2014年1月26日日曜日

カニクサ(3/3) 名の由来,多くの地方名,あせもぐさ,たたきぐさ,鹿児島の島々では神事にも

Lygodium japonicum
掘り起こしたカニクサ,黒い根と新芽 2014年1月 茨城県南部
カニクサの名の由来としては,「葉裏に蟹の味噌状のものが着く」「子供がこの蔓で蟹を釣って遊んだ」という二説が,木村陽二郎監修『図説草木名彙辞典』柏書房 (1991) に紹介されている.また,カニクサは日常の生活に,特に子供の遊び道具として親しまれていたからであろう,多くの地方名を持っている.

既にカニクサ(1/3)に記したように,江戸時代の本草書にも多くの地方名が記されており,
★貝原益軒『大和本草』 (1709)には「京都近辺ニテカニグサ又カンツルト称ス 江州ニテタヽキ草ト云又イトカヅラト云 西国ニテハナカヅラト云」
★伊藤伊兵衛『広益地錦抄』(1719) には,「 俗につるしのぶともかんつる共いふ」
★越谷吾山『物類称呼』 (1775)には,「うにくさ○京にて○かにくさ又かんつると云 近江及美濃或ハ上野にて○たたきぐさ又いとかづらと云 西国にて○はなかづら又さみせんかづらといふ.」
★松岡恕庵(1668-1746) 『用薬須知後編』(恕庵の没後遺稿を整理編集して1759年に刊行)後編巻之一 には「和俗スナクサ カニクサ サミセンクサ リンキヤウクサト云フ 江戸種樹家(ハナヤ)ニテハツルシノブト云」
★小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806) には,「カニグサ(大和本草ニ京師ノ名トス 然レドモ今ハコノ名呼ズ) カンヅル(同上) カニヅル カナヅル イトカヅラ(江州) タヽキグサ(同上) ハナカヅラ(西国) サミセンカヅラ(同上) ツルシノブ(江戸) サミセンヅル(和州) リンキヤウグサ(用薬須知後篇) カニコグサ(勢州)」とある.

このサミセンカヅラ(西国),サミセンヅル(和州)の三味線の由来として,小野蘭山は「其蔓ヲ採、外皮ヲ到リ去バ、中ニ堅キ心アリ。黄色ニシテ光アリ。三弦ノ線ノ如シ。小児戯ニ両端ヲ引テ弾ズレバ声アリ。故ニ、サミセンヅル云。」と,蔓(葉の主脈)を使った子供の遊びを名の由来としている.

★八坂書房編『日本植物方言集成』八坂書房(2001)には,64種もの地方名が記載されているが,上記の江戸時代の地方名がそのまま残っているところを見ると,綿々と生活に密着していたのであろう.特に興味深い名としては「あせもぐさ 広島(比婆)」があり,胞子が天花粉同様,汗疹予防に用いられたことを伺わせる.また,「りんきょーぐさ 勢州,りんどーかずら 広島(豊田)」の名が淋病治癒に関連しているのかもしれない.これらが薬用を示唆する地方名で,胞子を得る為に叩くところからきた「たたきぐさ 上野 江州 近江 美濃」の名からすると,この地方では胞子を採集して売っていた可能性がある.

他は蟹,三味線(三味線の音 ぴんぴん,ぺんぺん),蔓(金蔓,蟹蔓?),糸,忍,などの遊び方や形状を示す語の組み合わせからなるのが大部分であるが,元結に使ったのか,「もといかずら 和歌山(新宮市・東牟婁)」という名もある.

一方,鹿児島の島々では,「うんじゃんかずら 与論島」,「まったぶくさ 奄美大島」,「みみじくさ 与論島」,「ゆずるはんだ 喜界島」など特異な地方名が多いが,この地方ではカニクサが神事に使われているそうなので,その関連かとも思われる.


★盛口満『シダの扉-めくるめく葉めくりの世界』八坂書房 (2012) には,西表島の節祭(節分)にこのカニクサを家の柱に巻きつける。魔除けだと信じられている。それだけでなく、八重山のウガシ(聖地)の柱もシダを巻く。雨乞いのときはカミンチュ(神人)がカニクサを手にもち、その代表にあたる「雨の主」(ツカサ)は体じゅうをシダだらけにする。加計呂麻島(かけろまじま)のノロ(神女)は冠カズラを付け、その側近がカニクサの冠を付ける。」とあり,更に,「奇祭として有名な古見(こみ)のアカマタは、干立の雨の主と似て、仮面以外はカニクサ類ですっぽりと覆われている。加計呂麻島では、ノロと呼ばれる神女は、キイカズラと呼ぶカニクサを輪型にして冠とし、頭にかぶる。奄美大島でノロが冠にするのはカネプと呼ばれるエビヅルのつるで、これで作られた冠がカプリカズラである。一方、ノロの側近はカニクサの冠をする。沖縄島・奥ではシヌグという行事のとき、チルマチカンダと呼ばれるカニクサを冠にする。マチリと呼ばれる与那国島最大の祭の際、ツカサ(神女)たちはンバと呼ばれるカニクサでクマという冠を作り着装する。」と多くのカニクサと神事の関わりを紹介し,「またカニクサは一般にはガラスィプクサ(ヘビの壷の草)と呼ばれている。カニクサのつるがヘビに化生すると信じている人は今でも少なくない。カニクサはヘビを通じて、水神とのかかわりがあるのかもしれない。シダは土地の日々にとって、何やら重大なヒミツをもっているようなのだ。」と,南の島々での,カニクサを初めとするシダ類と,神との密接な関係が伺える行事を紹介している.寒い地方でウラジロを正月の飾りに使うのも,この名残かもしれない.

カニクサ(2/3)ツンベルク,英国では観賞用,米国では世界最長の葉に成長,野生化して厄介者に

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