2010年12月31日金曜日

Japanese flower by P. J. Redoute (1) アオキ Aucuba japonica

Aucuba japonica
バラやユリ科植物の美しい図譜で有名な「花のラファエロ,ルドーテ」はいくつかの日本から来た植物を描いている.彼の初期の作品,アンリ・ルイ・デュアメル・デュ・モンソー (DUHAMEL DU MONCEAU, Henri Louis (1700-1782))著 「フランス樹木誌(Traité des Arbres et Arbustes que l'on cultivé en France en pleine terre)」新版 7 volumes, folio (16 3/8 x 10 inches) には少なくとも5枚の日本由来の植物の図譜が含まれている.
別名を「新デュアメル」(Nouveau Duhamel)と呼ばれるこの植物誌は,18世紀の著名な植物学者デュアメルが1755年に著した同名の植物誌(挿絵 250枚,木版無彩色)の新版(SECONDE EDITION CONSIDERABLEMENT AUGMENTEE)とされているが,実質的には別物.
デュアメルへのオマージュとして制作され,テキストと図版が一新されたこの新版は,ルイ16世やナポレオンの宮廷から寵愛を受けた,当時フランスで最も有名な植物画家であったピエール・ジョセフ・ルドゥテ(1759-1840)と彼の一番弟子パンクラース・ベッサ(1772-1835)が新たに原画作者として起用されたことで,西ヨーロッパ樹木誌の傑作のひとつとなった.498の図譜の内,463がルドゥーテ,33がベッサが描いたとされ,54人の彫版者が銅版を彫った.ちなみに新版のテキストはヴェイヤール,ジョーム・サン・ティレール,ミルベルら(Veillard, Jaume St.Hilaire, Mirbel, Poiret and Loiseleur-Deslongchamps)の5人の著名な植物学者が担当した.

W.ブラント著『植物図譜の歴史』 ルドゥテの時代 に,「ルドゥテの初期の作品の一つ-デユアメル・デュ・モンソーの 『樹木概論』(TRAITE DES ARBRES ET ARBUSTES 一八〇一-一七年)-を見ると、彩色加筆がなされないと、もとの色彩がいかに多く失われるかがわかる。」と記されているように,後のルドゥテの多色刷スティップル銅版画手彩色の図譜に比べると,べったりとした画質となっている.

海を渡ったアオキのお話は私のもうひとつのブログの記事「海を渡った日本の花(2) アオキ」を参照下さい.

Japanese flower by P. J. Redoute (2) ロウバイ

2010年12月26日日曜日

マンリョウ

Ardisia crenata 7月に地味な花を咲かせていたマンリョウが多数の真っ赤な実をつけた.つやつやとした深緑色の葉との対比で一層実は目立ち,英名がCoral berryなのも納得.

このように初冬目立つ実をつけるのに,同属のヤブコウジ(十両)がヤマタチバナの名で『万葉集』に登場するのに比べ,文献上の登場は遅い.江戸時代の伊藤伊兵衛『花壇地錦抄』(1695),貝原益軒『大和本草』 (1709),寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)などには「センリョウ(珊瑚,仙寥)」はあるものの「マンリョウ」は見つけられなかった.
本格的に園芸化されたのは文化・文政のころ(19C初頭)といわれ(今泉優),小野蘭山の『本草綱目啓蒙』(1803-1806) に白実と共に黄実の名も初めて載る.
巻之九 草之二 山草類下
硃砂根  マンリヨ
花家ニ多クアリ。高サ一尺以来、葉ハ百両金ニ似テ、短ク、辺ニ尖ラザル鋸歯アリ。葉ハ茎端ニ叢リ互生シテ傘ノ如シ。数百ノ円実枝ヲ分チテ葉下ニ倒垂ス。冬春、紅熟シテ観ニ堪タリ。又黄実、自実、其余数品アリ。一種播州及紀州二生ズル者、高サ三四尺ニシテ実少シ。花戸ニテ、シキンジヤウト呼、紀州ニテ、ヤマシキミト云。
江戸の終わりにブームとなり斑(ふ)入りや葉変わりなどが改良され,明治の『硃砂根銘鑑』には53品種が記録されている(湯浅浩史).

光沢のある厚い葉の波状に膨れた部分には共生細菌(Phyllobacterium myrsinacearum Miehe)が詰まった部屋が内部に形成されている(Knoesel (1962))のだそうだ。防疫のため殺菌剤を散布するとセンリョウの成長が阻害されるので,この細菌は宿主にとって有益な働きをしているのだろう.

日本では名前から縁起のよい植物とされ,十両(ヤブコウジ),百両(カラタチバナ),千両(センリョウ)やアリドオシやモチノキと一緒に植えられ,富貴への願いとされるが,ハワイや米国南部(Kaoru Kitajima, 2006)では,観賞用として導入されたマンリョウが鳥によって散布され,原植相に悪影響を与えるとして外来有害植物に指定されている.そういえば,鹿島神宮の参道では,大木の又のところに,鳥の糞から成長したマンリョウを見た(左,2009).

2010年12月16日木曜日

紅葉 カエデ Acer L.

