Elaeocarpus sylvestris var. ellipticus
ホルトノキ (2/3) に記したように,平賀源内によって提唱された「ヅクノキ・ハボソ」=「ホルトノキ」=「膽八樹」=「オリーブ」の式は,水谷豊文,大槻玄沢,小野蘭山ら,当時の著名な本草家によって追認され,広く知れ渡った.
しかし,実際に「ヅクノキ」の枝や葉を観察し,実を採取し搾り,オリーブの欧文献と比較し,この考定に異議を唱えた,実証的な本草家がいた.宇田川玄真である.日本での近代科学者の走りとも言えよう.
その書『遠西醫方名物考』の「阿利襪(オレイフ)」の項(下図)で,葉のつき方,落葉の色,果肉が少なくて油が搾り取れなく,わずかに取れた果汁は苦い事,等から,「然レバ「ハボソ」ハ阿利襪(オレイフ)ニ非ルカ,或ハ左ノ譯説ニ載ル一種野生ノ者カ,若(モシ)クハ地性ノ異(コト)ナルニ由テ,其實ニ油ヲ生セザルカ」と,変種や産地の影響を留保しながら,源内の考定に異議を述べた.
宇田川玄真(1769~1834)は,旧姓安岡,師である宇田川玄随の養子となる.大槻玄沢に蘭書を学び,オランダ語に堪能.解剖学の訳書「遠西医範堤綱」(1805)は有名で,膵,靭帯などの解剖名の創案者である.
[遠]
阿利襪(オレイフ) 蘭「オリハア」 羅「オレア」此樹ノ羅甸名
○按ニ阿利襪ハ西洋諸地ニ産スル一種ノ喬木ノ實ナリ.土人是ヲ搾(シボリ)テ油ヲ取リ藥用及ビ飲膳燈油ニ供シ又四方ニ貨ス.和蘭ニテ此油「オレイフ.オーリイ」ト名ク.左ニ舉ル阿利襪(オレイフ)油ナリ.舶来アリ.俗間薬舗「ホルトガル」ノ油ト呼ブ.
1822 遠西医方名物考 巻三十六 滋賀医科大学附属図書館 河村文庫 |
物類品隲ニ云紀伊方言「ヅクノ木(キ)」本草啓蒙ニ云.此樹 本邦暖地ニ多シ俗名「ヅクノキ」紀州「シアキ」九州「ハボソ」豆州ト云々」.今豆州産ノ「ハボソ」ヲ以テ阿利襪(オレイフ)樹ノ説ヲ較考スレハ,其樹葉花實ノ形状大抵相似タレトモ,但阿利襪(オレイフ)樹ハ葉ハ對生シ且ツ紅色トナラズ,「ハボソ」ハ葉互生シマタ葉落ルトキ皆鮮紅色トナル」
又壬午***ノ春.駿州及ビ豆州ノ「ハボソ」ノ熟實並ニ未熟ノ者ヲ多ク得テ,數(シバ/\)搾(シメキ)****ニ入レ搾リ試ルニ,唯澁味ノ稀汁出ルノミニテ,油出ルコトナシ.是ニ火ヲ點シ或ハ煎熬シ試ルニ絶(タエ)テ油氣ナシ.然レバ「ハボソ」ハ阿利襪(オレイフ)ニ非ルカ,或ハ左ノ譯説ニ載ル一種野生ノ者カ,若(モシ)クハ地性ノ異(コト)ナルニ由テ,其實ニ油ヲ生セザルカ,未ダ詳ナラズ」
マタ物類品隲ニ云ク此實ノ仁ヲ取テ油ヲ搾(シボ)リタルモノ所謂「ホルトカル」ノ油ナリト」
又本草啓蒙ニ云ク核中ニ仁アリ是ヲ搾(シボ)リテ油ヲ取ル即「ホルトガル」ノ油ナリト.
西洋諸説ヲ考ルニ,阿利襪(オレイフ)油ハ核中ノ仁ヲ搾(シボ)リ取ル者ニ非ズ.全果ノ肉盡ク油トナルコト,左ノ阿利襪(オレイフ)譯説ニ述ル如シ」
乃チ阿利襪(オレイフ)樹ノ形状並ニ其油ノ製法主治等ヲ記シテ考證ニ備フ
(以下略)
*平賀鳩渓:平賀源内,『物類品隲』(1763年刊)
**小野蘭山:『本草啓蒙(本草綱目啓蒙)』(1803-1806年刊)
***壬午:1822年
****搾(シメキ):締(め)木/搾め木とも.2枚の板の間に植物の種子などを挟んで,強く圧力をかけて油をしぼり取る木製の道具
ホルトノキ (2/3) 物品識名,蘭説弁惑,厚生新編,本草綱目啓蒙,草木育種,牧野
ホルトノキ (1/3) ホルトカル,ヅク,貝原益軒,加地井高茂,平賀源内,膽八樹,物類品隲
ホルトノキ (2/3) 物品識名,蘭説弁惑,厚生新編,本草綱目啓蒙,草木育種,牧野
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