ツグミは『本草綱目』の「百舌」と考定されていたので,「小兒久シク不ルレ語ラヲ治ス」薬物とされていたが,一方滋養に富む病人の保養食(薬食)としても,高く評価され,江戸時代の多くの食物本草に記載されていた.
画像は『食品国歌』と『飲膳摘要』のそれを除いて,NDLの公開デジタル画像より部分引用.
「[百舌] 肉治二小兒不ルレ語ヲ一殺スレ蟲ヲ
居二樹窟穴ノ中ニ一 狀如ク二鴝鵒ノ小身略長シ.灰黒色
微ノ有テ二斑-點ノ一 食スレ蚯ヲ 立春ノ後ヲ鳴テ不レ止 夏至ヨリ無聲」とあり,『本草綱目』からの記事が引用されているが,一方
「[鶫鳥(ツグミ)]
甘平〇冝クレ食病者モレ亦食テレ之ヲ無シレ毒」
と,百舌とは別に,ツグミの薬食としての効用が記されている.(左図)
「豆久見(ツグミ)
啓-益-按順ノ倭-名-抄ニ以二鶫ノ-字ヲ一訓之未レ詳二出-處一
豆久見(ツグミ)ノ種-類甚-多也有二黑豆及見(クロツグミ)一有二磯豆(イソツ)
久見(クミ)一有二志那伊(シナイ)一有二久-和-豆(クワツ)天-宇(テウ)一是-皆豆久
見之類也味甘炙ンシテ而無レ毒病人食レ之無レ忌」
と,病者に適した食餌との記載がある.(右図)
「紫古密(ツグミ) 達曰又有二海紫古密(ウミツグミ)一大サ如クレ鴫ノ灰
白-色有二黄斑点一又有二黒紫古密(クロツグミ)一
[氣味] 甘平無毒 [主治]開レ胃ヲ進レ食ヲ最モ冝二久痾ノ人ニ一」(左図)
とあり,ツグミには何種かあり,久しく患っている人の栄養補給と食欲増進に効果があるとしている.
御醫・法印★大津賀仲安(生没年不詳)の『食品国歌(やまとうた)』(1787)は,食品に関する留意すべき点を五・七・五・七・七の和歌形式,すなわち「国歌(やまとうた)」で憶えやすく説く書である.その巻頭には「水部」(みづのぶ)として
「井泉水はハ新吸なるを用由へし泥土あるは實食ふべからず
白湯こそは百沸たるに能ありて半熟なるは害ぞ有へし
食鹽はよく心腎肌骨養へど消渇の人あしきとぞ知れ」の三首が記され,以下,
「生姜よく風寒をさり痰を治し胃の気をひらき諸毒解す也
胡葱はうち温めて気を下し穀を消じて五臓益あり」
などといった生活の知恵とも言うべき食品の功罪を詠み込んだ和歌が並ぶ.
その「下巻,禽部」には,
「紫古密(つくみ)よく食(志よく)を進(すすめ)て胃をひらき久痾(きゅうあ)の人ハ食(くら)ふてとよ記」
と玄達の『食療正要』の内容を,口調よく覚えやすい形式で記した.(右図)
画像は国文学研究資料館の該当ページにリンク
画像は国文学研究資料館の該当ページにリンク
「[ツグミ]甘平毒ナシ 胃ヲ開キ食ヲ進ム」とある.
(左図:画像は早稲田大学図書館公開デジタル画像部分,リンク先はその該当ページ)
石川元混(為春)『日養食鑑』(1820) は,食物がいろは順で記載され,本文も平仮名で書かれている庶民向けの食物本草であるが,その「つ」の章には
「つぐみ
甘平.毒(どく)なし胃(い)を開(ひら)き食(しょく)を進(すす)む久病の人に冝
く炙(あぶ)り食すれバ味(あじ)甚(?)美(?)なり
〇黒つくみ 前と同し」と,玄達の『食療正要』と略々同じ記事が載っている.(右図)
このように,味はよく栄養に富み,特に長患いの病人に食欲増進の効用があるとされたツグミは,多数が群れをつくって大陸から渡ってくる習性を利用され,江戸末期には霞網で大量捕獲されるようになった.
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