2015年11月7日土曜日

マルバアサガオ-3 日本渡来時期,馬場大助『遠西舶上画譜』,米田芳秋教授による曜白アサガオの開発

Ipomoea purpurea
2015年10月 茨城県南部, 葉はカラスウリ
マルバアサガオも熱帯アメリカ原産である.英名 Common morning glory の名からもわかるように欧米でアサガオ (morning glory) といえばこの種をさす.花径は5~6センチで,アサガオ(Ipomoea nil)よりやや小輪であるが,園芸化が進んでおり様々な花色,模様のものが存在する.開花時期はアサガオより遅く,秋深くまで咲き続ける.

日本に渡来した時期については,「江戸時代宝永年間(1704-1711)に渡来」(長田武正『原色日本帰化植物図鑑』保育社 1976),「江戸時代に渡来した」(林弥栄ら編『日本の野草 (山渓カラー名鑑)』山と溪谷社 1983),「宝永(寛永の誤りか?)7年 (1630) ごろ九州福岡地方で「八房」と称したものである (最新園芸大辞典 1987 第9巻 p77 誠文堂新光社),「明治中期に渡来」(木村陽二郎監修『図説草木名彙辞典』柏書房 1991),「1705年前後に観賞用花卉として渡来し,暖地を中心に野生化した.」(清水矩宏ら『日本帰化植物写真図鑑』全国農村教育協会 2008  とあるが,この分野の第一人者の米田芳秋教授に拠れば,「日本への渡来は寛永7年 (1630) ごろに福岡地方で「八房」と称したもの (最新園芸大辞典 1969 第4巻 p.2104 誠文堂新光社) とされているが,条斑点絞り系統は明治中頃に輸入されたようだ(永沼小一郎 (1903) まるばあさがほ図解 朝顔の研究 第1巻11 p.9)「アサガオの近縁種と種間雑種」」とある.


『遠西舶上画譜』(1825)
江戸後期の本草・園芸家★馬場大助の『遠西舶上画譜』(1825)には,英名の「モー子ンガ・ガロウヒー」として,海外より渡来したアサガオの図が描かれているが,葉の形状や花の配色からマルバアサガオと思われる(右図,東京国立博物館).
馬場大助(1785-1868)は江戸後期の旗本・本草家.富山藩主前田利保が江戸で主宰した本草同好会「赭鞭会」の有力会員であった.麻布飯倉の自邸内に多数の舶来植物を植え,それらを実物から彩色写生し,形状や渡来年などを注記した本画譜は,袋綴の間紙に用いた薄墨色の紙が,淡彩の画に微妙な効果を与えているが,注記が読みにくい欠点がある.

一方,磯野慶大教授は,天保3年(1832)718日に毛利梅園が『梅園草木花譜・秋之部四』に,マルバアサガオを描いているとしている(磯野直秀『明治前園芸植物渡来年表』慶應義塾大学日吉紀要 No.42, 27-58 2007)が,これは「ハリアサガオ」で,マルバアサガオではない.

マルバアサガオ,アサガオ,ハリアサガオの種子
マルバアサガオの蔓の伸び方はアサガオより旺盛で,蔓の絡まる性質もつよいので,垣根栽培に向いているが,今日では帰化し野外に自生するもののほうが多く,とくに本州中央部に普通.アサガオ(Ipomoea nil)と異なり,受粉後果実が下を向き,種子(左図),子葉ともアサガオと比べてかなり小型である.

 米田芳秋教授による曜白アサガオの開発

マルバアサガオは欧米で長年に渡り品種改良され豊富な変異をもっているので,新種開発を目指して.これと日本種のアサガオとの交配を今井喜孝氏,萩原時雄氏らが試みたが成功しなかった.
2006年8月

米田芳秋教授は,古里和夫氏によって1956年アフリカのギニアで採集されたアフリカ系(性質は強健であるが,非常に遅咲きで9月下旬以降にしか咲かない.葉は切れ込みが浅くやや波打つ.花は他のアサガオの野生型に比べて淡く,空色.分子系統学的解析からも他のアサガオ系統よりもアメリカアサガオやマルバアサガオに近い)のうち,空色無地丸咲のアフリカ系アサガオを雌親とし,白地青紫色条斑点絞り花のマルバアサガオを交配し,交配成功率は2~3%であったが,初めて雑種を得た.F1では淡青地条斑点絞りが咲いたが,稔性は低かった.

2006年 8月
米田教授は1976年以来,このアフリカ系アサガオ×マルバアサガオの後代を橋渡しとして,種々のアサガオを大量に交配した.特に覆輪種との交配により,雑種の花の「曜」に沿って覆輪が花筒方向に伸び始め,最終的に花筒まで到達した「羽根車」という系統を開発した.この形質により雑種性アサガオの花は色鮮やかな印象を与えるようになり,この新しい形質を1979年に曜白と命名した.

その後繰り返し日本系アサガオと交配し,架け橋・舞姿・紗矢佳・千秋・矢車などの品種名の新種アサガオを固定化し「曜白アサガオ」として「種のサカタ」より発売した.これまでにない変わった花の模様を持ち,花のしおれも遅いことから最近では広く栽培されている.曜白アサガオには,マルバアサガオの遺伝質は 16分の1 でしかないが,多花性や秋遅くまで咲き続け,花持ちがよく,よく蔓を伸ばすなど,マルバアサガオの長所を発揮している.

教授の著書『アサガオ 江戸の贈りもの-夢から科学へ-』(95年,裳華房)にそのご苦労や喜びが詳しい.


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