2023年7月15日土曜日

ガーンジー・リリー(14-7-3)ホウライシダ,欧 揺藍期本-2 ドイツ本草 “German Herbarius”

ドイツ人博物学者エンゲルベルト・ケンペルが,イチョウを Ginkgoとして,初めて西欧に紹介した際,その葉がホウライシダ類(Adiantum, 英名:Maiden hair fern)に似ている事を述べた.また彼は将軍謁見のための江戸参府の道中(1691年)で,箱根山中で薬効があると聞いて採取し,ハコネクサ(Fákkona Ksa)とその名を記したハコネシダ(現在有効な学名:Adiantum monochlamys D.C.Eaton)を,ホウライシダ屬のホウライシダ(A. capillus-veneris L.)と誤同定した.

 ケンペル来日以前から,ハコネシダは,オランダ人がその婦人薬の薬効を認めたとして,「阿蘭陀草」の名が記録されている(前報).また,ホウライシダの古いラテン名で,その蘭語版が日本に伝えられたドドネウスの『Crŭÿde boeck(草木誌)』(初版 1554)にも記されている“Capillus-veneris”(ビーナスの髪)由来と思われる「カツテイラ」「ヘンネレス」「カツヘレサウ」「へねれんさう」が「蠻名」として記されている.

ホウライシダ(A. capillus-veneris )は,ギリシャでは紀元前から薬草としてテオプクトスの本草書に,紀元後にはギリシャのディオスコリデスの本草書やローマのプリニウスの博物書に「黒いアディアンツム」として記載されている.

1455年にグーテンベルクによる「グーテンベルク聖書」が出版されてから,およそ半世紀の間に,ヨーロッパ各地の都市(ドイツ,フランス,イギリス,イタリア,ネーデルラントからスウェーデン,スペイン,ポルトガル,コンスタンティノープルなどまで)に活版印刷術が伝わり,約4万版が刊行されたという.

木版印刷術の発展と共に,図入り印刷本草書が刊行されるようになった.それらの内,最初は西ドイツ中西部のマインツ周辺で印刷された四種の書籍がよく知られ,間もなく他の地でも翻訳あるいは再版され,新しい図を付されたものもあった.

ペーター・シェーファー(Peter Schöffer, ca. 1425 ca. 1502)によって 1484 年に刊行された『ラテン本草』(Latin Herbarius)は,ドイツ自生の植物と園芸植物をのせた小さな書で,簡単な薬草の本として一般の人たちの実用に供する意図でラテン語で書かれた.中の図は,力強いタッチで装飾的な魅力に富んでいると言えなくもないが,おおむね左右相称に描かれていて,時には幾何学的な図形ていどのものもある.アンバランスな図が多く,花は通常,誇張して大きく描かれている.根が描かれている場合も,まったく型にはまった表現となっている.(前報)

『ドイツ本草』(German Herbarius, Herbarius zu Teutsch)は,『ラテン本草』の一年後 1485 年に初版がシェーファーによって出版された美しいフォリオ判一巻本である.よく言われてきたように,『ラテン本草』のドイツ語翻訳本ではなく,独自の著作であり,図も『ラテン本草』より自然に近いものが多い.しかし第三部の薬物の利用法に基づく索引は,『ラテン本草』の影響が認められる.
 この書は植物学的に見て本当に価値のあるすぐれた唯一の初期印刷本(揺藍期本)であり,ほぼ半世紀の間,この書の植物図に匹敵する本は出なかった.全 435 章よりなり,379章には図があり,56章にはない.382の薬草,25の動物(ゾウ・ウサギ・ジャコウジカ等の哺乳類,ハンミョウ等の昆虫,トカゲ等の爬虫類,マキガイ・サンゴ等の海産物)及びその生産物,28の無機物が記載されている.

57.  Blacte bizantia, Muschel also genant, 香りのある巻貝
127. Castoτium
, Bybergeil, ビーバーの持つ香嚢から得られる香料 海狸香
128. Würmlin
, Cantharide, スパニッシュフライ 催淫劑
130. Corallen
, Corallus, サンゴ
248. Lacca
, Lacca, ウサギ

272. Muscus, Bysum, 図はジャコウジカを表すと思われる.
292. Os de coτde cervi
, Beyn daz man findet in dem hecczen des hyrsczen,鹿の心臓に見出される骨
371. Spodium gebrant helffenbayn
,  象の骨・骨灰
383. Stincus
, Wasser edechsz, トカゲ
426. Vulpis
    Fuchsz, キツネ

最終部には,四体液説に基づく尿の色による診断法が記載され,ガラスのフラスコに採取した尿を検討する医師と患者らしい女性が描かれている.

 この書の監修者と画家については,名前が記載されていないが,マインツの貴族で市の参与で,この書の出版を支援したブライテンバッハ公(Bernhard von Breidenbach, 1440 - 1497)と,画家レウィック(Grafiker Erhard Reuwich, "Herr Bernharts meler und snytzer", ca.1450 - ca.1505)で,出版の数年前から準備をしていたと思われる.
 この書の序文は,人類に,諸々の病に対する自然薬療法を教え給うた造物主の慈悲心を費える格調高い感謝の歌で始まっている.さらに,続く文章によってこの書はさる裕福な愛好家(ブライテンバッハ公)によって監修・編集されたことがわかる.それぞれの薬物の効能については,フランクフルトの医師,ヨハン・フォン・クーペ博士(Johann Wonnecke von Kaub or Johann von Cube, 1430 -1503)をやとって記述を準備させた.その仕事を進めている間に,編者のブライテンバッハ公は,古代の著述者たちが採り挙げている薬草の多くはドイツでは育たないことに気づき,植物探求の目的も兼ねて,画家レウィックを伴い1483年に聖地パレスチナへ巡礼の旅に出た.序文は次のように続ける-「自分が着手したがいまだ成し遂げていない崇高な仕事を無に帰すべきでないし,また,この旅によって私の魂だけでなく全世界もまたその恵みにあずかるであろうと考えたので,私はよいセンスを持ち,熟練した賢明な画家を一人同伴した」.-イタリアとバルカン半島を通過して,二人はクレタ島,ロードス島,そしてキプロス島を経由して船旅を続け,パレスチナに到着した.エルサレムを訪れたのち,慣習に従ってモーゼが十戒を授かったシナイ山を訪れ,カイロからアレクサンドリアへ行き,そこから海路 1484年に帰国した.「これらの王国や諸地方をさすらいながら・…‥私はその地の薬草類を懸命に探し求め,形も色も違えることなく描いた」と語っている.
 帰国後,クーペ博士の協力を得てこの書を完成したが,それには「本物どおりの形と色を伝える」350種以上の植物が図示されたのである.後にブライテンバッハ公は,この聖地巡礼の経験をもとに,史上最初の絵入り聖地巡礼ガイドブック “Die Pilgerreise ins Heilige Land“1486)を出版した.

