根は手打ちうどんの様に太く,内部には菌類が住み着き,シュンランと栄養を交換し合って共同生活をしている.昔は民間薬としてこの根を蒸すか焼いてすりつぶし,ひびやあかぎれの手当てに使った.
花は茹でてお浸しなどにして食べたり,塩漬けにして吸い物や蘭茶として祝い事に用いた.塩漬にするときに,梅酢を少し加えると,唇弁の斑点(ほくろ)が赤紫色に発色して見栄えがよくなるとのこと.
日本中に広く分布し,花のつくりや花被の色や模様に特徴があるため,ジジババ・ゲンコツバサミ・テングバナ・オナツセイジュウロウ・ホクロ・ウグイス・ハックリなど方言名が多い.江戸時代から観賞用の栽培が始まり,花の色変わりや葉の変化には現在も愛好家も多く,斑点のない素心系や赤花系などがある.
○伊藤伊兵衛『花壇地錦抄』(1695)では,「春蘭 葉ハらんのちさき物にて花形もらんのごとし」とあり,同書の「草木植作様伊呂波分」の項には,「しゅんらん 植分二八月野土ニ合肥赤土等分日かげニ植べし」とある.
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春蘭(ほくり) △按ずるに、春蘭は蘭に似て細く短く、長さ七、八寸に過ぎず。春月に花を開き、亦た秋蘭に似て香稚浅し。冬月に其の根を採りて慈姑に似たり。能く皸瘡(あかがり)を治す。
現代語訳 島田・竹島・樋口,島田勇雄,竹島淳夫,樋口元巳訳注,平凡社-東洋文庫
春蘭(ほくり) 俗に保久利という △思うに、春蘭の葉は蘭に似ていて細短く、長さは七、八寸に過ぎない。春月に花が開くが、また秋蘭に似ていて、香りはやや浅い。冬月にその根を採る。慈姑(くわい)に似ている。よく皸瘡(あかぎれ)を治す。とある.
○貝原益軒『大和本草』 (1709) では「巻之八 草之四 芳草類」と「巻之九 草之五 雑草類」とに二回記述され,前者では,栽培法が,後者では「ハクリ」という名で「山ニ生ス幽蘭葉ニ似タリ茎ニミゾアリテ三角ナルカ如シ花モ幽蘭ニ似テ微香アリ山人其根ヲ取アブリテヘラニテヲセバノリノ如クニナルヲ用テアカガリノ口ニツクレバ能イエ又白及(シラン)ノ根モ同ジク治ス」とあかぎれに薬効があることが記載されている.
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○小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806) では,「巻之十 草之三 芳草類」の「蘭草 フヂバカマ」の項に〔正誤〕春蘭ハ一名報春先(秘伝花鏡)独頭蘭(蘭譜)ホクロハ比一種ナリ」とそっけない.いわゆる民間薬で,本草(薬用植物)としての扱いはされなかったのであろう.
シュンラン(1)はこちら.