2005年5月 ひたち海浜公園 |
1.学名の由来
Linnaeus "SP2-2", p1467 (1753) |
この “Coriaria“ は,ラテン語の “corium” すなわち「革」に由来し,セイヨウドクウツギの葉がタンニンを多く含むため皮をなめして革に作るのに用いられたからである.この葉は乾燥されて北部欧州に皮なめし用として地中海沿岸諸国から多量に輸出されていた.
プリニウス博物誌の BOOK XXIV. LIV. 91 の “Rhus” 「ルス」の項に,以下のような記述があり,その “Rhus” の一つはセイヨウドクウツギ (C. myrtifolia = ギンバイカの葉の)であり,ローマ時代以前から皮のなめしに用いられていたと考えられる.
"LIV. Neither has rhus received a Latin name, although many uses are made of it. For it is both a wild plant with myrtle-like leaves and short stems, which expels tapeworms, and also the shrub called "the tanner's", of a reddish colour, a cubit high, and of the thickness of a finger, the leaves of which when dried are used as is pomegranate rind in the tanning of leather."
「ルスも、かなり多くの用途があるのにラテン名をもっていない.しかもこの名をもつ植物には,ギンバイカのような葉の茎の短い草本で条虫を駆除する作用のあるものもあり,赤みがかった色をして丈が 1 クビトゥム (約 44 センチ),太さが 1 ディギトゥス(約 1.9 センチ)の,「皮なめし用」と呼ばれる灌木もある.この灌木の葉を乾燥させたものは,ザクロの皮と同様に,皮をなめすのに用いられる.」
日本産のドクウツギの葉に,タンニンが多いか不明であるが,皮をなめすのに使われていたという情報は得られなかった.現在日本で用いられている植物性鞣し剤については,日本タンナーズ協会の "http://www.tcj.jibasan.or.jp/dictionary/process/tan.html" に詳しい.
2.分布
一科一属のドクウツギ科ドクウツギ属には,現在まで14-30の種があるとされている(Wikipedia(E): ca.30, Simple English Wikipedia: 16 (including subsp. & var.: 24), USDA GRIN (Germplasm Resources Information Network); 14).
生育地は世界に広がっているが,地中海沿岸,ヒマラヤ山麓,極東アジア,ニュージーランドを中心とするオセアニア,アンデス山麓,アマゾン流域,メキシコなど,飛び飛びに分布している.
『植物の来た道』 前川文夫(1998)より 想定古赤道を赤で強調 |
①ニュージーランドと周辺,②ニューギニア*,③フィリピン,④台湾,⑤日本,⑥中国-ヒマラヤ,⑦地中海西部、⑧メキシコ-ペルー,⑨チリ
そして,地軸の時代による変化を考慮にいれると,白亜紀から第三紀の赤道の位置がこれに当たるものと考えた.(* 前川文夫『植物の来た道』 (1998)では,ニュージーランドと誤記)
そして,上記のような植物の分布が,この円に沿った部分の中で,現在も熱帯か暖帯に含まれる部分であると見なす.つまり,彼はこの特異な分布は以下のようにして形成されたと考えた
1.これらの植物は,その時代(白亜紀から第三紀)の赤道(古赤道)周辺に分布していた.
2.やがて地軸がずれ,赤道の位置が動いて現在の赤道になった.
3.古赤道周辺に生育していたドクウツギ類は,その後寒くなり過ぎた地域では絶滅し,それ以降も温暖なままである地域のみに残った.(前川文夫『植物の来た道』八坂書房 (1998))
しかし,この魅力的な考えは,近年,遺伝子解析の結果否定されたらしい.その詳細は探しきれなかったが,「地中海・アジアに分布する種と,中央・南米・大洋州に分布する種とは異なった先祖をもち,前者は新生代の氷河作用及び乾燥期で分断され,現在の隔離分布を示すようになった.一方後者の分布は簡単には説明できないが,中米から太平洋の島々に,そこから南米のチリに運ばれて分布したと考えられる.(University of Connecticut)」そうだ.(http://web.uconn.edu/mcbstaff/benson/Frankia/Coriariaceae.htm)
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