2013年10月22日火曜日

ドクウツギ (2/5) 欧米では庭木として.ツンベルク,グレイ,サージェント,ビーン

Coriaria japonica
2007年5月 ひたち海浜公園
日本では考えにくいが,英国・米国ではドクウツギの仲間は観賞用灌木として庭に植えられていたようで,中でも日本産ドクウツギはその真っ赤な実が高く評価されていた.改めて見てみるとコーラルレッドの果実とオレンジ色の茎が明るい緑の葉に映えて美しい.

この植物の存在を最初に西欧に紹介したのはツンベルク(Carl Peter Thunberg, 1743-1828)で,彼の 『日本植物誌 Flora Japonica』(1784) の巻末には不明植物(Plantae Obscurae)が 101 件記録されている.その No. 50 は彼がオランダ商館の館長と共に行った江戸参府の往復の際,箱根山中で見た未詳の木本 “50. Abor foliis rhamni, polysperm. Japonice: Nabe Kabusi, it Toneriko et Utsug (日本名 ナベカブシ,トネリコ,ウツギ)” であり,そこにはその植物学的な特長と花期が五月から六月とある(左図,左).
後述するカーチスのボタニカルマガジン(Curtis's Bot. Mag.: t. 7509 (1896))の記事においては,この未詳の木本はドクウツギであろうとされている.

ツンベルクが滞日中に採集した植物の標本の殆どは,スウェーデンのウプサラ大学博物館に保存されている.最近このコレクションを検討した神奈川県立生命の星・地球博物館の勝山らは,この No. 50 の植物が箱根で採取されたドクウツギであることを確認し,腊葉の写真も撮影した(勝山ほか「ツュンベリーの日本植物誌に記録された箱根産植物」神奈川県立博物館研究報告(自然科学)42号,2013)(上図,右).
http://nh.kanagawa-museum.jp/files/data/pdf/bulletin/42/bull42_35-62_katsuyama_s.pdf

ツンベルクはリンネ(Carl von Linné, 1707- 1778)の弟子であり,リンネは著作『植物の種』(Species Plantarum, 1753)において,地中海沿岸に生育するセイヨウドクウツギに Coriaria myrtifolia の学名をつけていた(Species Plantarum 2: 1037. 1753)ので,ツンベルクも Coriaria 属を知っていたと思われるが,あまりに生育地が異なっていたためか,ナベカブシが同じ属とは考えなかったのであろう.
HUH Type Specimen

現在も有効である学名 C. japonica をつけたのは,多くの日本産の植物を研究し,植物の「東アジア・北米隔離分布」説をはじめて唱えたハーバード大学教授のエイサ・グレイ(Asa Gray, 1810-1888)である.彼は,ペリー提督の日本遠征と同時期の1853 - 1856年に,日本を含めた極東北部を探索したロジャース提督の艦隊の C. Wright が下田近郊で採取した腊葉を基に,1858年に “Mem. Amer. Acad. Arts ser. 2, 6(2): 383. 1858 “ で新種として発表した.命名の基準となったこのタイプ標本は,ペリー提督の艦隊に同行した S. W. Williams と J. Morrow が1853 年にやはり下田で採集した不完全な腊葉と同じシートに貼られて,ハーバード大学に収蔵されている.(右図)

From "Garden and Forest"
日本から送られた種を米国で育てたのはハーバード大学のサージェント教授(Sargent, Charles Sprague, 1841-1927)である.彼は幕末に横浜に商会を構えて多くの日本植物を輸出した Veitch 氏が,前年本州の ”Fukura” 近くで採取した種を送って貰い,1893年にボストンの Arnold Arboretum に播いて,花を咲かせ美しい赤い実をつけさせることに成功した.
彼は著作の中で,この木はボストンでも育つ,強健で ”handsome and interesting plant” であり,庭園の装飾用灌木(ornamental plant)として高く評価できるとした.( Sargent. C. S. “Garden and Forest.” 497 ‘New or Little-known Plants’ (1897))(左図)

1893年にサージェント教授から英国 Kew 植物園に種子が送られ,発芽成長し花と実もつけたが,ロンドンの気候にはあまり合わず, “when seen at its best is extremely beautiful. It has been grown with particular success in the Vicarage garden at Bitton*. “ と,南部地方でよい成績が得られた.(Bean. W. “Trees and Shrubs Hardy in Great Britain”. 2nd ed. Vol 1 (1919))
*イングランド南西部,南グロスターシャー,ブリストル近郊の町 ‎

カーチスのボタニカルマガジンには,このBitton の Canon Ellacombe's garden で生育し,美しい実をつけたドクウツギの図譜が掲載されている.

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