2014年2月7日金曜日

スノードロップ (2/10) 伝説・神話,アンデルセン童話

Galanthus nivalis
2008年3月 茨城県南部
欧州に春の訪れと希望をもたらす野の花として,それぞれの土地で親しまれ,英訳すると以下のような名前で可愛がられている.
Redouté 『百合図譜 LES LILIACÉES V-4』1808
フランス: PERCE-NEIGE snow piercer(雪のピアス), winter’s wooer(冬の求婚者),イタリー: firstling(初子),スイス: Blackbird flower,ドイツ: Schneeglöckchen (snow-bell),ウェールズ: baby bell,デンマーク: summer-fool(夏馬鹿),スペイン: winter bell

可憐ながら雪の下から他に先駆けて咲くこの花には,それにふさわしいいくつかの伝説・神話がある.

ギリシャ神話では,ある島の王子 Albion が妖精の王 Oberon の娘 Kenna に恋したが,Oberon はこの交際を禁じて,王子を妖精の国から追放した.怒った王子は父親の Neptune に訴え,Oriel が率いる大軍で妖精の国に攻め入った.しかし,この戦で,Albion は返り討ちに遭って倒された.Kenna が王子の遺骸に霊草 moly(モリュー)の汁を注いで蘇生させようとしたとき,その不運な王子はSnowdropに化したという.
ここで注目すべきは王子の名, Albion はギリシャ語で「白」を意味する言葉で,スノードロップの純白の花被に通ずるのであろう.

これとは別の伝説に,アダムとイブがエデンの園を追われ,激しく雪の降る中,失った楽園をイブが嘆いていると,一人の天使が天から送られてきた.「追放されてから咲く花を見ていない,永遠に冬が続くのか」と絶望して泣くイブを哀れんだ天使は,涙を拭いてやり,舞い落ちる雪の片に息を吹き込んで,これに生命を与えた.雪片は地面に触れると姿を白い小さな花へと変身した.そしてこの天使は,イブにこのスノードロップの花は必ず夏がくる証拠だから,希望を捨てないようにと云ったという.
O. W. Thomé
"Flora von Deutschland Österreich
und der Schweiz."Vol.1(1903)

And lo! Where last his wings have swept the snow,
A quaintly fashioned ring of milk – White snow drops blow.
-f Deas, 90.
(するとなんと,その翼が雪を払ったところに
乳白色の奇妙な耳飾り - スノードロップの花が咲いた.)

ドイツにはスノードロップの白い花に次のような伝説がある.
創造主は天地開闢のおり,空には青,雲には灰色,土には黒褐色,木には緑,花にはあらゆる色といったぐあいに,全ての物に色を与えられた.その後,雪はおずおずと神のもとへ参上して,「私にいただく色はもうなくなりました. 風のように人目につかないものになってしまいます」と訴えた.すると創造主はこれを聞いて,「花はどんな色でも持っているから,色をひとつ分けてもらいなさい」と言い渡した.が,どの花も,そのきらびやかな色を分けることを断った.
しょんぼりと帰っていく雪に,スノードロップはおずおずと,”If my white colour be of Any use to you, you are very welcome to it! もし私の白い色がお役に立つなら,どうぞお使いください” とささやいた.その花の色をもらって以来,雪は冬じゅう,この気前のよいかわいい花を守り,温めているのだという.

J. W. Hornemann ed,
 "Flora Danica"
tab 1641(1819)
アンデルセン Hans Christian Andersen (1805-1875) には『Sommergjækken – 夏馬鹿(スノードロップ)』(1871)という,この花を主人公にした童話がある.(英訳はwww.callamagazine.com/en/literature/story02.aspで読める.和訳は完訳アンデルセン童話集5 大畑末吉訳 岩波書店 に収載)
このなかで,冬に耐え抜いて雪の中でもう夏が来たかとだまされていち早く咲くスノードロップは,押花になって失意の旅をするが,最後にはアムブロシウス・スドゥブの立派な詩集にはさまれ,早く生まれすぎて正当な評価を得られなかった詩人を象徴することとなる.

また彼の,『Sommerfuglen チョウ(蝶)』(1860)という童話では
「チョウがお嫁さんをもらおうと思いました。もちろん、お嫁さんは、かわいい花のなかから選ぶつもりでした。(中略)
ちょうど春のはじめでした。マツユキソウとクローカスがいっぱい咲いていました。「これはかわいらしい。」とチョウは言いました。「堅信礼を受ける年ごろのかわいいお嬢さんたちだ。だが、少しうぶすぎるな。」すべての若い男のように、チョウも年上の娘のほうに目をつけました。(後略)」完訳アンデルセン童話集6 大畑末吉訳 岩波書店 (1981) と,スノードロップを清純な少女としている.

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