2013年8月24日土曜日

サンカヨウ(1/3) 草木図説,中国の山荷葉(Diphylleia sinensis,Astilboides tabularis ),薬効

Diphylleia grayi
2007年6月 尾瀬が原
深山に咲く美しく可憐な花であり(但し,白色の花弁状にみえるのは6個ある内萼片で,花弁は無い),平地での栽培は難しく,会うにはこちらから伺うしかない.そのためか,江戸時代の園芸書・本草書には殆んど記載がなく*,見つけることが出来たのは,幕末の『草木図説前編』で,これには雄渾な図と詳しい記述があった.

* その後,毛利梅園の『梅園草木花譜』(1825 序)と内藤尚賢の『増補古方薬品考』(1842)にサンカヨウの記事を見つけたので,別項「サンカヨウ(3/3)」で紹介する.

★飯沼慾斎『草木図説前編(草部)』(成稿 1852年(嘉永5)ごろ,出版 1856年(安政3)から62年(文久2))
「山荷葉 通名
草木図説 第七巻ニ十五葉 NDL
深山幽谷ニ生シ.一根一茎.老根ニアツテハ高一二尺.分岐二トナリ各頭一葉.大サ七八寸.形扁円ニシテ二ノ大欠刻相対シ.邊縁不斎ノ大尖頭起ヲナン.惣テ尖細ノ不斎歯ヲ具ス.靣緑色背稍淡シテ微軟毛アリ.蒂葉心ニツム.一岐更ニ枝ヲ分チ一小葉ヲツク.ソノ葉ニアツテハ一欫刻深ク蒂(へた)ノ処至リ.ソノ処ヨリ一寸許ノ花茎一二ヲ出シ数亜ニ分レ毎頭一花ヲ放ク 草木大者ハ一岐ハ大葉一岐ハ小葉ニシテ●ニ花ヲツク 萼三葉花五弁.共ニ卵円白色形如梅花ニシテ稍小.実礎楕円ニシテ尖.結頚瘖●アリ.雄蕊六ニシテ長葯双角アツテ黄粉ヲ吐ク.実桃葉珊瑚(オヲキバ*)ノ実ニ似テ小.熟シテ黒色.内ニ四子アリ.根形黄精ノ如クニシテ小.累々旧ヲ連綴横延シ.毎年一旧ヲ生ス 附 両蕊郭大図  所属未考」 *アオキ ●解読不能文字

このサンカヨウ属の植物は,全世界でわずか三種が知られている.本種,中国に分布する Diphylleia sinensis,そして米国に少数が生育する D. cymosa である.ハーバード大学のグレイ教授は,この分布が彼が唱えた「東アジア・北米隔離分布」学説の有力な証拠とした(但し,グレイ教授は日本産のサンカヨウを米国産の D. cymosa と同一と誤って同定した.サンカヨウ(2/2)に記述).

A. tabularis
サンカヨウ(山荷葉,山に生えるハスに似た葉)の名称について牧野富太郎博士は,「和名は漢名山荷葉に基づくが本種の漢名ではない。」と云った.現代中国では山荷叶(叶は葉の簡字体)は二種の植物を言い,一つは D. sinensis (別名:阿儿七,窝儿七,旱荷,一碗水),もう一つはユキノシタ科の Astilboides tabularis (別名:大叶子,大脖梗子,右図)で,いずれもハスの葉に似た大きな丸い葉を持つ.

米国産の近縁種も,中国産の近縁種も,それぞれ根茎は民間薬として使われていて,前者はCherokee Indians are reported to have used D. cymosa to treat a variety of ailments((通例軽いまたは慢性の)病気,不快)and as a disinfectant(殺菌[消毒]剤) (D. E. Moerman 1986) とあり,後者の薬効は「活血化瘀,解毒消肿。用于跌打损伤,风湿筋骨痛,月经不调,小腹疼痛;外用治毒蛇咬伤,痈疖肿毒」であるとされている.

2008年7月八幡平
当然,日本産のサンカヨウにも薬効があってもしかるべきと思うが,実(左図)を食べると甘いとの情報はあるが,実や根茎を民間薬として用いたとの話はなく,またアイヌの人たちも薬としては用いていなかったようだ(アイヌ民族の有用植物 ).

サンカヨウの根茎に podophillotoxin. pieropodophylin, beta-apopicropodophyllin, kaempferol, quercetin, diphyllin 等が含まれている事は確認されており (Murakami. T., & A. Matsushima. 1961. Studies on the constituents of Japanese Podophyllanceae plants (In Japanese), J. Pharm Soc. Japan 81:1596-1600),抗がん作用が期待できるとのこと.

なお,米国産・漢産・和産,三種の違いについては,S Terabayashi, D E Wofford and T S Ying. "A monograph of Diphylleia (Berberidaceae)," Journal of the Arnold Arboretum 65:57-94 (1984) (http://biostor.org/reference/62083) に詳しい.

サンカヨウ (2/2) シーボルト, ミショウ,チャールズ・ライト,J.スモール,エイサ・グレイ「東アジア・北米隔離分布」, F. シュミット
サンカヨウ(3/3) 鬼臼 新修本草・本草和名・延喜式・本草綱目・和漢三才図会・本草綱目啓蒙・梅園草木花譜,増補古方薬品考

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