撮影 2007年11月 米国ワシントン D. C.
江戸時代の本草書・園芸書での記事(2)
伊藤伊兵衛『花壇地錦抄』(1695)○ 冬木之分 実秋色付て見事成る類
南天 本草綱目ニ其ノ種是木ニテ草ニ似タリ故ニ南燭草木ト号ス云云あるひハ南天燭といひ叉ハ草木ノ王などゝ異名さまざま有ていみしき物なれ共今ハ何国ニも多クして手水鉢の近所大形(かた)雪隠のあたりに植て朝夕目近物なれバくわしくいふもくどししかし唐(から)南天といひて近年珍敷(めずらしき)種ありいかんとなれバ木のしかミてちいさきによく実なりて見事也
伊藤伊兵衛『増補地錦抄』(1695) 巻之五
白南天 葉も木も南天とおなじ実のかたち又おなじ色白ク随分きれいに見事成物立花に立ませて珍敷
現在栽培されている赤い実をつける種としてはシナナンテン(支那南天,cv. Pavifolia )もあり,ナンテンに比して葉は小さく丸みを帯び,果実は殆ど垂れ下がらない.上品なので特に花材として人気がある.『花壇地錦抄』にある,「唐(から)南天」かもしれない.
小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806) 巻之三十二 木之三 灌木類
南燭 ナンテン ナツテン(京)ランテン(上総) 三葉(和方書) 〔一名〕闌天竹 南天竹 天竹 南天竺 大椿 黒飯樹 烏飯子 南竺枝子 烏飯葉 烏葉 烏草 天燭 南天燭 惟那木之王 南草木 南続 楊桐草
人家二多ク裁。葉ハ楝(センダン)葉二似テ、鋸歯ナク、冬ヲ経テ枯ズ。五月枝頭二長穂ヲ出シ、多ク枝ヲ分テ花ヲ開ク。五出ニシテ白色、黄蘂、後円実ヲ結ブ。熟シテ色赤シ。春二至リ猶アリ。一種白実ナル者アリ。一種淡紫実ナル老アリ。フヂナンテント云。凡ソコノ木多ク叢生ス。一叢百余株ナル者アリ。南土ニハ柱トナスべク、扁額トナスべキ者アリ。花戸二一種ヒラギナツテント呼者アリ。一名ヒイラナンテン(土州)、唐ナンテン(勢州)。此木モト加州ヨリ出。葉ニ大刻アリテ杓骨(ヒイラギ)葉ノ如シ。花ハ穂ヲナシ、黄色、形豆花ノ如シ。是別種ニシテ南燭ノ類二非ズ。漢名詳ナラズ。
ナンテンの『本草綱目啓蒙』に記載されている地方名はわずか二つで,しかもナンテンの転訛であることは,この植物が自生ではなく,比較的遅い時期に移入された事を示唆すると考えられる.
ケンペルは『廻国奇観』(1712年)に,ナンテンを漢名「南燭 Nandsjokf」,俗称を「Natten または Nandin」として紹介した.属名はこの最後の語 Nandin から来ている.1804年に中国からカーがイギリスに導入.比較的短期間のうちに英国の温室では珍しくなくなったとの事.英語名は葉の形と直線的に立つ茎から「天国の竹 heavenly bamboo」.あるいは,赤い丸い実から,「カニの目」.今では欧米でも繊細な葉と鮮やかな実が冬の彩となる植えこみとして珍重されているが,繁殖力の強さからか,米国フロリダ州では有害侵入植物に指定されている.
詳しくは「海を渡った日本の花 ナンテン」(psieboldii.blog48.fc2.com/blog-entry-12.html)御参照下さい.ナンテン (2/4) 大和本草・和漢三才図会
ナンテン (4/4) 『出雲風土記』のサセノキはナンテン? 古事記,烏草樹(サシブ),佐斯夫能樹(サシブノキ),南燭,シャシャンボ