この『ドイツ本草』の中の木版画のもっとも優れたところといえば,それらが生きている植物の写生図をもとに彫られた図が数多くある点であることは疑問の余地がない.そこにはデューラーの習作に見られる精妙さや木版工芸の粋はないが,なんとか花の構造や性質をありのままに表そうとする努力が認められる.


たとえば「キショウブ(Acorus)④」(Iris pseudacorus)や,「アフォディルス(Affodils)②」(Bearded Iris, German Iris の原種)の圖を見ると,彫版師が画家の意図を充分には理解しなかった徴候はあり,未熟なところはあるが,やはり生き生きしている.(①,③:ラテン本草,②,④:ドイツ本草)


また,「ホオズキ(Alkekengi)」の果実や「ネナシカズラ(Cuscuta)」の蔓と莢の図も同様である.しかし,こうした写実的な図があると同時に,『ラテン本草』の植物図にも劣るような図も多くある.そして,例の「マンドレイク(Mandragora)」は,分岐した根が人の肢体に似ていて,おきまりの擬人化した姿に描かれている.


また,エジプト,シリア,レヴァント(レバノン)の各地方からの植物動物の図は数も少なくがっかりさせられる.おそらくマメ科の低木「センナ(
Sene)」(乾燥標本からか)と「ショウガ(Zingiber)」及び「ゾウ(Elephanten)」の図は,現地で実物を見て描いたと思われる.しかし,編者のいう「熟練と賢明さ」を裏づける圖が多くはないので,意欲的な画家が関与したということも疑わしくなるほどである.

 クーペ博士の記述は,先人たち(Theophrastus, Dioscorides , Pliny the Elder, Serapion the younger, Bartholomeus Anglicus ら)の知見の引用で,彼が発見した新たな薬効を付け加えることはなかった.
 『ドイツ本草』の木版画が,そしてたぶん十五世紀と十六世紀の他の本草書の大部分の木版画も,色づけされるべく意図されたことは,その序文に述べられていることから明白である.おそらく,画家が一部か二部を自分で彩色し,それから助手が,往々にして子供であったりしたが,残りの本を彩色したのであろう.さらに,ずっと安価で売られた非彩色本があったことはまちがいない.そのような本は購入者にその気と時間があれば自分で彩色するためであろう.

この書の第98章(Cap. lxxxviij)にはホウライシダCapillus veneris, muerruse)について以下のような記述がある(公開画像より起したので,誤りがあるかも.単語が行変えで途切れた場合, /, で示す場合も,何の断りもなく行を変えてつづける場合もある.また,出版地(Low German)の方言で書かれているために,現代のドイツ語とは異なっているとの事).ラテン語,ギリシャ語,アラビア語での名称の後に,先人たち,特にディオスコリデスの文献による育毛・通経などの薬効が記されているようだ.
 図は到底ホウライシダの特徴を現わしているとは言えない.何よりも名称の基になった黒々とした光沢のある
茎が凡庸なシダ類のそれになっている.

Capillus veneris  muerruse  ¶ Cap. lxxxviij


C
apillus. veneris vel coriandrũ putei vel Capillus porcinus
latine. grece adiation. arabice capillus agell vel capillus a/
gill vel berstegasten.Der meyster Serapio in dem bůch
aggregatoris in dem capitel berstegasten id est capillus veneris sprichet
das dises sy eyn krut das do bait bletter gleich dem coriander vnd bait
eyn Barren stengel vnd
subtyle der ist in der lenge eyner spamen vñ
hait keýn blome noch fruchte noch samen. Die wurtzel dovon ist keyn
nurze. Dises krute weche set auch gar geren in d
e schaden vnd
in den dyessen groben genant speluncken die do seuchte synt.
Idem Serapio mit bewerung Galieni die dogent vnd nature dises
krutes ist drucken machen.In dem b
ůche genant circa instans in
dem capitel Capillus veneris stat geschrieben das disses sy kalt vnd
drucken getemperieret. Eyn meister genant Stephanus in synem
büch in dem capitel capillus verneris sprichet das dises sy von den alten ge
heissen Adiantos oder politricum als dan vns beschzeiben Diascorides
vnd Alexander vmid sprechen alle gemeÿn das dise dry namen als ca
pillus veneris Adiantos politricum werden genenet fur eyn krut als
dann ist capillus veneris dar von wir hye schreiben. Johanes
mesue in synem bůche im dem capitel Capillus veneris sprichet das dises
krut aus dem menschen
ziese die bosen coleram vnd auch do mit die gro
ben seushtigkeit. Item capillus veneris rey niget das geblu
ͤde vnd
machet dem men
schen gütte facbe vnd eyn sanssten atern vnd reyniget
den magen den buch die lebber vnd das nulz darüber getruncken.
¶ Item über dises krute gedrunchen benympt den steyn in der blasen
und auch in den lenden. 
¶ Wer sich weschet vss dem haubt mit was-
ser oder lange dar inne gesotten ist maurrauten machet hare wachsen.
¶ Item esche gemacht von muerrunten und in die sestell gelassen
heylet sye.Auch reyniget das puluer den gebresten an der heym-
lichen stat der frauwen.Auch ist muterysesser widder fluß des
blütes dar von genurzet vnd ist auch gůt widder flüß der stulgeng
mit wegb
rey de wasser vermenget vnd genüczt sprichet Pandecta.

