Helianthus annuus
(L) Daniel Froeschl Sunflower, tempera on paper, from Codice Casabona Biblioteca Universitaria, Pisa (R) 毛利梅園: (1798–1851)『梅園草木花譜』(図 1820–1849), NDL Tokyo |
16世紀に,ヒマワリがスペインに舶来すると,花のいろどり・大きさ・豪華さ,草丈の高さから,当時の植物学者や愛好家から大きな驚きを以て迎えられ,種と情報は彼らの間に行きかった.
多くの本草書に挿図が描かれたが,ごく初期の芸術作品として特筆すべきは,イタリアのメディチ家の保護の元,多くの珍しい植物が育てられたピサ大学付属植物園で咲いたヒマワリを描いた,ドイツ人のミニチュアリスト
Daniel Fröschl (1563-1613) のグアッシュ技法で描かれた作品であろう.特に上図左側上部の花の裏側を描いた作品は,欧州のヒマワリの絵画としては最初のものとされ,Codice Casabona の一つとして,ピサ大学に所蔵されている.
日本でも,200年ほど後の 1826 年に,毛利梅園(1798 – 1851)の『梅園草木花譜』(1825 序,図 1820 – 1849)の「秋之部三」にも,ヒマワリの花とその裏側の見事な図が描かれている(上図右側上部).この花を裏側から観察して描いた図はそれまでの本草図譜には見られず,梅園が本草家としてより,芸術家として自然美を評価する目を持っていた事がわかる.
ピサ大学付属植物園は,メディチ家の初代トスカーナ大公コジモ1世 (Cosimo I
de' Medici, 1519 – 1574, 在位:1537 - 1574) が荒廃したピサ大学(設立:1343年)復興の一環として,教育のための薬草園を開設したことに始まる.彼は最初,ドイツから当時の最高の博物学者フックス (Leonhart Fuchs, 1501–1566) を指導者として招聘したが,宗教上の理由から断られた.そこで,1543 年にボローニャ (Bologna) 大学の教授であったルカ・ギーニ(Luca Ghini, 1490-1556) を呼び寄せ,ギーニは弟子たちの協力を得て1544年にピサ学術植物園(Orto botanico di Pisa)を設立した.
D. Fröschl Codice Casabona |
コジモ1世はオランダの植物学者 Joseph de
Goethuysen (イタリア名:Casabona, Giuseppe, approximately
1515-1595)をフィレンツェに呼び寄せ,自分の庭園の管理を依頼し,Casabona は宮廷庭師としての地位を確立した.
その実績を買って,メディチ家の第3代トスカーナ大公フェルディナンド1世 (Ferdinando I de' Medici, 1549 – 1609,在位:1587 - 1609)は,1583年に Casabonaをピサ大学付属植物園の園長に据えた.さらに,フェルディナンド1世は,スタジオを設けて,園に収集した植物の絵を記録するとともに,花々の絵を描く芸術家達の便宜を図った.
その一人の Daniel Fröschl は1月当たり10スクド (scudi) の支払いを受ける常雇いであり,1613年には神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ二世(Rudolf II. 1552 - 1612)のプラハの宮廷詰めの自然科学コレクションのキューレーターに任命された程の能力を持っていた.
Daniel
Fröschl がピサ大学付属植物園の花々を描いたフォリオ版の美花集の存在は当時からよく知られていた.この図譜集は長年行方不明だったが, 1992 年 11 月のロンドンのクリスティーズのオークションに突如として現れ,イタリア政府が 153 枚からなるコレクションを購入して,由縁のピサ大学に寄贈した.現在は大学図書館(Biblioteca
Universitaria di Pisa, Codice Casabona)に保管されている.
多くの芸術家によって植物園で描かれた絵画は,メディチ家の宮廷やフィレンツェの名家の家庭を彩る家具や調度品のモチーフとしても使われた.
(参考文献:L. TOMASI, G. HIRSCHAUER "The Flowering of Florence-BOTANICAL ART FOR THE MEDICI" (2002) NATIONAL GALLERY OF ART, WASHINGTON)
(参考文献:L. TOMASI, G. HIRSCHAUER "The Flowering of Florence-BOTANICAL ART FOR THE MEDICI" (2002) NATIONAL GALLERY OF ART, WASHINGTON)
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