2011年12月28日水曜日

トベラ Japanese mock orange, 大和本草,和漢三才図会

Pittosporum tobira年の暮れにはトベラの枝を門扉に挿して,邪鬼を祓う風習があった.

日本(本州岩手県新潟県以南・四国・九州・琉球)・朝鮮・中国(江蘇・浙江・福建・廣東)・台湾の海岸に分布する,常緑の灌木.潮風に強いので都会のスモッグにも耐性があり,シャリンバイと共に,都心の公園や交通量の多い幹線道路のグリーンベルトの植え込みにも使われる.(画像撮影 2007年5月ひたち海浜公園)
春咲く花は小さいながら甘い良い香りがして,西欧ではその香りがオレンジの花に似ているとして, “Japanese mock orange 日本オレンジもどき” という名前で呼ばれ,海岸近くの公園や庭園に植えられている.2006年4月に訪れた米国ノースカロライナの海岸では花をつけた大きな繁みを見たし,カリフォルニアでも海岸に植えられていると同行した友人が言っていた.

葉や茎,根には悪臭があり,また,葉を燃やすとはぜて燃えるので,その音と臭気で鬼を祓うと考えたのか,むかし節分や除夜に,この木の枝を門扉に挿して魔よけとしたことから,扉の木(とびらのき)と言われ,それがトベラになったとされている.

深江輔仁『本草和名』(918頃) 石南草に「和名止比良乃岐」と,源順『倭名類聚抄』(934頃) 石楠草に「和名止比良乃木、俗云佐久奈無佐」とある.

江戸時代に下ると伊藤伊兵衛の園芸書,『花壇地錦抄』(1695)巻三「冬木之分 笹のるい」に,「とべら 木 葉ハしやくなんげのごとく花ハミるかいなし」また,同書の「草木植作様伊呂波分」には「植替二三月時分」とあり,庭園樹として栽培されているが花は鑑賞価値が低いとされていたこと,石南草・石楠草と呼ばれていたのは葉がシャクナゲに似ているからということが分かる.

貝原益軒『大和本草』 (1709) の『諸品図(中)』(1715?)には,「除夕(除夜)ニ国俗此木ノ枝ヲ扉ニ挟テ来年疫鬼ノフセギトス 故ニトヒラノ木ト云 葉ハ臭味共ニアシ(悪し) 花ノ香ヨシ 葉ノ中ノ筋ハ白シ」とある(上図).

また寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)の巻第八十二 香木類には(右図)
「扉木 とべら とびらのき
正字未詳〔『和名抄』(草木部木類)では、石楠草の三字を用いている〕
俗に止比良乃木(とびらのき)という。いま止閉良(とべら)という。
△思うに、この樹は山中に多い。現今では、人家の庭園でもこれを植えている。樹葉の状は楊梅に似ていて臭い香がある。伝えによれば、除夜にこの樹を門扉に挿すとよく疫鬼を避けることができる。それで扉木という、という。四月に小白花を開き、実は四、五顆(つぶ)ずつ群がって結生する。青色でやや熟すると自然に裂ける。中に赤色の子があって、水木犀(もつこく)(香木類)の子に似ているが大きい。
牛病を治す。 葉を擦り揉み、塩を少しばかり加えまぜ、これを与えるとよい。」(現代語訳 島田勇雄,竹島淳夫,樋口元巳訳注,平凡社-東洋文庫)とある.

放射線鬼や増税鬼もこれで防げればよいのだが.

2011年12月18日日曜日

バジル メボウキ (3) 種の効用,大和本草,和漢三才図会,本草綱目啓蒙,アマゾン原住民.悪口の効用,博物誌

Ocimum basilicum seeds バジルの種を目に入れると,吸水し周りに多糖質の粘液を分泌して膨れ上がり,目の中の異物を吸着するのが日本名「メボウキ」の由来である.
〇貝原益軒『大和本草』 (1709) 巻之九 草之五 雑草類「羅勒」 「實ヲ目ニ入レハ目ノアカヲトル」
〇寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)「羅勒子(らろくし) 乾いた子を用いて目の腎(かすみ)や塵が目に入ったのを治す。」(現代語訳,島田勇男ら,1987年)
〇小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806) 「羅勒 メバゝキ水ヲ見レバ即外二白脂ヲ纏フテ一分余ノ大サニナル。故ニ目中ニ入テ痛マズ、能塵ヲ粘シテ出。故ニ、メバヽキト云。」