我が家の庭には紅葉が美しいカエデがないので,苦し紛れにアカヤシオの紅葉で代用.

カエデの園芸種は江戸時代に観葉植物として,秋の鮮やかな紅葉のみならず,新芽の色や,葉の形,斑入りなど世界に類のない発展を遂げた.
中尾佐助氏は「花と木の文化史」(岩波新書)の「日本の花の歴史」の項で「落葉樹ではカエデの改良がすばらしい。日本には紅葉する樹木は多いが、栽培下で多数の品種ができたのはカエデ類だけであろう。日本のカエデの栽培品種は珍しくも多くの異なった種からとりだされている。(中略)そのほとんどは枝変りから選択されており、交配はない。元禄の頃からモミジ品種が区別されており、江戸時代にジリジリと品種数が増加し、明治、大正、昭和までなかなかよく保存されてきた。」と記している.
江戸時代の園芸書伊藤伊兵衛らの『花壇地錦抄』(1695),『増補地錦抄』(1695)『広益地錦抄』(1719)『地錦抄附録』(1733)には,トウカエデやイタヤカエデのような園芸種以外も含まれるが,115種の「かえで」が記載されている.
園芸種の名前は雅趣に富んでおり,『花壇地錦抄』では名前と短い説明だけだが,他の3冊ではそのほかに葉のイラストと名前の由来が記されている.名前はほとんどが古歌に基づいている.
例えば
唐織 葉形ほそく切込すかし春の出葉よりべに紫色見事にむらさきの中に本紅のとび入りふかはりもありてふだんながめよし秋の色も又すくれてよし
                             国久
       そめそめて見るにそあかぬ唐錦
                     名にも立田のみねのもみちは
(そめそめて見るにぞあかぬ唐錦名にも立田のみねのもみぢば)
これらの園芸種名と本歌は一覧表はカエデのHPとして有名な林田 甫氏のhttp://homepage2.nifty.com/chigyoraku/Cvname-1.htmlで見ることが出来る.

欧州にはケンペルが「廻国奇観(1712)」で鶏冠木,Kaide, Momidsi と呼ばれ,秋に紅葉すると紹介し(左図,上),ツンベルクは「Flora Japonica(1784)」で,いくつかのカエデに学名をつけ,代表的なイロハモミジには Acer palmatum =手のひら状の という学名をつけた(左図,下).

またシーボルトも持って帰ったようで,下にしめした1870年発行のMorren (ベルギー)の”L'ILLUSTRATION HORTICOLE, REVUE MENSUELLE, DES SERRES ET DES JARDINS”の図譜にはシーボルトの名前が見え,また彼の「Flora Japonica(1835-1870)」のカエデ属の項にはイロハモミジはじめ9種のカエデ類が記載されている.












おまけは2007年,初冬のカンザスシティーの川で撮影した流れよった落ち葉の堆積.芸術写真を狙ったが力不足.

2010年12月12日日曜日

リクチメン 綿花

Raw cotton of Gossypium hirsutum  近くの小学校の3年生の総合学習の時間に,「種の不思議,「み」と「たね」を観察しよう!」という,2時間のお話をした.家内はもう7年ほど,私は昨年に続いて2度目.近隣の原野・川原・公園などからあつめた草木の種や実を子供たちに見せて,自分からは動くことが出来ない植物がどうやって子孫の分布を増やそうとしているか,その知恵について考えてもらった.その材料の一つが綿花.そのため,春に種をまき5本ほどを庭で育てて収穫し,教室に展示した.

 夏から秋に咲いた花はやがて落ち,珠のような実がつき,これが,丸々と太り,やがて弾けて中から白い繊維が現れる.弾ける前の実の形(左),何かに似ているなーと思っていたら,ウルトラマンに出てきた地底怪獣ガボラの頭部だった.

 ワタの実は,繊維がもしゃもしゃと美味しくないので動物に食べられないし,鳥が種をついばむには繊維の妨害があるように思われる.見ていると,ワタの実は大きさの割りに質量が低いし丸っこいので,地面に落ちると風でころころと転がっていく.雨にぬれたり湿度の高いところでは繊維がべったりと地面に張り付き,種が地面に固定され,この繊維は腐って種が発芽した後の栄養になる.ワタは高度な風を利用した種子散布の戦略を持った植物で,人間はそれをうまく利用していると思われる.

 なお,この授業で展示し,実際にさわったり,飛ばしたり,剥いたりしてもらった植物のリストは以下の通り.

1. 自分で弾けて: フジ
2. 動物や人にくっついて: アメリカセンダングサ チカラシバ オオオナモミ イノコヅチ
3. 動物に食べられて糞と一緒に排泄されて: ムラサキシキブ ナンテン トウネズミモチ クロガネモチ カラスウリ
4. 動物に食べ物として埋められて: スダジイ マテバシイ コナラ シラカシ クヌギ ウバメガシ トチノキ エゴノキ
5. 風に乗って: ガガイモ アカマツ アオギリ シンジュ
6. 風に転がされて: フウセンカズラ ワタ
7. 水に流されて: ハス ジュズダマ
8.参考資料:カツラの黄葉(においを嗅いでもらった),各種黄葉・紅葉,アオギリの葉,トチの葉