AvicennaIbn Sina (Persian: ابن سینا; 980 – June 1037 CE), “The Canon of Medicine” の著者.
Galen
:ガレノス(希: Γαληνός, 129年頃 - 200年頃)は,ローマ帝国時代のギリシャの医学者.臨床医としての経験と多くの解剖によって体系的な医学を確立し、古代における医学の集大成をなした.彼の学説はその後ルネサンスまでの1500年以上にわたり、ヨーロッパの医学およびイスラームの医学において支配的なものとなった.
Platearius
Matthaeus Platearius was a physician from the medical school at Salerno, and is thought to have produced a twelfth-century Latin manuscript on medicinal herbs titled "Circa Instans" (also known as "The Book of Simple Medicines") .
Pandectarius
Matthaeus Silvaticus or Mattheus Sylvaticus (c. 1280 c. 1342) の著 “Pandectarum Medicinae” or “Pandectae Medicinae

参考文献
J. F. PAYNE "ON THEHERBARIUS AND  HORTUS SANITATIS" (1901)
A. ARBER "HERBALS THEIR ORIGIN AND EVOLUTION" (1912)
ウィルフリッド・ブラント『植物図譜の歴史 芸術と科学の出会い』森村健一訳 (1986)

2023年6月30日金曜日

ガーンジー・リリー(14-7-2)ホウライシダ,西欧-2 揺籃期本草本-1.偽セラピオン,ペーター・シェーファー『ラテン本草』,『アヴィケンナ新村のアルノルディ薬草園』

 ドイツ人博物学者エンゲルベルト・ケンペルが,イチョウを Ginkgoとして,初めて西欧に紹介した際,その葉がホウライシダ類(Adiantum, 英名:Maiden hair fern)に似ている事を述べた.また彼は将軍謁見のための江戸参府の道中(1691年)で,箱根山中で薬効があると聞いて採取し,ハコネクサ(Fákkona Ksa)とその名を記したハコネシダ(現在有効な学名:Adiantum monochlamys D.C.Eaton)を,ホウライシダ屬のホウライシダ(A. capillus-veneris L.)と誤同定した.

 ケンペル来日以前から,ハコネシダは,オランダ人がその婦人薬の薬効を認めたとして,「阿蘭陀草」の名が記録されている(前報).また,ホウライシダの古いラテン名で,その蘭語版が日本に伝えられたドドネウスの『Crŭÿde boeck(草木誌)』(初版 1554)にも記されている“Capillus-veneris”(ビーナスの髪)由来と思われる「カツテイラ」「ヘンネレス」「カツヘレサウ」「へねれんさう」が「蠻名」として記されている(前報).

ホウライシダ(A. capillus-veneris )は,ギリシャでは紀元前から薬草としてテオプクトスの本草書に,紀元後にはギリシャのディオスコリデスの本草書やローマのプリニウスの博物書に「黒いアディアンツム」として記載されている.

1455年にグーテンベルクによる「グーテンベルク聖書」が出版されてから、およそ半世紀の間に、ヨーロッパ各地の都市(ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、ネーデルラントからスウェーデン、スペイン、ポルトガル、コンスタンティノープルなどまで)に活版印刷術が伝わり、約4万版が刊行されたという。  


偽セラピオン(Psued-Serapion, akn Serapion the Younger)は,12-13世紀のアラビアの本草学者で,“The Book of Simple Medicaments”の著者とされる.彼は中世欧州での暗黒の時代の間,ギリシャ・ローマの本草学を受け継ぎ発展させた.この書は14-15世紀にラテン語に譯され, Liber Serapionis Aggregatus in Medicinis Simplicibus (1479) , Serapionis Aggregatoris de Simplicibus Comentarii, Liber de Simplicibus Medicamentis, Liber de Simplici Medicina 等の名で出版され,ルネッサンス期以降の本草学者の著書Peter Schöffer (1484), Leonhart Fuchs (1542), Rembert Dodoens (1554) にも大きな影響を与え,これらの書で Serapío”,“meister Serapion などの名で内容が引用・参照された.

図示したのは 1479 年にイタリアで出版された Symonis Ianuensis がアラビア語から訳したラテン語版 Liber Serapionis aggregatus in medicineのホウライシダの部分である.”Berscegnascen” というのが,ホウライシダのアラビア語名( برسياوشان. 意味は coriandrum putei)のラテン語表記らしい.図はない.薬効についてはプリニウスの記述より増えている様子はない.

木版印刷術の発展と共に,図入り印刷本草書が刊行されるようになった.それらの内,最初は西ドイツ中西部のマインツ周辺で印刷された四種の書籍がよく知られ,間もなく他の地でも翻訳あるいは再版され,新しい図を付されたものもあった.

ペーター・シェーファーPeter Schöffer, ca. 1425 – ca. 1502)によって 1484 年に刊行された『ラテン本草』Latin Herbarius)は,編纂物であった.これまでのところ年代を裏付ける写本は発見されてないが,実はさらに一世紀ほど前に編纂された可能性が強い.これはドイツ自生の植物と園芸植物をのせた小さな書で,簡単な薬草の本として一般の人たちの実用に供する意図でラテン語で書かれた.中の図は,力強いタッチで装飾的な魅力に富んでいると言えなくもないが,おおむね左右相称に描かれていて,時には幾何学的な図形ていどのものもある.アンバランスな図が多く,花は通常,誇張して大きく描かれている.根が描かれている場合も,まったく型にはまった表現となっている.
 イタリアで1499年に出版されたこの書のラテン版,Incipit Tractatus de virtutibus herbarumは,別名『アヴィケンナ新村のアルノルディ薬草園』(Herbarius Arnoldi de nova villa Avicenna)としても知られている書である.これには,出典がドイツ系の本草書と考えられている一揃いの新しい図版が添えられている.それらの図は,初版本の幾何学的図案のようなものよりはややましであるが,いぜんとしてかなり形式的で左右相称的である.しかし,幾つかは実際の植物やその生育環境に基づいたと思われる図が掲載されている.初版とこの版はわずか十五年しか離れていないのに,活字書体がゴシック様式からローマン様式に変わったことで,この本はぐっと近代的な感じとなり,それが中の図を倍ほども古拙に思わせることになった.なお,アルナルドゥス・デ・ビラ・ノバ(ラテン語: Arnaldus de Villa Nova,1235年頃 – 1313年頃)は13世紀にスペインで活躍した科学者で医師・薬剤師・錬金術師でもあった.年代からすると,彼の名を借りて権威づけたものと思われる.


