Dec.1978, Barcelona |
Joseph M W Turner (1775-1851) The Golden Bough (1834) |
ローマの東,イタリア中部に位置する小さな村アリチア,近くの湖ネミ湖も湖畔にはかつては広大なディアナの神殿があったとされる.そこに伝わる伝説によれば,かつてはそこにディアナに仕える祭司がいて,彼はなぜか「森の王」という称号を持っていた.その任期は彼が殺されるまでである.したがってその職に就こうとする者は,その祭司と戦って彼を殺さなければならない.ただ戦う資格を持つためには,その前に必ずそこに茂るある樹の枝を折ることになっている.だから祭司もその枝を折らせまいと,昼も夜も抜身の剣をひっ下げてその樹のまわりを歩きつづけるのである.
この重要な木の枝が「金枝」であり,フレーザーは多くの伝承や神話からこれがオークの木に着いたヤドリギであると考えた.
古代ローマ黄金時代のウェルギリウス(70-19 B.C.)の建国叙事詩「アエネーイス」では,トロイア敗戦から逃れた王族アエネーアスが,新たな国を築くべく,父祖の地イタリアへの旅の途中で,亡父アンキーセースと再会するための冥府下りに必要な「黄金の枝」を求めて,どこまでも広がる陰欝な森に入る.
果てしない森をさまよったあげくに,アエネーアスは二羽の鳩の導きで、暗い影を落とす木々の向こうに、ゆらめく光が頭上のからまりあった枝を照らしているのを見て「黄金の枝」を発見するのだが,それはオークに着生したヤドリギのようだとされている.
果てしない森をさまよったあげくに,アエネーアスは二羽の鳩の導きで、暗い影を落とす木々の向こうに、ゆらめく光が頭上のからまりあった枝を照らしているのを見て「黄金の枝」を発見するのだが,それはオークに着生したヤドリギのようだとされている.
Henry Matthew Brock (1875 – 1960) From Lady FRAZER "Leaves from the Golden Bough" (1924) |
As, on the sacred oak, the wintry mistletoe,
Where the proud mother views her precious brood, And happier branches, which she never sow'd.
Such was the glitt'ring; such the ruddy rind,
And dancing leaves, that wanton'd in the wind.
(Translated to English by John Dryden)
それはまるで宿り木のよう。いつも厳寒の冬至のころ、森の中に
新緑の葉を伸ばすが、親木とは種が異なり、
サフラン色の実でなめらかな幹を包む。
そのような光景を見せて、黄金が蔭深い常磐樫から
枝を伸ばしていた。そのように金箔がそよ風に鳴っていた。
(ウェルギリウス『アエネーイス』岡道男・高橋宏幸訳 2001)
しかし,前に述べたように(セイヨウヤドリギ (1/4)),ヤドリギは親木のオークが葉を落としても緑の葉を茂らせている.それゆえ,崇拝の対象のオークの命が冬の間も宿っているとして神聖視されていた.
ならばなぜ「黄金」と形容されるのか.フレーザーはそれに対して次のように答えている.
"It only remains to ask, Why was the mistletoe called the Golden Bough? The whitish-yellow of the mistletoe berries is hardly enough to account for the name, for Virgil says that the bough was altogether golden, stems as well as leaves. Perhaps the name may be derived from the rich golden yellow which a bough of mistletoe assumes when it has been cut and kept for some months; the bright tint is not confined to the leaves, but spreads to the stalks as well, so that the whole branch appears to be indeed a Golden Bough. Breton peasants hang up great bunches of mistletoe in front of their cottages, and in the month of June these bunches are conspicuous for the bright golden tinge of their foliage. "
「なぜヤドリギが「金枝」と呼ばれたのか。ヤドリギの実は白っぽい黄色だが、それだけではこの名がついた説明としては不十分である。なぜならウェルギリウスはこの枝が葉ばかりか茎まで黄金色だったといっているからだ。「金枝」と呼ばれたのは、たぶん、切りとったヤドリギの枝を数か月おいておくと、見事な金色がかった黄色になるからだろう。その鮮やかな黄金色は葉だけではなく茎にまで及び、枝全体がまぎれもなく「金枝」に見えるようになるのだ。ブルターニュの農民は、ヤドリギの大枝を家の戸口に吊るしておくが、六月になると、その枝は輝く金色に染まってひときわ人目を引きつける。(フレーザー『図説 金枝篇』内田昭一郎・吉岡晶子訳 1994)」
フレーザーは『金枝篇』で,太古から綿々と続く「樹木=自然崇拝」の原点を「金枝」をキーワードにして解き明かそうとしたかに思われる.
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