2012年12月17日月曜日

セイヨウヤドリギ (1/6) プリニウス,ケルトのドルイド僧,鳥による種子散布,ターナー,ジェラード

Viscum album
 “Tierleben im Ornament” by G. Sturm, in Anton Seder ed. ‘Die Pflanze in Kunst und Gewerbe’ (1895)
最上段にはセイヨウヤドリギの実をついばむキレンジャクが描かれている
欧州では古くから神秘の植物として,古代ケルトの神事,北欧神話,キリスト教伝説,民間伝承など,地中海域からバルチック海域にいたるまで,ヨーロッパのフォークロアにゆかりが深い.

この植物を特に神聖視したのは古代ケルト族のドルイド僧で,樹木の王者と考えていた Oakに寄生したヤドリギ(‘Oak Mistletoe’)を神からの授かりものとして崇拝した.それは,この植物が地面には生えず,木の上にのみ生えることから,天から降りてきたものと考え,また本体のオークが葉を落としても青あおとしているヤドリギに生命力の源を見たのだろう.その採取には厳しい方式を守っていたとされる.

Rome: Sweynheim and Pannartz, 1470
ローマ時代の博物学者,ガイウス・プリニウス・セクンドゥス(Gaius Plinius Secundus, 22 / 23 – 79)は”Naturalis historia 『博物誌』(77 A. D.) ” (写本,左図)の第十六巻,95節に「彼ら(ガリアのドルイド僧たち)は年頭の月齢6日の夜に白衣すがたで2頭の白い雄牛を連れてこれを捜しに出かけ,見つかれば,黄金の鎌(celt)でそれを切り取り,持ち帰って祭壇を飾った.切り取った茎は土に触れるのを忌み,それを白い袖なしの上着に受け止めた.そのあとで,神が自らの贈り物を,それを授かった人々のために幸いなものにしてくれるよう祈願しながら,犠牲のウシを屠る.彼らは,ヤドリギを飲み物にすると,子の生まれないどんな動物でも多産にすることができ,あらゆる毒物に対する解毒剤になると信じている.諸民族のつまらない事物に対する崇拝の念は,たいていの場合,これほどに強いものである.」と,記している.シーザーの『ガリア戦記』にあるように,当時のローマ帝国の北辺は現在のイングランドで,先住のケルト族との接触があったので,このような知識が入ってきたのであろう.

注目すべきは,第十六巻,93節で,「なおヤドリギは,どんな方法で種子を播こうと決して生育せず,ただ鳥,ことにハトとツグミの糞を通じてだけ生えてくる.これがヤドリギの性質で,鳥の腹の中で熟したものしか芽を出さない.大きさは,常緑でいつでも茂みをつくっているもの(ヒユフェアル=セイヨウヤドリギ)でも一クビトウム(約四四センチ)を越えない.ヤドリギは雄性のものには実がなるが,雌性のものにはならない(The male plant is fertile and the female barren.)ただし,実のなるはずのものでも時にはならないことがある.」と記していることで,種子の散布が鳥によって行われていること,雌雄は取り違えているものの,雌雄別株であることを認識していた事である.


この鳥による樹木への種子散布は中世の英国でも知られており,ウィリアム・ターナー(William Turner, 1508 - 68) の“A new herbal 『新本草書』”(1551 – 1568)には ‘The thrush shiteth out the miscel berries.’とあり,また,ジョン・ジェラード(John Gerard aka John Gerarde, 1545 – 1611 or 1612)“The herbal, or, General Historie of plantes 『本草あるいは一般の植物誌』”(1597) にも,”--- ; some of the learned have set downe that it came of the dung of the birde called a Thrush, who having fedde of the seedes thereof, as eating his owne bane, hath voided and left his dung upon the tree, whereof was ingendred his berry, --- “ とある(右図).(続く)

セイヨウヤドリギ(2/6) クリスマス,kissing under the mistletoe,北欧神話,サートゥルナーリア祭

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