイサギ,コガモ,コジュケイ,スズガモ,スズメ,タシギ,ニュウナイスズメ,ハシビロガモ,ハシブトガラス,ハシボソガラス,バン,ヒドリガモ,ヒヨドリ,ホシハジロ,マガモ,ミヤマガラス,ムクドリ,ヤマシギ,ヤマドリ(コシジロヤマドリを除く),ヨシガモ
の二十八種の鳥類が狩猟鳥として選定されている.(https://www.env.go.jp/nature/choju/hunt/hunt2.html)
(了)
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