2018年10月14日日曜日

ハマギク (1) 花壇綱目,花壇地錦抄,和漢三才図会,物品識名,梅園草木花譜,草木奇品家雅見,草木錦葉集

Nipponanthemum nipponicum
2003年10月 茨城県南部 植栽
学名(譯すと「日本の花 日本の」)が示すように,日本特産で,キク科の一属一種の植物.北海道から東北の海岸地方に自生する.大きく人眼を引く花と,厚い光沢のある葉が賞されて,江戸時代には庭園で育てられたが,薬用ではなかったからか,記録は少ない.
(文中の図はNDLの公開デジタル画像より部分引用)

初見は日本最古の園芸書★水野勝元の『花壇綱目』(1681)である.本書は中国やイギリスに並び世界的に見ても早期の園芸書で,園芸は武道や詩歌,音楽などの諸芸道と同等の存在として列する著述がみられる.
その「巻中 秋草の部」には,
濱菊    ●花臺白内黄咲比まへに同* ●養土は肥土にすなませ野土も加へ用なり ●肥は田作こまかに粉にして根廻へ少宛用叉油かわらけ粉にシテちらす也雨降まへ見合小便を少宛根廻へかくへし ●分植は秋の比」
*咲比まへに同:咲比八九月(唐鶏頭))とあり,鉢植えや庭園での育て方として,株分け時期や.養土・肥料が指示され,愛玩されていたことが分かる.

江戸一番の植木屋と言われた伊藤家の当主★伊藤伊兵衛の園芸書『花壇地錦抄』(1695)の「○菊のるひ 末より冬初」には,「はまきく」と名のみ載るが,説明はなく,名だけで判る花卉であったことが推察される.

★寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)の「巻第九十四の本,隰草類」には,
濱菊(はまぎく) 俗称 本名未詳

△按ずるに、濱菊は茎葉共に佛頭菊に似て、葉は狭く長く刻齒有りて深緑色、甚だ潤滑。九十月に白花を開く。菊に似て大厚し」(原文は漢文)とある.

★岡林清達・水谷豊文『物品識名 乾』(1809 ) の「波」の部には「ハマギク」の項は載るが,説明・記述は何もない.
本書は,品名を和名のイロハ順とし,ついで水・火・金・土・石・草・木・虫・魚・介・禽・獣に分け,各項にその漢名・和の異名・形状などを記した辞典で,序によれば,『物品識名』は,初め水谷豊文(17791833)の友人岡林清達が着手したが眼病で中絶し,豊文が継続,完成させた.イロハ順といっても,江戸時代の場合は第2字目以下はイロハ順ではないが,本書は「キリシマ・キリ・キリンケツ」のように,第2字目も同じ名を連続する工夫をしているので,一般的なイロハ引より使いやすい.本書は和名中心の動植鉱物辞典の嚆矢だったので,大歓迎された.

★毛利梅園(1798 1851)『梅園草木花譜』(1825 序,図 1820 1849)の
「秋之部四」には
「和漢三才圖會隰草類曰
濱菊      俗偁 本名不詳
              佛頭菊
いわときく

壬午南呂十有九日
雨闌亭寫」
と木質化した莖をも描いた 1822 年の819日に実物を写生した美しい図が残る.(壬午=1822,南呂=陰暦八月,十有九日=十九日)
梅園は博識家で,本書の図には漢書を含めて多くの文献を引用するが,本品に関しては和漢三才図会のみ.

梅園は江戸後期の博物家.名は元寿,号は梅園,楳園,写生斎,写真斎,攅華園など.江戸築地に旗本の子として生まれ,長じて鶏声ケ窪(文京区白山)に住み,御書院番を勤めた.20歳代から博物学に関心を抱き,『梅園草木花譜』『梅園禽譜』『梅園魚譜』『梅園介譜』『梅園虫譜』などに正確で美麗なスケッチを数多く残した.他人の絵の模写が多い江戸時代博物図譜のなかで,大半が実写であるのが特色.江戸の動植物相を知る好資料でもある.当時の博物家との交流が少なかったのか,名が知られたのは明治以降.

★金太(17911862)撰輯『草木奇品家雅見(1827) と,★水野忠暁 (17671834) 草木錦葉集(1829) には葉に斑の入ったハマギクが描かれている.
木版の圖は単色ながら実に美しく,特徴をよく捉えている.画家雲停の力量がしのばれる.ハマギクに関しては,花の傾き具合がやや異なるが,他は全くと言っていいほど同じ.
記述もあるが,よく読めないので,ご勘弁を.

享保年間(171635)に始まった斑入(ふいり)植物の愛好は18世紀後半から19世紀にかけて一段と過熱し,文政10年には斑入植物主体の『草木奇品家雅見』まで現われるにいたった.著者金太は江戸・青山の植木屋で,親しい画家などに写生を依頼して,本書を仕上げた.
絵筆を取ったのは,博物画家の関根雲停(180477)がもっとも多いが,大岡雲峯(雲停の師)や石川頑峯,長谷川雪洞,谷文晁などの名も見える.描かれたのは,斑入のほか,枝垂(しだれ)・帯化(茎の扁平化)・矮化・葉形の変異など.記述は斑入草木の作出者ごとにまとめて,上中下の3巻に分け,合計して500品ほどが描かれている.
草木錦葉集』の著者,水野忠暁は幕臣で,本姓は源.本書は斑入(ふいり)植物の図譜だが,葉替わり(葉型の変化)や奇品も取り上げ,本文と附録から成る.本文は種類名のイロハ順に配列され,精巧な図に解説を添えて,合計は1000品を超える.図を描いたのは,前書と同じく博物画家の関根雲停である.

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