2013年3月19日火曜日

マンサク(1/2)物品識名,綯麻(ねそ),ハマメリス葉

Hamamelis japonica
撮影 茨城県フラワーパーク
早春の野山を最初に彩る日本原産の花木の一つ.葉のない枝を,黄色い細いカールしたリボン状の花弁とえび茶色の萼とで飾る.

NDL
縄文時代から建築に使われていたといわれる利用価値の高い木ながら,文献ではあまり見られず,木村陽二郎監修『図説草木名彙辞典』柏書房 (1991) には,出典として岡林清達・水谷豊文『物品識名』(1809 跋)が記載されるのみ(左図,文中の「ウメズヱ」が何かは分からなかった).観賞用花木や生薬としての価値がないとみなされていたからであろうか.
磯野の初見*は狩野常信『草花魚貝虫類写生』(1661-1712)の 1704 年度分だということだが,所蔵している国立博物館から公開されている画像では確認できなかった.他の江戸時代の園芸書・図譜を調べたが,この植物の記述や図は見出せなかった.

芽吹き頃のマンサクの樹皮は粘りが強く切れにくいので,縄のない縄文時代では材と材とをむすんで固定するために使われていたと考えられ,後世でも綱の代りに,材を打ち砕いて「綯麻(ねそ)」として筏や薪,建築物の柱を結ぶためなどにも利用された.世界遺産として知られる岐阜白川郷の合掌家屋の「くだり」や「やなか」と呼ばれる構造材の部分は何百本の「綯麻(ねそ)」で締めこんで合掌家屋の構造を支えている .実際の使われ方は『茅葺き職人のブログ(http://www.kayabuki-ya.net/ver1/notebook/2008/03/0309.html)』に詳しい.

中国産のシナマンサクや米国産の種との交配などで花弁の色が赤やオレンジ,白など多くの園芸品種がつくられていて,庭木や公園樹として植えられ,盆栽,花材にも利用される.また葉にはタンニン類が多く含まれるので,米国産の近縁種,ハマメリス Hamamelis virginanana L. の代用にハマメリス葉 (Hamamelidis Folium) として用い得るが,日本ではほとんど使われていない.

メキシコおよび北米ではハマメリス葉を収れん,止血,止瀉薬とし赤痢,細菌性の下痢に煎剤(1日5g)を内服し,また痔の坐薬,湿疹などの軟膏に配合する.成分は約3%のタンニンで hamamelistannin と呼ぶものが知られている.

なお,最近植え込みや生垣として人気のある,赤や白の花をいっぱいにつける「トキワマンサク」は同じマンサク科ながら,別属(Loropetalum属)の植物.

*磯野直秀『資料別・草木名初見リスト』慶應義塾大学日吉紀要 No.45, 69-94 (2009)

2016/05/31 追記

最近読んだ1920年代の米国北東部の小さな町の医師が謎の事件を解決する,エドワード・D・ホック著,木村二郎訳『サム・ホーソーンの事件簿I』(2000)の「呪われた野外音楽堂の謎」には,訪れた薬局で看護婦のエイプリルが「帰る前に、母のためにマンサクのエキスを買わないといけないので」と云い,サムは「そして、店を出るとき、母親のためにマンサクのエキスを買うのを忘れないようにと、エイプリルに言ったんだ……」とある.原文は確認できなかったが,20世紀前半には米国の町の薬局でマンサクのエキスが日常的に使われる薬品として売られていた事がわかる.

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