2013年7月24日水曜日

ヤブガラシ(1/3) 薬効・烏蘞苺・本草和名・本草綱目・大和本草・和漢三才図会・本草綱目啓蒙

Cayratiae japonica

強い日差しを浴びて照り輝く深緑の葉と,虫たちが集まる変わった形の花は,道端の真夏の風物詩.この散房状集散花序は,淡緑色の小花を多数つける.赤色の花盤,4枚ある淡緑色の花弁,花弁などの落ちた橙色の子房が入りまじって,地味ながら良く見ると美しい.
「貧乏葛」や「藪枯」など,ネガティブな名前が多いが,薬用植物としても古くから知られている.中国では現代でも,民間薬的によく使われ,各種の化のう性疾患,肺結核,骨折の炎症,関節リウマチなどにも用いている.

NDL
「ヤブカラシ」としての磯野の初見は『諸国物産帳』(1735~38)だが,深江輔仁『本草和名』(ca.918)に「烏蘞苺(ウレンモ) 和名 比佐古都良」(左図,右)とあり,これがヤブガラシの初出と考えられ,また林羅山『多識編巻二』 (1612) (再版 1630、1631) には,「烏蘞苺 比佐古豆流(ル) 今案(ルニ)豆多」(左図,左)とあり,古くはヒサゴヅル,また単にツタと呼んでいた.

中国の本草書で日本の本草の範となった明の李時珍選『本草綱目』(初版1596)の『草之七 蔓草類』には
「烏蘞莓 【釋名】五葉莓(弘景)、蘢草(保升)、拔(《爾雅》)、蘢葛(同)、赤葛(《綱目》)、五爪龍(同)、赤潑藤。
時珍曰︰五葉如白蘞,故曰烏蘞,俗名五爪龍。江東呼龍尾,亦曰虎葛。曰龍、曰葛,並取蔓形。赤潑與赤葛及拔音相近。」と別名や名前の由来があり,その性状として「時珍曰︰塍塹間甚多。其藤柔而有棱,一枝一須,凡五葉。葉長而光,有疏齒,面青背淡。七、八月結苞成簇,青白色。花大如粟,黃色四出。結實大如龍葵子,生青熟紫,內有細子。其根白色,大者如指,長一、二尺,搗之多涎滑。」と詳しい.その薬効として「【主治】癰癤瘡腫蟲咬,搗根敷之(弘景)。風毒熱腫游丹,搗敷並飲汁(恭)。涼血解毒,利小便。根擂酒服,消癤腫」と主に解毒・抗炎症・利尿作用があると記されている.

これを受けて江戸時代の本草書,
貝原益軒『大和本草』(1709)『巻之八 草乃四 蔓草』には,
「五爪竜(ビンボウカツラ) 其葉ハカナムクラニ似タリ又シヲデニ似タリ處々ニ多シ蔓長ク墻ニハフ本草綱目蔓草ニ載(レ)之烏蘞苺共云ツルアマチャト云物コレニ似タリ葉茎ヲ陰乾ニシ疥癬ノ薬ニ加ヘ用ユ有(レ)効」(右図,NDL)とある.葉はカナムグラやシオデ,アマチャヅルに似ている.葉茎を陰乾にしたものは疥癬に効くとしている.(レ)は返り点.

また,寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)の『巻第九十六 蔓草類』には
「烏蘞苺 (つた,ウウレンモウ)
抜〔昔は(欠)〕,五葉苺(ばい),蘢草(ろうそう),蘢葛(ろうかつ),赤葛,五爪竜(ごそうりゅう),赤溌藤(せきはっとう)〔俗に豆太(つた)という〕
 『本草綱目』(草部蔓草類烏蘞苺〔集解〕)に次のようにいう。烏蘞(うれん,ブドウ科ヤブカラシ)は畔や塹(ほり)の間に多くある。藤(つる)は柔らかで稜(かど)がある。一枝一鬚(しゅ)で五葉である。葉は長くて光り、疎歯がある。表面は青く裏面は淡く白蘞(びゃくれん)の葉のようである〔それで烏蘞という〕。七、八月に苞を結ぶが、青白色でむらがり成る。花の大きさは粟ぐらいで、黄色の四弁。実は竜英子(湿草類イヌホオズキ)ぐらいの大きさで、生(わか)いのは青く、熟すると紫になる。内に細かい子(たね)がある。根は白色で、太いもので指ぐらい、長さは一、二尺である。搗(つ)くと涎滑(ぬめり)が多く出る。気味〔酸・苦、寒〕 癰癤(はれもの)や虫に咬まれたのを治す。根を搗いて患部に塗る。」と,『本草綱目』の記述をほぼそのままに記している.(現代語訳 島田勇雄,竹島淳夫,樋口元巳,平凡社-東洋文庫).ただ,「俗に豆太(つた)と言う」とあるのは,『多識編』の記述とともに興味深い.

さらに,小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806) には,
「烏蘞苺   ヒサゴヅル(和名鈔) ビンボヅル ビンボウカヅラ フクゾル 五葉カヅラ カキドホシ(河州) ヤブカラシ
随地ミナ生ズ。春末宿根ヨリ苗ヲ生ズ。初出藤葉トモニ赤黒色、漸ク長ジテ淡緑色ニ変ズ。葉互生ス。葉ゴトニ鬚アリテ纏繞ス。ソノ葉一枝五葉、人参*葉ニ似テ鋸歯アリ。中ノ一葉尤ナガシ。夏ニ至リ藤蔓甚繁延ス。故ニ、ヤブカラシト云。六七月枝梢ゴトニ叉ヲ分チ花ヲヒラク。四弁緑色、大サ一分余、中心黄赤色、四蘂アリ。後円実ヲムスブ。大サ南天燭子ノゴトシ。生ハ緑色熟スレバ黒色、秋深テ苗カレ、根ハ枯ズ。長クシテ藤蔓ノゴトク褐色ナリ。寸断スルモ春ニ至テナホ苗ヲ生ズ。コノ草、和州南都、越後高田、越前鯖江、土州高知等ノ地ニハ生ゼズト云。」とある.
葉の形状(右図),若い蔓は赤いなど,よく観察していると感心する.
 *朝鮮人参

ヤブガラシ(2/3) 方言・ツンベルク『日本植物誌』・学名・伊藤圭介・アマチャヅル
ヤブガラシ(3/3) 泉鏡花,雀,ごんごんごま,唐独楽・鳴り独楽

0 件のコメント: