2018年5月13日日曜日

ツグミ(9) 食物本草・養生哥--2 広益本草大成,巻懐食鏡,食療正要,食品国歌,飲膳摘要,日養食鑑

Turdus eunomus

ツグミは『本草綱目』の「百舌」と考定されていたので,「小兒久シク不ヲ治ス」薬物とされていたが,一方滋養に富む病人の保養食(薬食)としても,高く評価され,江戸時代の多くの食物本草に記載されていた.
画像は『食品国歌』と『飲膳摘要』のそれを除いて,NDLの公開デジタル画像より部分引用.


江戸時代中期の京の医師・本草家として一派をなした★岡本一抱 (1654 – 1716) の『広益本草大成 全二十三巻』(1698) の「第十巻 禽部」には
百舌] 肉治小兒不
樹窟穴中ニ 狀如鴝鵒小身略長.灰黒色
- 食 立春止 夏至ヨリ無聲」とあり,『本草綱目』からの記事が引用されているが,一方
「[鶫鳥(ツグミ)]
甘平〇冝食病者亦食毒」
と,百舌とは別に,ツグミの薬食としての効用が記されている.(左図)

江戸時代中期の後世派を代表する筑前 (福岡県) の医家★香月牛山 (16561740) の『巻懐食鏡(1767) には,
豆久見(ツグミ)
--按順---訓之未-
豆久見(ツグミ)ノ種-類甚-多也有黑豆及見(クロツグミ)磯豆(イソツ)
久見(クミ)志那伊(シナイ)--豆(クワツ)天-宇(テウ)-皆豆久
見之類也味甘炙ンシテ而無毒病人食之無忌」
と,病者に適した食餌との記載がある.(右図)

★松岡玄達(恕庵)(1668 - 1746) 編『食療正要(1770) は,食事療法を説いた書物であるが,その「巻三 禽部」には
紫古密(ツグミ)         達曰又有海紫古密(ウミツグミ)灰 
-色有黄斑点又有黒紫古密(クロツグミ)
[氣味] 甘平無毒         [主治]開久痾」(左図)
とあり,ツグミには何種かあり,久しく患っている人の栄養補給と食欲増進に効果があるとしている.


御醫・法印★大津賀仲安(生没年不詳)の『食品国歌(やまとうた)』(1787)は,食品に関する留意すべき点を五・七・五・七・七の和歌形式,すなわち「国歌(やまとうた)」で憶えやすく説く書である.その巻頭には「水部」(みづのぶ)として

「井泉水はハ新吸なるを用由へし泥土あるは實食ふべからず
白湯こそは百沸たるに能ありて半熟なるは害ぞ有へし
食鹽はよく心腎肌骨養へど消渇の人あしきとぞ知れ」の三首が記され,以下,
「生姜よく風寒をさり痰を治し胃の気をひらき諸毒解す也
胡葱はうち温めて気を下し穀を消じて五臓益あり」
などといった生活の知恵とも言うべき食品の功罪を詠み込んだ和歌が並ぶ.
その「下巻,禽部」には,
紫古密(つくみ)よく食(志よく)を進(すすめ)て胃をひらき久痾(きゅうあ)の人ハ食(くら)ふてとよ記」
と玄達の『食療正要』の内容を,口調よく覚えやすい形式で記した.(右図)
画像は国文学研究資料館の該当ページにリンク

江戸時代最大の本草家★小野蘭山 (1729 - 1810) が審定し,孫の小野職孝 (1774 - 1852) が纂輯した『飲膳摘要(1804) の「津」の「鳥」の節には
ツグミ甘平毒ナシ 胃ヲ開キ食ヲ進ム」とある.
(左図:画像は早稲田大学図書館公開デジタル画像部分,リンク先はその該当ページ

石川元混(為春)『日養食鑑(1820) は,食物がいろは順で記載され,本文も平仮名で書かれている庶民向けの食物本草であるが,その「つ」の章には
つぐみ
甘平.毒(どく)なし胃(い)を開(ひら)き食(しょく)を進(すす)む久病の人に冝
く炙(あぶ)り食すれバ味(あじ)甚(?)美(?)なり
〇黒つくみ           前と同し」と,玄達の『食療正要』と略々同じ記事が載っている.(右図)

このように,味はよく栄養に富み,特に長患いの病人に食欲増進の効用があるとされたツグミは,多数が群れをつくって大陸から渡ってくる習性を利用され,江戸末期には霞網で大量捕獲されるようになった.

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