2015年11月2日月曜日

マルバアサガオ-2, フランス,移入時期.ルドゥテ『美花選.』,ドルビニ『万有博物辞典』.学名.リンネ,ロート,ディレン,欧州図譜

Ipomoea purpurea
2015年10月 茨城県南部 葉の形,下を向いた複数の果実
成書1.によれば,フランスには,英国より遅れて 1629 年に移入された.「volubilis (マルバアサガオ)の生まれ故郷は南アメリカの暑い地方である.巻きつく茎,明け方に開花し午前中の半ばには閉じてしまう漏斗形の大きな花は,奇妙なことにヒルガオ属やセイヨウヒルガオ属を想起させる.この一年生のヒルガオ科植物は 1629 年にフランスに移入され,植物学者によって imomee (Imopea purpria) と名づけられている.」とあり,また名の由来は「茎の様子」から「巻きつく (volubile)-volubilis (マルバアサガオ)」とされる.
成書1"Les Noms des Plantes" "Les Noms des Fleurs" A. Lucien Guyot, Pierre Gibassier L.ギィヨ・P.ジバシエ著/飯田年穂・瀬倉正克訳『花の名前 ─ヨーロッバ植物名の語源─』(1991), 八坂書房 
原書を見ることができなかったので移入年代の典拠の確認はできず,また,「奇妙なことに」の意味がよくわからないが,ロスがリンネが帰属させた属を変更したことに関連するのかもしれない.移入年は,ルドゥテの『美花選.(1827) の解説で,ギユマンが「(フランスの)庭園では二世紀に渡って栽培されている」とあるのに,よるのかもしれない.

この花はフランスに於いても植物画家の興味を引いたと見えて,ルドゥテの豪華な植物図譜『美花選 ‘Choix des plus belles fleurs :et des plus beaux fruits /par P.J. Redouté.(1827) に,彼が改良し特許も取得したスティップル彫版を駆使した彩色銅版画(一部手彩色)を用いて描かれている.ルドゥテは,植物図譜の最高傑作とも呼ばれる『ユリ譜』(Les liliacees. 1802-16) や,『バラ譜』(Les roses. 1817-21) の図版を製作したが,それらの図譜が専門家向けだったのに対し、本書はより一般的な読者を想定して製作されたもので,植物学的な観点からは批判もあるが,一方でルドゥテの画家としての魅力を最も良く示すとの評価もある.
ルドゥテがこの図譜に記した植物名は “POMAEA QUAMOCLIT.” であるが,これはルコウソウの学名であり,彼の誤りは,この書の解説を書いたギユマン(Jean Baptiste Antoine Guillemin, 1796 - 1842)によって,当時の正しい学名 Convolvulus purpureusと訂正されている.
IPOMAEA QUAMOCLIT.
La plante ici figurée par M. Redouté n'est pas l’Ipomoea Quamoclit*, mais le Convolvulus purpureus espèce mal-à-propos rapportée au genre Ipomoea par quelques botanistes.
Ce Convolvulus, extrêmement répandu dans les jardins d'Europe, ou on le cultive depuis plus de deux siècles, est originaire d'Amérique. Ses couleurs sont très-variables, car on en voit à fleurs blanches, discolores, panachées, rayées, etc.
* Ipomoea Quamoclit* ルコウソウ
ここでルドゥテ氏によって示された植物はルコウソウではありません.何人かの植物学者によって報告されたようにConvolvulus purpureus という,別のアサガオの種です.このセイヨウヒルガオは,ヨーロッパの庭園の中で非常によく見られ,また2世紀以上栽培されていて,アメリカの原産です.よく見られるように,白,二色,まだら,ストライプ,とその色は,大変に変化に富んでいます.(試訳)

Pharbitis hispida (Zuccagni) Choisy
d’ Orbigny, C.V.D., Dictionnaire universel d’histoire naturelle, plates vol. 3, t. 41 (1841-1849) [Maubert]

