Ilex
latifolia
古くから「タラヨウ」の葉の裏に先のとがったもので字を書くと,その跡が黒く残る事は知られていて,ハシカ除けの「麦殿」の歌が書かれた.
また,一説には「葉書」が「(タラヨウの)葉に書いた通信文」から出た(出典,確認できず)そうだ.
また,一説には「葉書」が「(タラヨウの)葉に書いた通信文」から出た(出典,確認できず)そうだ.
この説にちなんで郵政省(平成15年度より日本郵政公社)は,平成9年に郵政省環境基本計画の一環として、「郵便局の木」をタラヨウと定め(未確認),各地の郵便局で植樹を行った. 現在の日本郵政グループも「タラヨウ」を郵便局のシンボルツリーとしている.その葉は,定形外の郵便物として,郵送できるそうだ.
地元のある郵便局にこの樹が茂っているのを見つけて(左図),その葉で,「タラヨウ(1) 和文献」に書いた,貝原益軒★『大和本草
巻之十一 園樹 タラヤウ』 (1709) と,同★『大和本草 巻之二十 諸品図中[多羅葉]』(1709) の記述を実験してみた.
「大和本草 巻之十一 園樹 タラヤウ」には,「多羅葉(タラヨフ) 葉大ニ長クシテアツシ
實ハ赤クシテ多ク
所ニアツマレリ
叉雄木アリ
無實四時葉アリ
天竺ノ貝多羅葉ニ佛經ヲカク由西域ノ書ニ見エタリ
此葉ナルヘシ
昔或古寺ノ重物ニ貝多羅ハナリトテ在シヲ見タリシカ
此葉ノ形ニシテ猶大ナル物ナリキ
西域記ニ貝(ハイ)多羅樹果熟シテ即赤シ
如二大石榴人一ノ多レ食之トイヘリ
然レハ此地ニアルト不レ同
此木ノ葉ノウラニ竹木ノ刺(ハリ)ヲ以文字ヲカクニ 其アト黒クシテ恰墨ニテ書クカ如シ 然レハ又此木眞ニ多羅樹ナルヘシ○此木ノ皮ヲハキテ
トリモチニスル
十大功勞ニ同シ
此木古来吾邦ニアリシニヤ處々山林ニアリ
多羅ノ木ト云モノハ別ナリ
又一種西土ニテ大モチノ木ト云モノタラ葉ニ似タリ
是タラ葉ノ別種也
冬モ葉不レ脱チ」とあり,また,
「大和本草巻之二十 諸品図中[多羅葉]」には,「火ニテアブレバ如レク此 ウラ表ニ文生シテ其色黒シ ウラヨリアブレバ表ニモトホル 表ヨリアブレバ裏ニモトホル 奇異ナリ 他木葉 檍(アオキ)ノ葉 木犀ナトアブレバ不レキ如レ此ノシ 又モクコクノ木ノ葉ヲアブレバウラニ紋イヅ 三葉皆多羅葉ナリ ヤキテ文生ス」とある.
表面がつやつやとした肉厚の葉は,葉身の長さ 15-20 cm ほど,幅 5-9 cm 程で,小さな鋸歯が葉縁にある.裏面は薄い緑色で,中央に太い主脈が目立つ.裏面にくぎの先で,「麦殿」の歌は長すぎるので,同じ麻疹除けの咒として飲まれた「三豆湯(さんずとう)」と刻んだら,あっという間に黒く現れた.
まさに,「此木ノ葉ノウラニ竹木ノ刺(ハリ)ヲ以文字ヲカクニ 其アト黒クシテ恰墨ニテ書クカ如シ」
更に蚊取り線香の火で,表から3点,裏から2点,炙ったところ,黒い輪が,他の面に現われ拡がってゆき,中心部は元より薄い色となり,濃い緑色の表面に於いては特に目立った.炙った面にも全く同様な円環が認められた.
「火ニテアブレバ如レク此 ウラ表ニ文生シテ其色黒シ ウラヨリアブレバ表ニモトホル 表ヨリアブレバ裏ニモトホル 奇異ナリ」
刻書で現れた文字も,炙って出てきた円環も,かなり保存性は良いように思われる.
梶よう子★『桃のひこばえ 御薬園同心水上草介』集英社 (2014) には,江戸後期,小石川御薬園に勤める植物フリークの水上草介と,上司芥川小野寺(おのじ)の娘,千歳とのじれったい恋物語が描かれるが,その中に,嫁に行くためとして御薬園を出る千歳に,草介が「千歳に幸せになってもらいたい。その思い」を,タラヨウの葉の裏に書いて「駕籠の中で、しばらくしたら裏に返してください」と言って手渡す場面がある.梶よう子さんは,江戸時代に関する文献をよく読んで,興味深い事項を巧みに小説に取り入れている.
このような「タラヨウ」の性質は,多くの方言を生んでいて,★八坂書房編『日本植物方言集成』八坂書房(2001)には
熱や刻書で葉に文様や絵,字が出てくる性質から「あぶりだし:鹿児島(出水).えかきしば:長崎(東彼杵),熊本,大分(日田).かたつけば:豊州.じかきしば:佐賀(藤津・杵島).じゃきしば:佐賀(藤津・杵島).もじんばり:紀州.もんつきしば:岡山,山口,山口(厚狭),愛媛,高知,高知(幡多)熊本(熊本市).やいとのき:和歌山(西牟婁・田辺市)」が,
葉縁に鋸歯があることから「のこぎり:熊本(球磨),宮崎.のこぎりしば:高知(高岡・幡多).のこぎりば:熊本(球磨),大分(南海部),宮崎.のこぎりやんもち:宮崎,熊本,鹿児島.のこぎりもち:熊本,大分,宮崎,鹿児島.のこしば:長門.のこぼ;鹿児島(薩摩).のこやみ:鹿児島(曽於).のこやん:鹿児島(曽於・鹿屋).のこやんもち:鹿児島(伊佐・大口).のこんは:鹿児島(姶良)」が,
樹皮からトリモチが採れることから「お-とりもち:高知(高岡・幡多).お-ばとりもちのき:福岡(粕屋).お-ばもち:高知(高岡・幡多).お-もち:鹿児島(大根占).おがしばもち:高知(幡多).はほばもち:高知(高岡・幡多).のこぎりやんもち:宮崎,熊本,鹿児島.のこぎりもち:熊本,大分,宮崎,鹿児島.もちのき:岡山(美作),熊本(芦北).やんもち:鹿児島(姶良)」が,
その他,「おがば:高知(高岡・幡多).たらのき:福井(坂井),てがたぎ:高知(安芸)」と,多数記録され,西日本では生活に密着していた木であることを伺わせる.
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