そこで,今年収穫した種に水を加えてその変化を見た.水を加えて20分ほどで,周りに白いゼリー状の物質を分泌し,20倍以上に体積が膨らんだ.触ってみるとぶよぶよで確かに目の中で異物を吸着しそう.
このような薬効が西欧や中国で認められているか気になって,ネットで調べてみたところ,『本草綱目』にこの薬効の記述があった.
さらに,アマゾン原住民が使っている薬用植物についてのホームページ
“Albahaca – Ocimum basilicum
A seed of albahaca placed in the eye will remove unwanted material from the eye, like mucus.”
という記述が見つかった.アマゾン流域にはバジルが自生しているとは思えないので,勿論この植物自体は後で移入されたのであろうが,地球の裏側でこの草の種に,日本と同じ薬効が認められているのは興味深い.

なお,古代ローマの博物学者,ガイウス・プリニウス・セクンドゥス(Gaius Plinius Secundus, 23 – 79,大プリニウス)の『博物誌』の植物篇には
「三六 各種の種子
メボウキよりもたくさん種子のなるものはない。さらにたくさんなるようにするためには、悪口とか罵声を浴びせてから種子を播くのがよいと、人々は教えている。」(大槻真一郎編,1994年発行,八坂書房)とあるので,来春播種の時には試してみようと思う.

2011年12月9日金曜日

シジュウカラ 四十雀 和漢三才図会,名の由来

Parus minor庭のサクラの木を訪れたシジュウカラ.オスは喉から下尾筒にかけての縦縞がより太いので,画像の個体はメスと思われる.以前はユーラシア中部・西部に分布する P. major と同じと考えられていたが,2006年にアムール川流域では2種が交雑なしに共存している事が報告され,別種とされた.P. major は腹部が黄色いが,シジュウカラ P. minor の腹部は白い.

「シジュウカラ」の名は,古くは,平安時代の「日本霊異記」という書物に「しじゅうからめ」という名前であらわれ(2種の現代語訳を読んだが,確認できず),その後,室町時代から「シジウカラ」と略されたとされている(http://choyukkuri.exblog.jp/i58/).名前の由来には諸説あるが,地鳴きが「チ・チジュクジュク」と聞こえるので,この鳴き声を表した「シジウ」に,「カラメ」がついてできたと考えられる.「カラ(メ)」は、ヤマガラ,ヒガラの「ガラ」や、ツバクラメ(ツバメ)の「クラ」と同じく鳥類を表す古語である.

江戸時代の百科事典,寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)には
「四十雀 正字は未詳
△思うに、四十雀は小雀に似ていて大きい。頭は黒く両頬は白くて円紋をなし、黒い圏(わ)は頸にまで至っている。胸・背は灰青、翅・尾は黧黒(きぐろ)で灰白の竪条(たてしま)がある。腹は白色で胸から尾にかけて黒雲紋がある。声は清滑で盛んに囀る。四十加羅(しじゅうから)と囀っているように聞こえる。それでこう名づける。老いると毛が変わり、色もやや異なり形も大きくなる。俗に五十雀という。雌は腹の雲紋が幽微である。
朝まだき四十からめぞたたくなる冬ごもりせる虫のすみかを 寂蓮」 (現代語訳 島田勇雄,竹島淳夫,樋口元巳訳注,平凡社-東洋文庫)

とあり,シジュウカラの名前は囀りから,年老いるとゴジュウカラになるとされている. また和歌の作者「寂蓮」は平安時代の歌人.したがって平安時代にはしじゅうからめと言われていたことが分かる.

他には,雀四十羽とこの鳥一羽を引き換えたとする説,多く群がる意で「四十(シジュウ)」,かるく翻るがえって飛ぶとことから「軽(カル)」で「四十カル」が転じた説があるが,前者は「四十」+「雀」という漢字表記に引っ張られたと思われ,やはり「鳴き声」+「カラ(メ)」説が説得力がある.

P. major の英名は Great tit.英語の Tit には乳房・乳頭の意味もあるので,中国語 Wiki のこの鳥の項(「大山雀(Great Tit)」)を,自動翻訳させると,かなりエロチックな文が現れる.中→和ではなく,中→英→和訳なのでこのような事が起こるらしい.