2003年10月茨城県南部 植栽 |
学名(日本の花 日本の)が示すように,日本特産で,キク科の一属一種の植物.北海道から東北の海岸地方に自生する.大きく人眼を引く花と,厚い光沢のある葉が賞されて,江戸時代には庭園で育てられたが,薬用ではなかったからか,記録は少ない.(和書の画像は NDL 及び高知県立牧野植物園 牧野富太郎 牧野日本植物図鑑インターネット版 よりの引用)
★飯沼慾斎(1782-1865)『草木図説前編(草部)』(成稿
1852年(嘉永5)ごろ,出版 1856年(安政3)から62年(文久2))草類1250種,木類600種の植物学的に正確な解説と写生図からなる.配列はリンネの分類に従い,『本草綱目』によるそれまでの本草書の分類より近代化されている.
『草木図説』はラテン語の学名や時にオランダ語を加えている.慾斎に大きな影響を与えたのは宇田川榕菴の『植学啓原』と伊藤圭介(1803-1901)の『泰西本草名疏』である.後者はシーボルトに指導のもとツンベルクの『日本植物誌』(Flora
Japonica, 1784)の学名をアルファベット順に並べ,これに和名をあてたものである.リンネの分類体系のためには雄蕊・雌蕊を正確に数える必要があったことは、慾斎の花部の描写を丁寧で正確にし,図をより精密にした.
その「巻之十七」には
「ハマギク
余未詳産地,或云海濱ニアリト.冬梢枯レ舊莖残ツテ殆ド類木ノ如ク.春莖端ニ芽
ヲ出シ多葉纂簇ス.形ヤマベンケイサウノ葉ノ如シ,簇葉上無葉ノ莖ヲ出スコト六
七寸秋ニ至テ頂ニ一花ヲツク,形同蒿花ノ如シテ大,缺筒白色完筒黄色
按 Chrysanthemum (クリサンテムユム)ノ属ニ可収品ニシテ種名未考,」
とあり,花は春菊に似ている.学名は未詳ながら,キク属の植物であろうと言っている.
同蒿(= 茼蒿):シュンギク
缺筒:舌状花
完筒:筒状花
1890(明治23)年に鈴木卯兵衛を代表者として設立され,日本人商社として初めて植物類の輸出入業務を行った「有限責任横浜植木商会」を前身とする「横浜植木株式会社」は,シカゴで開催された米国コロンブス世界博覧会に盆栽と日本庭園を出品し好評を得るなど,日本産植物及びその文化の輸出では大きな足跡をのこした.
この横浜植木(株)(The Yokohama Nursery Co., Ltd)が1898(明治31)年に発行した海外向けに販売する植物のカタログには,百合・菊・花菖蒲など多くの園芸植物が掲載されているが,ハマギクの種も売られている.その学名は Leucanthemum nipponicum で,10粒が 1 ドルで販売されていた..
Leucanthemum nipponicum, chrysanthemum
family, In autumn white flower yellowish
centre 2-3 ft. high, graceful perennial flower.
慾斎の書を増補・改定し,学名を校定し,拡大図を追加した★牧野富太郎『増訂草木図説1-4』大正元年(1907-22)の「巻之十七」には
この横浜植木(株)(The Yokohama Nursery Co., Ltd)が1898(明治31)年に発行した海外向けに販売する植物のカタログには,百合・菊・花菖蒲など多くの園芸植物が掲載されているが,ハマギクの種も売られている.その学名は Leucanthemum nipponicum で,10粒が 1 ドルで販売されていた..
Leucanthemum nipponicum, chrysanthemum
family, In autumn white flower yellowish
centre 2-3 ft. high, graceful perennial flower.
ハマギク
Chrisanthemum
nipponicum Matsum.
キク科(菊科) Compositae.
余未詳産地,或云海濱ニアリト,冬梢枯レ舊莖残ツテ殆ド類木ノ如ク,春莖端ニ芽ヲ出
シ多葉纂簇ス.形ヤマベンケイサウノ葉ノ如シ,簇葉上無葉ノ莖ヲ出スコト六七寸秋
ニ至テ頂ニ一花ヲツク,形同蒿花ノ如シテ大,缺筒白色完筒黄色.
按 Chrysanthemum (クリサンテムユム)ノ属ニ可収品ニシテ種名未考,
〔補〕本品ハ陸奥以南磐城ニ至ル一帯ノ海邉ニ自生ス(牧野)」
と松村任三が付けた学名を追加し,慾斎が知らないとした産地を「陸奥以南磐城」の海岸だと追補した.
http://www.makino.or.jp/dr_makino03.html |
はまぎく
Chrysanthemum
nipponicum Matsum.
觀賞品トシテ往々庭園ニ培養セラルル
モ、叉東北地方ノ東海岸ニ自生ス。莖ハ
60-90cm 許ニ達シ、其下部往々灌木狀ヲ
成シ、冬ニ枯死セズ、翌春其上端ニ新莖
ヲ出シテ密ニ葉ヲ互生ス。葉ハ楔形ヲ呈
シ、丈夫ニ鋸齒アリ、質厚クシテ毛ナシ。
秋日梢上分枝シテ其頂ニ徑約 6cm ノ白色
ノ頭狀花ヲ開ク。中心小花ハ黄色、總苞
片ハ綠色ニシテ卵形ヲ呈ス。此種トふら
んすぎくトノ間種ニしゃすたーでーじー
アリテ庭園ニ見ル、學名ヲ Ch. Burbankii
Makino ト云フ。」とある.また,
新牧野日本植物図鑑(2008)には,
種番号:3105
科和名:きく科
科学名:Asteraceae(Compositae)
和名:ハマギク
学名:Nipponanthemum nipponicum (Franch. ex Maxim.) Kitam.
と記載されているとある.
注:牧野のつけた「しゃすたーでーじー」の学名 “Chrisanthemum Burbankii Makino” は,現在は無効のようだ.
Antique & Modern seed packet of Shasta daisy |
シャスタ・デイジー(Shasta daisy,Leucanthemum x superbum)は,ジャガイモの改良などで知られるアメリカの著名な育種家ルーサー・バーバンク(Luther Burbank, 1849 –1926)が1901年に発表したキク科フランスギク属の観賞用植物.バーバンクは,Leucanthemum vulgare と Leucanthemum
maximum の交配種にさらに Leucanthemum lacustre を掛け合わせ,得られた三重交配種に,日本特産のハマギク(英名:Nippon Daisy, Nipponanthemum
nipponicum )を交配した.
彼は,得られた觀賞価値が高く強健な植物の舌状花の白さに,近隣の高山シャスタ山の雪を重ね,シャスタ・デイジー(Shasta daisy)と名づけた.これは,米国・歐州・アジア三地方原産の植物の交配種の嚆矢としても知られる.また,人によっては悪臭と感じる香りを放ち,そのためか昆虫が近づかないとの報告がある.
牧野博士が記載したハマギクの学名は,その後,現在有効な学名 Nipponanthemum nipponicum に変わったが,その変遷は次記事.
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