『ラテン本草』
xxxix にはCapilus veneris  steyn rute
 Capillus venerís alío nomíe adíautas, Pandecta et Ioannes mesue. ca. de capíllo venerís dícítur ca píllus Fontíü. et scdm quosdàm coríádrü puteí nu cupatur. Et est herba cuíus Folía sut ?tia Fo líís coríandrí. Et km díascoridem dícit poletrí con que oía ín íde redunt, Nascítur ín locís um brosís et aquosís et paríetíbus humídis et círca  Fontes. Frígídæ et siccæ est complexíonís tpete. Pla tearíus. virtute habet díutetíca . recens est multe effícacíæ : exíccatus paucæ uírtutís : herba utílís est no ra díx. Confert contra calefactíoné epatís et febrí tet tíane prodest ex eo factus sírupus, Recípe aquæ de coctíonís eíus et endíuíæ et scolopendríæ cum semí níbus quattuor frígí.et semínís portulacæ et lactu cæ et ex hís fíat sírupus cum zucaro quo utatur ma ne et sero p qualíbet uíce ín quantítate medíí cíphí. Deínceps sumantur píllulæ de reubarbaro cum acu míne tríum granorum díagredíí uel loco píllularx. Recípe electuaríí de succo rosarum, dyasenæ anna .3.ii. casfíæ fístulæ .3. ííí. mísce et fíat bolus. Postea sumantur tríasandalum uel dyadragantum pro con fortatíuís; Capíllus uenerís facít orírí capíllos í alo pícía et díssoluít scrofulas. eíus succus míxtus cum succo abrotaní et patum mellís quo líníat locus de píllatus. uel ponatur ípsa ad líxíuíum quo abluatur locus depíllatus ratífícando cutem callosam índe lí níatur locus cum talís cum succís . et cum melle ut supta. Item succus capíllí uenetís cum semíne fení culí et mílíísolís decoctus cum uíno frangít lapídez et íuuat ad excreandum humores flegmatícos ín pe ctore peccantes cum succo yreos et parum zucatí míscendo. Serapío. Item elíxatura capíllí uenerís et scolopendríæ ín uíno ualet opílatíoní splenís et epa : tís et stranguríæ et abscíndít fluxum sanguínís, Pan. decta,” とあり,図もあるが,古典的な写本に見られる対称性のよい形状に描かれ,葉の形やつき方の特徴は,全く無視されている.

アヴィケンナ新村のアルノルディ薬草園』(1499)の XXXIX には,


CAPILLVS VENERIS.

Capíllus uenerís alío nomíne adíautas, Pandecta & Ioannes mesue.ca. de capíllís uenerís dícítur capíllus fontíû. & scdm quosdâ coríâdrûpute ín nuncupat. Et est herba cuíus folía sunt símilía folíís coríandrí. Et secandum Díascordíe dícitur poletrícon quæ omnía ín ídem redunt, Nascítur ín locís umbro sís & aquosís & paríetíbus humídís & círca fontes: frígídæ & siccæ é complexíonís têperate. Platearíus
 Virtutem habet díuretícam : recens est multæ effíca cíæ : exíccatus paucæ uírtutís : herba utílís est n
ô radíx. Confert contra calefactíonê epatís & febrí tettíane prodest ex eo factus sírupus, Recípe aquæ de coctíonís eíus & endíuíæ & scolopendríæ cum semí níbus quattu or frígí.& semínís portulacæ & lactucæ & ex hís fíat sírupus cum zucaro quo utatur ma ne & sero p qualíbet uíce ín quantítate medíí cíphí. Deínceps sumantur píllulæ de reubarbaro cum acu míne tríum granorum díagredíí uel loco píllulaRx. Recípe electuaríí de succo rosarum, dyasenæ anna .3.ii. casfíæ fístulæ .3. ííí. mísce & fíat bolus. Postea sumantur tríasandalum uel dyadragantum pro con fortatíuís. Capíllus uenerís facít orírí capíllos í alo pícía & díssoluít scrofulas. eíus succus míxtus cum succo abrotaní & parum mellís quo líníat locus depíllatus. uel ponatur ípsa ad líxíuíum quo abluatur locus depíllatus ratífícando cutem callosam índe lí níatur locus cum talís cum succís . & cum melle ut supta. Item succus capíllí uenetís cum semíne fenículí & mílíísolís decoctus cum uíno frangít lapídez & íuuat ad excreandum humores flegmatícos ín pe ctore peccantes cum succo yreos & parum zucarí míscendo. Serapío. Item elíxatura capíllí uenerís & scolopendríæ ín uíno ualet opílatíoní splenís & epa tís & stranguríæ & abscíndít fluxum sanguínís, Pan.decta,” とある.
  本文は殆ど 1484 年版と変わりがないようだが,新しく彫られた図はずっと自然物に近く,英国ケンブリッジ大学のDr. Agnes Arber (1879 –1960) は著書 “HERBALS, THEIR ORIGIN AND EVOLUTION. A CHAPTER IN THE HISTORY OF BOTANY 1470—1670” (1912) “The fern called "Capillus Veneris," which is probably intended for the Maidenhair, is represented hanging from rocks over water, just as it does in Devonshire caves to-day.” とこの絵は英国デボンシャーで現在でも見られる様に水の上に突き出した岩から垂れ下がるように生育しているのを描いている.と 1484 年版より自然に近いといっている.


 『ラテン本草』(Latin Herbarius)は簡単な薬草の本として一般の人たちの実用に供する意図で書かれた.中の図は,力強いタッチで装飾的な魅力に富んでいると言えなくもないが,おおむね左右相称に描かれていて,時には幾何学的な図形ていどのものもある.アンバランスな図が多く,花は通常,誇張して大きく描かれている.根が描かれている場合も,まったく型にはまった表現となっている.
 この書の中のキショウブ(Iris pseudacorus)の版画(左図)は,およそ花序の構造の理解がいかに乏しいものであったかを示しているし,根は実際の植物とは全く異なる.

一方,15年後に出版されたイタリア版の『アヴィケンナ新村のアルノルディ薬草園』(Incipit Tractatus de virtutibus herbarum)の図は,上記初版本の幾何学的図案のようなものよりはややましであるが,いぜんとしてかなり形式的で左右相称的である.
 アーバー博士はこの書の中のキショウブの版画(中図)の日本的な特徴に注意するように指摘している.” Another delightful wood-cut, almost in the Japanese style, is that of an Iris growing at the margin of a stream, from which a graceful bird is drinking.” (もう一つの楽しげな木版画は,優雅な鳥が水を飲んでいる川の縁に生育しているアイリスを描いたもので,ほぼ日本画の様式である),この図は「Acorus」および「Ireos vel Iris」と題されたものに使われている.図の中の烏は確かに見たところ,絵付け陶器の鷺のような日本的な感じである.しかし,植物図に見られる左右相称性は極東の美術とはまったく相容れないものである.
 この花の形状は,フランス王家などで使われていた「百合紋 ”fleur-de-lis” フルール・ド・リス」(右図)を思わせる.

