2013年4月8日月曜日

アセビ(3/5)下学集,多識編,花壇地錦抄,大和本草,和漢三才図会,薬品手引草,物品識名,本草綱目啓蒙

Pieris japonica
アセビの園芸種,アケボノアセビ Pieris japonica f. rosea
江戸時代の本草書・辞典・百科辞書における「アセビ」に関する記述は以下のものが見つかった.『本草倭名』にも記載があるとの事だが(木村陽二郎監修『図説草木名彙辞典』柏書房 1991),残念ながら見つけられなかった.
内容的には,この木の葉を食べると,馬は死ぬ,或は酔うとか,鹿の角が落ちるとかの毒性の記述が多い.観賞用の花木としては,伊藤伊兵衛『花壇地錦抄』に「花ハ青白ク黄色の様にてふぢのことくこさがりて見事成物」とあり,評価は高い.

漢名は「梫木」としているが,これは誤用で,アセビは日本特産.「梫木」は中国原産で類縁の Pieris polita W. W. Sm. et J. F. Jeff.
また,多くのアセビのブログで『枕草子』に「あせび」として載っているとしているが,これは下に示す『本草綱目啓蒙』の記述をそのまま引用したものらしく,調べた限りにおいては,『枕草子』にそのような記載はない.

courtesy to NDL, WUL & 中村学園
★東麓破衲編『下学集(下)』(1444)
馬酔木(アセホ)馬此ノ葉ヲ食シテ則死ス 故ニ馬酔木ト云フ 和歌有リ 取繫玉田横野放駒躑躅馬酔花發(トリツナゲ タマタノヨコノ ハナレコマ ツヽジアセホノ ハナヤサクラン)云云 (左図,右端)

★林羅山『多識編(巻之三)』(1612) (再版 1630,1631) 
梫木 拾遺(左図,右より二つ目)

★伊藤伊兵衛『花壇地錦抄(三 冬木の分 ○笹のるひ)』(1695)
馬酔木(あせほ)(木春末) 葉ハしきミのちさきやうにて花ハ青白ク黄色の様にてふぢのことくこさがりて見事成物 馬此葉ヲ食スレハかならず死ゆへに馬酔木といふ 和歌にとりつなけ玉田の横野はなれ駒つゝしあせほの花やさくらん

★貝原益軒『大和本草(巻之十二 雑木)』 (1709)
馬酔木(アセホノキ) 葉ハ忍冬ノ葉ニ似タリ 又シキミノハニ似テ細也 味苦ク渋ル 春ノ末青白花開テ下ニサガル 少黄色ヲ帯フ 微毒アリ 馬此葉ヲクラヘハ死ス 西土ノ俗ハ此木ヲヨシミシバト云(上図,中央)

★寺島良安『和漢三才図会(巻第八十四 灌木類 』(1713頃)(右図)
馬酔木(あせぼのき) 阿世美 俗に阿世保という。
△思うに、馬酔(あせび)の木は山谷に生える。高いものは二、三丈、小さなものは一、二尺。みな枝葉はよく茂る。その葉は狭長でやや鋸歯で浅緑色。硬(こわ)くて枝椏(また)に群がり生える。
九、十月に花芽を出す。春に小さい白花を開き、房を作って子を結ぶ。子もまた房を作り、一子の中に細子が多くある。一年中凋まないので人家の庭砌(にわさき)にこれを植えて賞玩する。伝えによれば、馬がこの葉を食べると酔う。それでこういう名がある、という。
(夫木)取りつなげ玉田横野のはなれ駒つつじかけた(のし)にあぜみ花さく(さきけり) 俊頼
(現代語訳 島田・竹島・樋口,島田勇雄,竹島淳夫,樋口元巳訳注,平凡社-東洋文庫)

★岡林清達・水谷豊文『物品識名(乾)』(1809 跋)
アセビ 馬酔木 梫木(上図,左端)

★小野蘭山『本草綱目啓蒙(巻之三十二 木之三 灌木)』(1803-1806)
梫木 アシミ(万葉集) アセボ,馬酔木,アセミ、イハモチ,アセビ(枕草子*,土州),アセモ,アセブ,ヱセビ,ヨシミ,ヨシミシバ,ヨネバ,アシブ,ヒサゝキ,ドクシバ,カスクイ,ヲナザカモリ,ヲナダカモリ,テヤキシバ,アセボシバ,ヨセブ,ゴマヤキシ,シャリシャリ
山中ニ五六尺ノ小木多シ。年久シキ者ハ丈余二至ル。葉形細長ニシテ鋸歯アリ。柃(ヒサカキ)葉ニ似テ、薄ク硬シ。互生ス。冬凋マズ。春枝頂ニ花アリ。色白ク綟木(ネジキ)花ノ形ノ如シ。穂ノ長三寸許、多ク集リ垂。後小子ヲ生ズ。亦綟木子ノ如シ。モシ牛馬コノ葉ヲ食へバ酔ルガ如シ。故ニ馬酔木卜云。鹿コレヲ食へバ不時ニ角解ス。又菜園ニ小長黒虫ヲ生ズルニ、コノ葉ノ煎汁ヲ冷シテ灌グトキハ虫ヲ殺ス。

*この記述から枕草子にアセビが記載されているともされているが,『枕草子』原文を2つのソースで検索したが,「アセビ」「あせび」「あしび」「馬酔木」は見つからなかった.

★加地井高茂 [編]『薬品手引草(下)』(1843)
あせぼ 馬酔木(バスイボク) アセビ(上図,左より二つ目)



左図:「梫木」(アセボ)
幸野楳嶺『千種之花』(1891,多色木版).著者は明治期,日本画京都画壇の巨匠.全国に多くの門人を抱えた.此の画集は弟子達の手本として描かれた.

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