1978年5月 スコットランド 中央部海岸 |
学名をつけたのは,ドイツの植物学者 Willdenow, Carl Ludwig (1765-1812) で,属名のアルメルアはケルト語の「海に近い」という意味で生育地に由来する.
地中海沿岸にはよく似たやや大型の植物があり,これについては,ペダニウス・ディオスコリデス(Dioscorides Pedanius , 40年頃-90年) が『薬物誌 De Materia Medica』に “Leimonion” と言う名で,この植物は10あるいはそれ以上の beet に似た葉をもっているが,その葉はbeetよりは薄くて小さい.ユリに似た,細い直立した茎をもち,それは赤い種がたくさんつき,その味は酸っぱい.この種子を細かく砕いて,ブドウ酒とともに1 acetabulum〔約66mg〕ぐらいの量を服用すると,血性下痢や痛痛に卓効があり,婦人の赤帯下を止める.この植物は野原〔湿原〕に生えていて,neuroides, potamogeton, lonchitis また raproniumなど多くの名で呼ばれている.と記録している.
1978年5月 スコットランド ベン・ネビス山 |
この “Startice” の名は後に別の植物 -スターチス(リモニア)- に転用された. Staticeの語源はギリシャ語で「静止の」を意味するΣτατικός(ラテン文字転写:statikos)であり,海岸の砂の移動を抑えるから,あるいは下痢や月経の血を止めるからとも考えられる.
欧州北部には,この“Leimonion” “Startice” は自生していないので,中世の本草書では,生育地や形状の類似性から,アメリアがこれに比定されたと考えられる.
レムベルト・ドドエンス(1517-1585)の”Crŭÿde boeck『本草書』”(1563)には,大小二種のアルメリアが “Gramen polyanthemum maius” (1616版), “Van Grass met veele bloemen” (1644版) の項に収載されている.1644年版には図が添えられており,小さいほうが,Ameria martima と分かる(右図).
またヘンリ・ライトの英訳本では,古代ギリシャの伝説の薬草 Moly (モリュー)のもどき (Moly bastard, Pseudomoly) と考えての薬効が記載されていると思われたが,解読できなかった.
英国ではチューダー朝時代(1485年 - 1603年)に流行したノット花壇の縁取りのために,英国自生の植物として庭に導入された最初の植物とされている.
ジョン・ジェラード(John Gerard aka John Gerarde, 1545 – 1611 or 1612)の “The herbal, or, General Historie of plantes 『本草あるいは一般の植物誌』” (1597) に,「Thrift(スリフト)はドドエンスが草(Grass)として分類したセキチク(Gillofloure*)の一種で,草(Grass)よりも小さく細く短い葉を厚く密生する.その葉の間から小さくしなやかで,葉をつけない裸の9インチほどの茎を伸ばす.その頂に,紫がかった白い小さい花を放射状の穂につける.根は長い.見られる場所は英国の塩分の多い沼地と,花壇やbanke の境界に適しているとして使われている庭である.ラテン語では多くの花が咲くことから,” Gramen Polyanthemum”,或いは ” Gramen marinum”, “Caryophyllus* Marinus” と呼ばれ,英語では ” Thrift” ,“ Sea-grasse, また,”our Ladies Cushion” の名がある.薬効はまだ知られていない.観賞用としてしか用途は無いと思われる.」(*= Carnation) と,古い本草書に記されている薬効はないことを認識している.(左上図)
ジョン・パーキンソン(John Parkinson, 1567-1650) の “Paradisi in Sole Paradisus Terrestris (Park-in-Sun's) 『日当たりの良い楽園・地上の楽園』” (1629) には,「この多年生の常緑草本は,花壇の縁取りに使われ,ノット(整形花壇の)と tryales (道の縁取り)に輝きを与えた.
なぜなら,はさみで上手に適切な時期に剪定されるなら,隙間無く茂って生育し,その上夏の終わりには,可愛い花をつける数多くの短い茎を抽し,他の草花の間に抜きん出る.
しかし不都合もあって,成長がよすぎるために繁茂して形がくずれる.また,冬季の霜や雪,あるいは夏の水不足で枯れるので,空所ができてしまうので,せっかくの形がくずれてしまう.そこで,年毎に新たに植えなおす必要がある.更にあまりに密生して繁るためにカタツムリや他の害虫の住処となるので,花壇の中に植えてあるカーネーションや他の美しい草花を害さないために,これらを駆除する日ごろの注意と対処が必要となる.」(右図)と細かい栽培法の注意をしているが,それだけ,この植物が当時の英国の庭園ポピュラーであったことを覗わせる.
これらの欠点があるにせよ,アルメリアは縁取用あるいはロックガーデン用草花として,特にドイツや英国でいまだに人気を博している.
英国で発行されていた3ペンスの硬貨(threepenny bit)のうち,1943年から1952年に鋳造された12角形のものには,三本の花茎のアルメリアが印されていたが,なぜこの花が選ばれたかはよく分からないとの事(左図,1942鋳造).
ノット花壇 ザルツブルグ 市庁舎 1979年7月 |
日本でもハマカンザシの名で,花壇に植えられるが,夏の暑さと湿度のためか,あまりポピュラーではない.
また,中国名は英俗名の Sea-pink をそのまま訳したのか,「海石竹」である.
ノット花壇は西洋式庭園の様式の一つではあるが,現在英国ではあまり見られず,自然を模倣したイングリッシュ・ガーデンやコッテージ・ガーデンが主である.
フランスやオーストリアでは多く見られる.その場合の縁取りはツゲやベゴニアが採用されている.
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