参考文献
J. F. PAYNE "ON THEHERBARIUS AND  HORTUS SANITATIS" (1901)
A. ARBER "HERBALS THEIR ORIGIN AND EVOLUTION" (1912)
ウィルフリッド・ブラント『植物図譜の歴史 芸術と科学の出会い』森村健一訳 (1986)

(続く)

2023年6月9日金曜日

ガーンジー・リリー(14-7)ホウライシダ,歐古典本草-1.テオプラストス,ディオスコリデス,プリニウス,偽アプレイウス

 

. Dioscorides, P., “De materia medica” (Codex Neapolitanus) (512)
. Dioscorides, P., “De materia medica” (Codex Vindobonensis) (?)
. pseudo-Apuleius, “Herbarius” (Gonzaga, Francesco) (15th century)
. Pseudo-Apuleius, “De Herbarum Medicaminibus.”, Pseudo-Antonius Musa, “De Herba Betonica.” (851/900) 9. Jh., 2. Hälfte. Loire-Gegend. (15th century)  “καλλιτριcον = lovely hair”

 ドイツ人博物学者エンゲルベルト・ケンペルが,イチョウを Ginkgoとして,初めて西欧に紹介した際,その葉がホウライシダ類(Adiantum, 英名:Maiden hair fern)に似ている事を述べた.また彼は将軍謁見のための江戸参府の道中(1691年)で,箱根山中で薬効があると聞いて採取し,ハコネクサ(Fákkona Ksa)とその名を記したハコネシダ(現在有効な学名:Adiantum monochlamys D.C.Eaton)を,ホウライシダ屬のホウライシダ(A. capillus-veneris L.)と誤同定した.

 ケンペル来日以前から,ハコネシダは,オランダ人がその婦人薬の薬効を認めたとして,「阿蘭陀草」の名が記録されている(前報).また,ホウライシダの古いラテン名で,その蘭語版が日本に伝えられたドドネウスの『Crŭÿde boeck(草木誌)』(初版 1554)にも記されている“Capillus-veneris”(ビーナスの髪)由来と思われる「カツテイラ」「ヘンネレス」「カツヘレサウ」「へねれんさう」が「蠻名」として記されている(前報).

ホウライシダ(A. capillus-veneris )は,ギリシャでは紀元前から薬草としてテオプクトスの本草書に,紀元後にはギリシャのディオスコリデスの本草書やローマのプリニウスの博物書に「黒いアディアンツム」として記載されている.
 「アディアンツム」とは,ギリシャ語で「撥水性のある(Water-proof)」という意味で,草を水に漬けると葉が不思議な銀色の艶を帯び,水から出せば水をはじいて完全に乾いて見える事や,滝つぼや渓流の水しぶきのかかる所を好んで生育する事から来た名前のようだ.「ビーナスの髪」という名はローマ時代のイタリアが発祥らしいが,上記三書ではアフロディーテ(ギリシャ神話のビーナスに相当する女神)や,ビーナスの名に由来する名は記述されていない.
 中世の本草書には,この“Capillus-veneris”の名は,イタリア地方の名で,初出は偽アプレイウスの書とあるが,確認はできなかった.
 初期から,第一には脱毛防止,その後,腎臓結石,せき,黄疸,喘息などへの薬効が記されている.脱毛防止は “Like cures like” の迷信で,茎がつややかな髪に似ているからであろうし,結石の破砕はこの植物が岩の割れ目にも生育する事から,岩や石を砕くと考えられたからであろう.また,通経や後産をスムーズに降ろすといった,江戸時代に日本に来た西欧人が,ハコネシダの薬効とした「産前後への著効」もこの時期から認められていた.

テオプラストスΘεόφραστος, Theophrastos, Theophrastus,紀元前371 紀元前287年)は古代ギリシャのレスボス島生まれの哲学者,博物学者,植物学者である.彼は植物学の祖とも呼ばれており,アリストテレスの同僚で,友人で,逍遙学派の主要人物の一人であった.厖大な著作を著したが,大半は失われた.現存するのはわずかであるが.『植物誌』および『植物原因論』(植物を体系的に論じた書.欠落もなく,ほぼ完全に伝わっている)が著名である.


 ★テオプラストス『植物原因論』(Enquiry into plants, and minor works on odours and weather signs)(Sir Arthur Hort英訳,1916)には,

“BOOK VII
O
F HERBACEOUS PLANTS, OTHER THAN CORONARY PLANTS :
P
OT-HERBS AND SIMILAR WILD HERBS.
Of certain properties and habits peculiar to certain herbaceous plants.

XIV. There are also the following peculiarities in herbaceous plants, for instance that7 which we find in ' wet-proof’ (maidenhair) ;8 the leaf does not even get wet when it is watered, nor does it catch the dew,9 because the dew does not10 rest on it ; whence its name.11 There are two kinds, the white ‘wet-proof’ (English maidenhair), and the black (maidenhair) ; and both are useful to prevent the falling off of the hair of the head, for which purpose they are pounded up and mixed with olive-oil. They grow especially in damp places. Some think that tirikhomanes1 (English maidenhair) is also useful in cases of strangury. Its stem is like that of the black kind,, but it has small leaves, which are close set and grow in opposite pairs ; there is no root below, and the plant loves shady places.” とある.
(“Theophrastus: Enquiry into plants, and minor works on odours and weather signs, with an English translation” by Sir Arthur Hort (1864-1935), The Loeb Classical Library; London,G. P. Putnam's Sons (1916) による).

 ★小川洋子訳『テオブラストス 植物誌 西洋古典叢書 京都大学学術出版会 (2015) の和訳には,
第七巻「花冠植物以外の草本植物-野菜類とそれに類した野生の草本類について」の第一四章「ある草本植物の特性と習性」で,
「草本植物にはまた次のような特性がある.例えば,アディアントンに見られるものがあげられる.すなわち,その葉は水に浸されても,露がおりても,湿ることがない.水分が葉に留まらないからである.そのことからこの名もつけられた.アディアントンには二種あって,一方は白く(チャセンシダ),他方は黒い(ホウライシダ).どちらも粉にしてオリーブ油に混ぜて用いると,脱毛症に効果がある.これらは主として湿ったところに生える.ある人々が考えているように,トリコマネス(チャセンシダ)は排尿困難にも効果がある.茎は黒いほうのアデイアントンに似ているが,葉は非常に小さく,密集し,向かい合ってついている.根は地中深くまでは生えていない.日陰を好む。」とあり,白・黒の二種のアディアントンがあり,どちらも育毛に効果がある.としている.黒がホウライシダで,白がチャセンシダと考定されている.

