2022年7月4日月曜日

ウラシマソウ-7 江戸中期-5 稲生若水・丹羽正伯編『庶物類纂』,戸田祐之著『庶物類纂図翼』

Arisaema urashima


稲生若水・丹羽正伯編『庶物類纂』(1747)において,著者らは多くの中国本草書を精査し,李時珍が『本草綱目』に述べた「虎掌と天南星は同一物である」との見解に「これは誤りで,虎掌と天南星は一類二種である」とした.

上記書籍の約50年後に,幕府に献上された戸田祐之著『庶物類纂図翼』(1779)において,祐之は上記叢書に記された物品の写生図を収載した書籍を献上したが,その「草部第十五虎掌」の項で,二種の「虎掌」の図を掲げた(冒頭図).その一つ「俗名也布古無尓也久」(ヤブコンニャク)と標された植物はその形状からウラシマソウと同定できる.

★稲生若水・丹羽正伯編『庶物類纂』延享4 年(1747)成立

日本の本草書.動植物・鉱物の中から薬効のあるものを選んで分類し,それぞれについて中国の文献から関係する記事を収集して記した書.元禄10年(1697),本草学者の稲生若水は加賀藩主前田綱紀から命を受け,『庶物類纂』の編纂に着手した.しかし,正徳5年(1715),若水は作成途中で病死し,のちに藩主綱紀も死去したことにより,事業は中断した.それを惜しんだ八代将軍徳川吉宗は,若水の弟子である丹羽正伯らに編纂事業の継続を命じ,延享4年に完成した.全1054巻(465冊).


庶物類纂』延享4 年(1747)の「巻五十三 虎掌」の項には,
「虎掌
虎掌陶隠居云近道亦有形似半夏但皆大四邊有
子如二虎掌一今ルニ多破之或三四片爾方藥亦不正用
也唐本草注云此藥是由跋宿ナル者其苗一莖莖頭一葉
枝丫(音鴉)(古協切)莖根大ナル者如レ拳小ナル者如二雞卵一都テ似二扁
四畔有圓牙ルニ虎掌其由跋新根
猶大ナルヲ於半夏リ二三倍四畔無子牙爾陶云虎掌
半夏
即由跋以由跋半夏スルニ由跋鳶尾
人至今猶用由跋半夏也臣禹錫等謹按ルニ蜀本圖
云其莖端有八九葉花生莖間根周圍有牙然若
獸掌(嘉祐補注本草)

虎掌生漢中山谷及冤句今河北州郡亦有之初生
根如大似半夏而扁累者根圓及
ナル者如雞卵周匝生圓牙二五六枚三四月
高尺餘獨莖上有葉如瓜五六出分布而圓
一窠生七八莖時出一莖直上如鼠尾中生
匙裹旁開一口上下尖中有花微青褐
色結麻子大熟即白色自落子生一窠
九月苗殘ル取テ根ヲ湯ヲ入レ器中ニ漬スコト五七日湯冷レハ乃易ユ日
換ルコト三四遍洗去涎暴乾用ユ之或ハ再ヒ火炮ス今ニ冀州ノ人菜
圓中種ユ之亦呼テ爲天南星ト江州有一種ノ草葉大如
面青背紫四畔有牙如虎掌生三五葉爲一本冬青
心疼寒熱積氣花實ヲ一與此名同故ニ附見ス之(本草
圖經)
虎掌因ル二葉形似ル之非根ニ也南星トハ因ル三根圓白形如キニ二老人
星ノ狀一故ニ名ク二南星ト一即虎掌也蘇頌甚明白宋ノ開寶不
レ當二重一出ス南星ノ條ヲ今ニ併入ス(明李東壁本草綱目)

ナル者爲虎掌南星ナル者爲二由跋乃一種也今俗又言
大者ナル鬼臼小者爲南星謬誤(同上)

  謹按虎掌天南星苗根相似差カラ乃一類二種
  也由跋似半夏而根苗極大三種各異李東壁以
  爲一物誤也
虎掌花如蛇頭兩枝相抱(明李中立本草原始)

虎掌根蒟蒻根皆似天南星人雜采ニテ以爲南星淆賣
了不火炮是南星炮之不レ是虎掌
蒟蒻也(同上)

虎掌南星根極相似葉逈然ナレド不レ同而攻効相近古人
之一故頌曰天南星即本經虎掌也(同上)

天南星之名始マル開寶即本經之虎掌也以レ?レ象
則名虎掌根類取レ名故曰南星雖具スト二名一物
スル風痰之耑藥(清張路本經逢原)

其新生之芽曰由跋(同上)

 謹按此亦承李東壁之誤」とある.

 ★戸田祐之著『庶物類纂図翼』安永8 年(1779)成立は幕臣の戸田祐之(とだ-すけゆき,17241779)が描いた薬草類の写生画集.『本草綱目』(李時珍著)所載の植物を写生している.本書の献上を幕府へ願ったところ,上記『庶物類纂』(稲生若水・丹羽正伯編)の参考図録として有用であるとの評価を受け,『庶物類纂図翼』の書名を与えられ,安永8年に紅葉山文庫に収蔵された.平成8(1996)に『庶物類纂』とともに国の重要文化財に指定された.各地での呼び名も付記してあり,図はやや装飾的ではあるが,地下部などは実物に基づいたと思われる.全28冊(添書含む).紅葉山文庫旧蔵.

祐之は『庶物類纂図翼』(1779)の「草部第十五 虎掌」の項に二種の虎掌の図を掲げた.(冒頭図)
虎掌 俗名也布古無尓也久」(やぶこんにゃく,右方図)とあるのは,形状から見てウラシマソウと思われ,もう一種「虎掌 右虎掌俗名波久奈無世宇 」(はくなむせう,左方図)とあるのは,テンナンショウ属(ユキモチソウ?)の白花種と思われる.
 ウラシマソウの場合は花序の付属体が釣り糸のように垂れ,マイヅルテンナンショウの場合は長く上に向かって直立して伸びるのが特徴であり,仏炎苞の色も前者は暗紫色,後者は緑色である.また,木村陽二郎監修『図説草木名彙辞典』(1991)によれば,ヤブコンニャクの名称を持つのはウラシマソウとマムシグサである.マムシグサの仏炎苞は葉より上に咲くので,この図とは合わない.

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