2018年8月14日火曜日

ムシャリンドウ(2)-仮 草木図説,増訂草木図説,牧野 植物圖鑑

Dracocephalum argunense
2018年5月 筑波実験植物園
この植物は「セイラン 青蘭」の名も持っているが,ラン科ではなく,シソ科.現代中国では「光萼青 光萼青蘭)」と呼ばれている.
ムシャの名の由来は,田中芳男は江州武佐(むさ)の地に生ずる故と云ったそうだ(牧野)が,江戸時代の書では「ムシヤ」或は「武者」が使われていて,「武佐」リンドウが使われている例は見出せなかった.
 記事中の図は NDL 及び牧野植物園のデジタル公開画像よりの部分引用.

★飯沼慾斎『草木図説前編(草部)』(成稿 1852(嘉永5)ごろ,出版 1856(安政3)から62(文久2))草類1250種,木類600種の植物学的に正確な解説と写生図から成る. その「巻之十一」には,
ムシヤリンドウ  セイラン
茎方葉狭長梢上十數花ヲ開ク形色ラシヤウモンカヅラノ如シ
              第六種
Dracosephalum*. ダラコセパルュム 羅 ruischiana ロイシアナ 羅,  noordsch ノールドス Draakskop ダラーカスコツプ
とあり,黒白ながら美しい図が載る.

★牧野富太郎『増訂草木図説』(1907)成美堂
「○第四十七圖版 Plate XLVII
ムシヤリンドウ セイラン
Dracocephalum argunense** Fisch.
脣形科(脣形科) Labiata
莖方葉狭長梢上十數花ヲ開ク形色ラシヤウモンカヅラノ如シ
              第六種
Dracosephalum. ダラコセパルュム 羅 ruischiana. ロイシアナ 羅  Noordsch-Draakskop. ノールドス ダラーカスコツプ

田中芳男先生曰く江州武佐***の地に生ず故にムシヤリンドウの名此地名より轉じ來ると云ふ(牧野)」
と記事には変化がなく,名の由来を追補.
*Dracocephalum ギリシャ語の dracon(龍)+cephale(頭)に由来.基準になった種の花冠(かかん)の形による.
**:「アルゲン河の」の意で,命名者(Fischer, Friedrich Ernst Ludwig von)によって,見出された場所.アルグン川(Argun、ロシア語: Аргу́нь, 中国語: 额尔/額爾古納河、満州語: ergune bira)は,ユーラシア大陸の北東部を流れる川で,シルカ川とならぶアムール川の大きな源流の一つ.アルグン川というロシア語名は,ブリヤート語の「ウルゲン・ゴル」(Urgengol,「広い川」)に由来する.
***:現在の滋賀県近江八幡市武佐町

牧野富太郎『牧野 植物圖鑑(1940) には,
むしゃりんだう
Dracocephalum argunense Fisch.*
山地・原野ニ生ズル多年草草本ニシテ高
30 内外。莖ハ叢生シテ直立シ、方
形ニシテ葉ト共ニ毛ヲ帯ル。葉ハ對生シ
テ線形ヲ成シ、全邊ナリ。脚葉ハ往々卵
型ニシテ短柄ヲ有シ、疎齒アリ。夏日、莖
頂ニ大ナル紫色ノ脣形花ヲ集メテ短キ穂
ヲ成ス。萼ハ鐘狀五裂シ、裂片尖リ、花
冠ハ筒部大ニシテ下脣ノ中片闊ク、紫點
アリ。二強雄蕋アリ。此種初メ之ヲ近江
武佐ノ地ニ見ル、故ニコノ和名アリ。龍膽
ハ花容ニ基ク。」とあるが,「武佐ノ地ニ見ル」の出典は不明.

*Fisch.Fischer, Friedrich Ernst Ludwig von (Fedor Bogdanovic),ドイツ生まれ,ロシアで働いた植物学者(1782-1854)

なお,八坂書房編『日本植物方言集成』八坂書房(2001)には,ムシャリンドウの地方名としては,「せ-らん 山城」が収載されているのみで,これは古語(青蘭)が保持されていたと思われる.

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