古代ギリシャのディオスコリデスPedanius Dioscorides, 40 – 90)は全5巻からなる『薬物誌 (Materia madica)』(古希: Περ λης ατρικής)を母語であるギリシャ語で著した.『薬物誌』は,薬草図を付記されて1600年頃まで用いられ,薬草に関する歴史上もっとも影響を与えた書物となった.日本ではそのラテン語訳題 De Materia Medica libriquinque(逐語訳:「医薬の材料について」五書)を略して『マテリア・メディカ』とも通称される.多くの古代ギリシャの書物は中世盛期からルネサンス期に再発見されたものであるが,本書はそれらと異なり古代より途絶えることなく流布していた.『薬物誌』は何世紀もの間,何度も写本として書き写されたが,それらの写本にはしばしば注釈が書き加えられたり,アラビアやインドの文献に由来する若干の増補がなされた.特にアラビア由来の加筆部分はイスラム圏の薬草学の進歩を反映している.最も重要な写本群はアトス山の修道院群に伝えられて現在に残存している.
 『薬物誌』は薬草学の歴史上重要な文献であるというだけでなく,古代のギリシャ人やローマ人やその他の文化における薬草の知識や使用法を知ることができるという点で貴重である.さらに,すでに失われたダキア人やトラキア人の言葉の植物の名前が記録されている.ぜんぶで600ほどの植物についての記述がある.
 挿絵のついた写本が多く残っており(冒頭図),その一部は古く5世紀から7世紀にまで遡る.初期の写本の中で最も有名なものは Vienna Dioscorides (ウィーン写本)である.


英訳書 T. A. Osbaldeston DIOSCORIDES DE MATERIA MEDICA” Ibidis Press (2000) には,

”BOOK FOUR: OTHER HERBS & ROOTS
4-136.
ADIANTON

SUGGESTED: Adiantum foliis coriandri [Bauhin],
  Adiantum capillus veneris [Fuchs, Linnaeus],
  Herba capillorum-veneris — Maidenhair, Venus’s Hair, Capillaire
Adiantum has little leaves similar to coriander, jagged on the top; and the little stalks on which they grow are black, very thin, twenty centimetres long, and glistening. The leaves are like filix [fern], very small. It bears no [other] stalk, flower, or seed. The root is useless. A decoction of the herb (taken as a drink) is able to help asthma, difficulty in breathing, jaundice, the splenical, and frequent painful urination. Taken as a drink with wine, it breaks stones [urinary, kidney], stops discharges of the intestines, and helps those bitten by venomous creatures, and excessive discharges of the stomach. It draws out the menstrual flow and afterbirth. It stops the spitting-up of blood. It is smeared on (raw) for venomous beast bites, thickens the loss of hair [alopecia] and disperses tumours [possibly goitre]. With lye it wipes off dandruff and scaly eruptions of the scalp. With ladanum [1-128] and oil myrsinum [1-48] and inhalants (or else oesypum [lanolin] and wine) it prevents falling hair. A decoction of it (rubbed on with lye and wine) does the same. It makes cocks and quails more vicious, mixed with their meat. It is planted for sheep around sheep enclosures [feed]. It grows in shady marshy places, and around moist walls and fountains. It is also called polytrichon, callitrichon, trichomanes, ebenotrichon, argion, or coriandrum aquaticum; the Egyptians call it epiert, the Romans, cincinnalis, some, terrae capillus, or supercilium terrae, and the Dacians, phithophthethela.” とある.

和訳の★鷲谷いづみ『ディオスコリデスの薬物誌』エンタプライズ 1983/05 出版)には

136ADIANTON     Adiantum capillus-Veneris ホウライシダ(1)
Asplenium trichomanes
チャセンシダ科チャセンシダ属の植物

アデイアントゥム(Adiantum)はポリュトリコン(Polytrichon)とも呼ばれるが,この植物の葉は,先端に鋸歯があって,コエンドロに似た小さいものであり,葉が出ている小さな茎は,ごく細く,1スパン〔約23cm〕ほどの長さで黒く輝いている.葉はフイリクス(Filix「プテリス」)2にも似ており非常に小さい.主茎も花も実もなく,根は薬用にはならない.
 
この草の煎じ汁を服用すれば,喘息,呼吸困難,黄疸,肝臓病,排尿困難などに薬効がある.これにはまた結石を砕き,下痢を止める効果があり,毒獣に咬まれたとき,胃の出血などにも効くが,これらの目的にはブドウ酒とともに服用する.また月経血を排出し,浄化を促す.吐血を止める作用もある.
 生のままで塗ると,毒獣の咬み傷によく,脱毛症を治し,瘰癧を散らす.ライムギとともに用いると,フケや頭部膿疱疹をきれいに取り去る.ラグヌム(Ladanum3およびギンバイカ油,スフイヌム,ユリ香油,あるいはオエシュプム(Oesypum「ラノリン」)およびブドウ酒と混合したものは,脱毛を抑える.煎じ汁を,ライムギおよびブドウ酒とともにすり込んでも同じ薬効がある.餌に混ぜニワトリやウズラに与えると闘争心を高める.ヒツジのために牧場に植えられることもある.この植物は,日陰地や湿地,じめじめした土手,泉のまわりなどに生育する.
 (1)ウラボシ科クジャクシダ属の常緑シダ.世界の熱帯から温帯にかけて広く分布する.
 (2)オシダ科のシダ.
 (3)ハンニチバナ科キストス属の植物.
 CallitrichonlTrichomanesEbenotrichon2ArgionCoriandrum aquaticum などと呼ばれる.エジプト人はEpier,ローマ人はCincinnalis3と呼ぶ.Terrae Capillus4Supercilium terrae5とも呼ばれる.ダキア人はPhithophthethelaと呼ぶ.
1)美しい髪(ギ),(2)黒檀の如き黒髪(ギ),(3)縮れた髪(ラ),(4)大地の髪,(5)大地の眉(ラ)」とある.
 先行のテオプクトスに比べると,育毛以外にも配合剤の薬効が大きく拡がり,また,鳥類に与えると喧嘩っ早くなると,不思議な薬効も追加されている.また,後によく使われる名前「ビーナスの髪(Capillus veneris)」はないが,特徴的な黒いつややかな細い茎に着目して,「黒檀の如き黒髪」「大地の髪」や「大地の眉」などの異名があるとされた.