Charles D’Orbigny’s Dictionnaire Universel d’Histore Naturelle 
ドルビニ万有博物辞典
フランスの博物学者 Charles Henry Dessalines d'Orbigny 1806-76)により編纂された,フランスの図鑑黄金時代の掉尾を飾った図譜.この辞典に収められた 280 葉に及ぶ部分カラー印刷手彩色図版は,Travier, Oudart, Pretre Maubert 等,当時有数の画家による原図に基づき,部分色刷り手彩色点刻彫版鋼版(スティップル彫版)で刊行された.サイズは八つ折り.点刻彫版法でのグラデーションが美しく,水彩画の雰囲気をとどめる上品な図とレタリングの見事さも目を惹くフランス製図版の代表例の一つ.本図の原図者は当時自然科学の図譜描画者として著名な Edouard Maubert (1806-1879).http://www.plantillustrations.org/

最初に学名をつけたのはリンネで,この植物がヒルガオ科 (Convolvulaceae) のセイヨウヒルガオ属 (Convolvulus) に属するとして Convolvulus purpureusと,”Species Plantarum, Edition 2” (1762) に記載した.

9. CONVOLVULUS  foliis cordatis indivislis, frueti-   purpureus.
bus cernuis, pedicellis incraffatis.
Convolvulus calycibus tuberculatis pilosis. Virid. cliff.
18. Hort, ups. 38. Gron, virg. 141 ,

220  PENTANDRIA MONOGYNIA.

Convolvulus purpureus, folio subrotundo. Bauh.pin295; Ehret, pict. 7. f. 2.
ß. Convolvulus caeruleus minor, folio subratundo. Dill. elth. 97. t. 82. f. 94.
γ. Convolvulus folio cordato glabro. Dill elth. 100. t, 84. f. 97.
Habitat in America.
Pedunculi erecti, at Pedicelli in fructu incrassati cernui, calyce punctato-scabro & piloso.

リンネが引用した先行文献ディレン (Dillenius , Johann Jakob, 1684 - 1747) 著の “Hortus Elthamensis - - ” (1732) の二つの図を示す.(いずれも Biblioteca Digital del Real Jardin Botanico de Madrid

しかし 1787 年,ドイツのロート (Albrecht Wilhelm Roth, 1757-1834) ” Botanische Abhandlungen und Beobachtungen, 27”  (1787) という書でサツマイモ属に属するとして,現在も有効な学名 Ipomoea purpureaとなった.この文献をネットで探したが,見つけ出せなかった.なお,属名 Ipomoea はギリシャ語の ιπς (ips) イモムシ,または ιπος (ipos) セイヨウヒルガオと,όμοιος (homoios) 似ている に由来するそうだ.種小名は赤紫色の意味で,リンネ以前にラテン名をつけた植物学者が観察した花色に由来.

欧州で出版された植物図譜(自然図譜)からマルバアサガオが描かれた図版を示す.
9. は米国での,ラッパ型の花に対応した吸蜜・花粉搬送者としてのハチドリの吸蜜の状況を描いている.


    1.    Curtis’s Botanical Magazine, vol. 25: t. 1005 (1807)(英)

2.    Curtis’s Botanical Magazine, vol. 4: t. 113 (1791) (英)

3.    Curtis’s Botanical Magazine, vol. 41: t. 1682 (1815) (英)

4.    Edwards’s Botanical Register, vol. 23: t. 1988 (1837) (英)葉が?

5.    Step, E., Bois, D., Favourite flowers of garden and greenhouse, vol. 3: t. 195 (1896-1897) (英)

6.    Ehret, D., Plantae et Papiliones Rariores, t. 7, fig. 2 (1748-1759)(独)

7.    Ruiz Lopez, H., Pavon, J., Flora Peruviana, et Chilensis, Plates 1-152, vol. 1: p. 12, t. 121, fig. a (1798-1802)(西)

8.    Georges Cuvier., Dictionnaire des sciences naturelles, Plates Botanique, vol. 3: (1816-1830)(仏)

9.    Gould, A monograph of the Trochilidæ, or family of humming-birds, vol. 4: t. 247 (1861)(英)

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