古代ローマの著名な博物学者,プリニウスGaius Plinius Secundus, 22 / 23 79)『博物誌 Naturalis historia (77 -)  
羅甸:based on Karl Friedrich Theodor Mayhoff (18751906)'s Teubner v. (1906) of “Lacus Curtius” ad litteras mittendas Bill Thayer. Pliny, ed. Mayhoff (1875–1906) Naturalis Historia (5 vols). Leipzig: Teubner

英訳:H. Rackham Pliny Natural History The Loeb Classical Library (1949)
和訳:大槻真一郎編『プリニウス博物誌 植物薬剤篇』八坂書房 (1994)

プリニウスの著作で唯一現存しているのが,自然と芸術についての百科全書的な37巻の大著「博物誌」である.ローマ皇帝ティトゥスへの献辞の中で彼自身がのべているように,この書物には,100人の著者によるおよそ2000巻の本からえらびだした2万の重要な事項が収録されている.最初の10巻は77年に発表され,残りは彼の死後おそらく小プリニウスによって公刊された.この百科全書がとりあげている分野は,天文学,地理学,民族学,人類学,人体生理学,動物学,植物学,園芸,医学と医薬,鉱物学と冶金,美術にまでおよび,余談にも美術史上,貴重な話がふくまれている.この書には何カ所かに Adiantum が記述されているが,主な二カ所を以下に引用する.


BOOK XXI.

羅甸:lx. Differentia foliorum et hic quae in arboribus, brevitate pediculi ac longitudine, angustiis ipsius folii, amplitudine, iam vero angulis, incisuris, odore, flore. diuturnior hic quibusdam per partes florentibus, ut ocimo, heliotropio, aphacae, onochili. multis inter haec aeterna folia, sicut quibusdam arborum, inprimisque heliotropio, adianto, polio.

英譯:LX. The leaves of these plants differ as do the leaves of trees : in shortness or length of stalk, in the narrowness of the leaf itself, in its size, and further in the corners, and indentations ; smell and blossom differ also. The blossom lasts longer on some of them, which flower one part at a time, on ocimum for example, and on heliotropium, aphace and onochilis. Many of these plants, like certain trees, have leaves that never die, the chief being heliotropium, adiantum, hulwort.

和訳:六〇 葉のいろいろ

…樹木において葉の違いがあるように、これらの植物にもその違いがある。葉柄の長短、葉そのものの狭さや広さ、そのうえ葉の角、縁のぎざぎざ、匂い、花といった点でも違いがある。花が一部分ずつ咲いていく場合には、より長く咲いていられる。例えば、メボウキ(バジル)、ヘリオトロピウム(キダチルリソウ属)、アファケ、オノキリス(オノケリス。ムラサキ科)がそうである。そのなかで多くのものは、いくつかの樹木のように、葉が枯れない。おもにヘリオトロピウム、アディアントウム(ワラビ科シダの類)、ポリウム(シソ科ニガクサ属)がそうである。

BOOK XXII.

羅甸:xxx Aliud adianto miraculum: aestate viret, bruma non marcescit, aquas respuit, perfusum mersumve sicco simile est — tanta dissociatio deprehenditur —, unde et nomen a Graecis alioqui frutici topiario. quidam callitrichon vocant, alii polytrichon, utrumque ab effectu. tinguit enim capillum et ad hoc decoquitur in vino cum semine apii adiecto oleo copioso, ut crispum densumque faciat; et defluere autem prohibet.
 duo genera eius: candidius et nigrum breviusque. id, quod maius est, polytrichon, aliqui trichomanes vocant. utrique ramuli nigro colore nitent, foliis felicis, ex quibus inferiora aspera ac fusca sunt, omnia autem contrariis pediculis, densa ex adverso inter se, radix mula. umbrosas petras parietumque aspergines ac fontium maxime specus sequitur et saxa manantia, quod miremur, cum aquas non sentiat.
 calculos e corpore mire pellit frangitque, utique nigrum, qua de causa potius quam quod in saxis nasceretur a nostris saxifragum appellatum crediderim. bibitur e vino quantum terni decerpsere digit. urinam cient, serpentium et araneorum venenis resistunt, in vino decocti alvum sistunt. capitis dolores corona ex his sedat. contra scolopendrae morsus inlinuntur, crebro auferendi, ne perurant; hoc et in alopeciis. strumas discutiunt furfuresque in facie et capitis manantia ulcera.
 decoctum ex his prodest suspiriosis et iocineri et lieni et felle subfusis et hydropicis. stranguriae inlinuntur et renibus cum absinthio. secundas cient et menstrua. sanguinem sistunt ex aceto aut rubi suco poti. infantes quoque exulcerati perunguuntur ex iis cum rosaceo et vino. — (Virus folii in urina pueri inpubis tritum quidem cum aphronitro et inlitum ventri mulierum, ne rugosus fiat, praestare dicitur.) — perdices et gallinaceos pugnaciores fieri putant in cibum eorum additis, pecorique esse utilissimos.

英訳:BOOK XXII.
Maidenhair.
  XXX. Maidenhair too is remarkable, but in other ways. It is green in summer without fading in winter ; it rejects water; sprinkled or dipped it is just like a dry plant—so great is the antipathy manifested—whence too comes the name given by the Greeks a to what in other respects is a shrub for ornamental gardens. Some call it lovely hair c or thick hair,d both names being derived from its properties. For it dyes the hair, for which purpose a decoction is made in wine with celery seed added and plenty of oil, in order to make it grow curly and thick ; moreover it prevents hair from falling out.
  There are two kinds : one is whiter than the other, which is dark and shorter. The larger kind, thick hair, is called by some trichomanes. e Both have sprigs of a shiny black, with leaves like those of fern, of which the lower are rough and tawny, but all grow from opposite footstalks, close set and facing each other ; there is no root. It is mostly found on shaded rocks, walls wet with spray, especially the grottoes of fountains, and on boulders streaming with water—strange places for a plant that is unaffected by water ! a It is remarkably good for expelling stones from the bladder, breaking them up, the dark kind does so at any rate. This, I am inclined to believe, is the reason why it is called saxifrage b (stone-breaker) rather than because it grows on stones. It is taken in wine, the dose being what can be plucked with three fingers. Diuretic, the maidenhairs c counteract the venom of snakes and spiders ; a decoction in wine checks looseness of the bowels ; a chaplet made out of them relieves headache. An application of them is good for scolopendra stings, though it must be taken off repeatedly for fear of burns. The same treatment applies to fox-mange also. They disperse serofulous sores, scurf on the face and running sores on the head.
  A decoction of them is beneficial for asthma, liver, spleen, violent biliousness and dropsy. With wormwood an application of them is used in strangury and to help the kidneys. They promote the afterbirth and menstruation. Taken in vinegar or blackberry juice they check haemorrhage. Sore places too on babies are treated by an ointment of maiden- hair with rose oil, wine being applied first.d The leaves steeped in the urine of a boy e not yet adolescent. if they be pounded with saltpetre and applied to the abdomen of women, prevent the formation of wrinkles. It is thought that partridges and cockerels become better fighters if maidenhair be added to their food, and it is very good for cattle.
 The slimy juice of the leaves added to the urine . . . and beaten up with saltpetre." But rinus tritum is strange.

b: αδιαντον, “water proof”
c: καλλιτρι
cον.
d: παλνιτρι
cον.

e: Perhaps child of either sex is meant.

和訳:III 草本類の薬効

三〇 アディアントゥム

62 アディアントゥムにも珍しいことがある。夏は緑色で冬にも色が褪せず、水をはじき、水をふりかけても、水に浸しても乾いたままのようである。このように水に対して明らかな反発性があるので、ほかの点では庭園向きのこの灌木にギリシア人はアディアントゥム (「防水草」の意)という名をつけたのである。またカリトリコン(「美髪草」の意)とかポリユトリコン(「豊かな髪」の意)とか呼ぶ人もいるが、どちらもその特性に由来している。これで髪を染めるからである。このためにはアピウムの種子と一緒にブドウ酒で煮て、油をたっぷり加える。すると濃い巻き毛の髪になり、しかも脱毛を防止する。
63
 その種類は二つで白いものと黒くて短いものがある。大きいほうはポリユトリコンといい、トリコマネス(「乱れ髪」の意)と呼ぶ人もいる。どちらの若枝も光沢のある黒色で、葉はシダのようで下の方の葉はざらざらしていて暗褐色であるが、どれも相対する葉柄から生じており密集しながら向かい合っている。根はない。日陰の岩や水しぶきで湿った壁、とくに泉のある洞窟、水の流れ落ちる岩盤に見られる。水を全く苦にしないのは驚くべきことである。これは結石を見事に砕いて体外に出す。少なくとも黒いものはそうである。岩盤の上に生えているからというよりは、むしろこの理由からサクシフラグム(「岩砕き」の意)と名づけられているのではないかと思う。三本の指でつまんだ分だけブドウ酒に入れて飲む。排尿を促し、ヘビやクモの毒に効き、ブドウ酒に入れて煮ると下痢を止める。これで作った葉環は頭痛を鎮める。ムカデに唆まれた時にはこれを貼るが、炎症を起こさないようにたびたびはがさなければならない。脱毛症の場合も同様である。腺踵や顔の粃糠疹、頭部の滲出性潰瘍を散らす。
65
この煎じ汁は喘息、肝臓、脾臓、胆汁過多、水腫に有効である。ニガヨモギと一緒に貼ると有痛性排尿困難、腎臓に効く。後産と月経を促す。酢かキイチゴの汁に入れて飲むと出血を止める。幼児の腫れ物にはまずブドウ酒を塗り、それからこれとバラ油を混ぜたものを擦り込む。葉はまだ髭の生えない少年の尿に浸し、ソーダを加えて潰したものを婦人の腹に塗るとしわがでるのを防ぐといわれているヤマウズラや若いオシドリの餌に加えると闘争力が増し、家畜にも非常によいといわれている。」とある.

アプレイウス・プラトニクスによる5世紀に著された『本草書(Herbarium』は,1481年に『アプレイウス・プラトニクスの本草書(Herbarium Apulei Platonici)』の名で出版された.初期のラテン語本草書で後世にもっとも影響を与えたものが,このアプレイウスの本草書である.この人物は,アプレイウス・パルパルス,アプレイウス・プラトニクス(Apuleii Platonici),あるいは『黄金のロバ』(Golden Ass)の著者 Apuleius of Madaura (124–170 CE) と区別するために偽アプレイウス(Pseudo-Apuleius)として知られている.
 この本草書は大プリニウス,テオプラストスの著書や,四〇〇年ごろのギリシャ資料を寄せ集めた,さして重要ではない医学処方箋集である.知られている限りでもっとも古いその写本は現在ライデンにあり,七世紀のもので,おそらくフランス南部で書かれたものであろう.東方の『ウィーン古写本』の図と同様に,イタリアからライン地方にかけての西ヨーロッパの画家たちに,以後,幾世代にもわたって材料を提供してきたのである.印刷機の発明後すぐの時代で,印刷の恩恵にもあずかり,”世界最古の印刷されたハーブの本”として成功した.ディオスコリデスの『薬物誌』も六世紀前半にはラテン語に翻訳されたので,この二つの著作が暗黒時代のヨーロッパでは,植物に関する知識の重要なテキストとなったのであった.
 偽アプレイウスの “Herbarium Appulei Platonici” の適切なテキストは見いだせなかったので,写本や木版本の図を示す.

Ⓐ.Gonzaga, Francesco / Julius <Papst, II.>: Herbarium Apuleii Platonici, mit Widmungsbrief des Autors an Kardinal Francesco Gonzaga bzw. an Kardinal Giuliano della Rovere, [Rom], [ca. 1481/82]
καλλιτρι
cον.” (lovely hair)

. Pseudo-Antonius Musa, De herba vettonica liber; Pseudo-Apuleius Platonicus, Herbarium or De medicaminibus herbarum liber, imperfect

Date: Early 15th Century

“NOMEN HERBAE POLYTTRICUM. (Names of the herb polyttricum)

A græcis dict (The Greeks call it)         Adiaton.
Alii (others)                                           Polyttricu.
Alii (others)                                           Tricuman.
Alii (others)                                          Euentricon.
Alii (others)                                           Itteres.
Aegyptus (The Egyptian [call it])        Etlim.
Romani       (The Romans [call it])        Cincinnalis.

Alii Terre capillos. Alii Stupcillium terræ
Nascitur in parientinis & humerosis locis. (It grows in ??? & ??? areas.)

AD COLIDOLOREM.
Herba Polyttricu q habet ramulos qsi seta porci
na eius folia cotrita cu piperis gran. ix. & sem. co
riandri gran. ix. cotrita simul cu uino optimo da
bis bibere introeunti in balneu. facir et ad capil/
los mulieru nuturiendo.”

続く