2016年4月26日火曜日

ツリフネソウ-1 諸禽萬益集,地錦抄附録,草木弄葩抄,画本野山草,和訓栞,梅園草木花譜,日光山草木之図,本草要正

Impatiens textori
2004年8月 白馬村
渓谷沿いの湿潤な地に多い草本.草丈1メートル近くまで成長する.これ程大型の一年草は日本では珍しい.植物体の90%近くが水分の,柔らかい莖葉を持ち,特異な形の花を時節には多くつりさげて目立つ.花の形から,吊船草,釣舟草,法螺貝草などと呼ばれ,また,この花を子供が指にさして遊んだからか,ゆびはめぐさ等の方言がある.

目立つ花にも関わらず,記録に現れたのは比較的遅く,故磯野慶大教授の初見は,★左馬介『諸禽萬益集』(1717述,1742写)で「釣舟艸」として現れる(左図).この書は江戸時代三大養禽書の一つだが,著者の実名は不明.巻一は飼育法,巻二は各論で,和鳥125品について解説する.後書で著者は『草花伝』という自著もあることを記し,外来種では金糸梅・日々草・葉牡丹など,和産種では京鹿子・達磨菊・釣舟草・羽衣草・二葉葵・柳蘭などの内外計210ほどの名を挙げるが,そのなかには初出名が少なくない.

江戸の植木屋として,数多くの園芸用植物を栽培し記録した★四世伊藤伊兵衛『地錦抄附録 巻二 草花のるい』(1733) には,「横紫(よこむらさき)
花形螺貝(ほらがい)のかたちにて異形なりいろ濃むらさき八九月さく」とあり,庭用にも栽培されていた事をうかがわせる(右図).

ツリフネソウには,類縁種のキツリフネ(Impatiens noli-tangereがあり,★菊池成胤『草木弄葩抄(1735) での「釣船草」は,このキツリフネと思われ,紫花-ツリフネソウ-はこの類とされている.「釣船草
葉、から松草に似て、きれあさく、葉うすし。くき、雰節(ふしだち)して、葉のうらより一寸許の、ほそきいと、さがり、はなをつる事つり船のごとし。花のかたち、とりかぶとをよこに志たるかごとく、いろ、本金、黄、至極かハり也。又、紫花あり。」(左図)

ツンベルクが帰国時に持ちかえり,その後の日本植物の著作の参考としたとして知られる★橘保国(1715-1792)画本野山草 第五巻』(1755)には,釣船草の絵の記載として「芲地エンジグ ヒラ同 ソコヨリキクマトル スシヱンシ同ホシ (花の地は臙脂色,花びらも同じ,底から黄色が隈取る,筋は臙脂で,同じ色の星がある)」とある.当時の「画本」とは,画家が手本として描くためのデザイン集で,細かく塗る色を指定していた.しかし,植物としてのメモには
「釣船草 花、八九月有
葉、野菊のはに似て、きれあさく、葉うすし。くき、雰節(ふしだち)して、葉のうらより一寸ばかりの、ほそきいと、さがり、はなをつる事つり船のごとし。はなのかたち、とりかぶとを横にしたるかごとく、色、本金(ほんきん)、黄、至極かハり也。又、紫花有、又白もあり。」と,ほぼ『草木弄葩抄』の記述をコピーしていて,キツリフネが主の記述と思われるが,絵の説明には花色は臙脂であると,手本絵はツリフネソウを見て描いたと思われる(右図).
また,白い花のは,ハガクレツリフネ (Impatiens hypophylla)と思われる.

★谷川士清 (ことすが) 編の『和訓栞(わくんのしおり)』(17771887)は,江戸後期の国語辞書で全 93巻.安永6~明治20年(17771887)刊.3編からなり,前編には古語・雅語,中編には雅語,後編には方言・俗語を収録.第2音節までを五十音順に配列し,語釈を施して出典・用例を示す書であるが,その『巻之一六』に
「つりふね (中略) 草にいふは麦藍莱なり」とある(左図).
この,麦藍莱は神農本草経から現われている薬草「王不留行(オウフルギョウ)」で,ナデシコ科の「ドウカンソウ(道潅草))の異名との事.

★毛利梅園(17981851)の『梅園草木花譜』(1825 序,図 18201849),「梅園草木花譜 秋之部二」には,実物を写生した美しく精密な図に
「地錦抄曰 横紫 ツリフネサウ 横雲草 釣舟草亦有黄花ノ者一品別種爲
本草云 坐拏草 ツリフ子さう ヨコクモサウ」
とあり,キツリフネの存在や,「横紫」「横雲草」の異名と,本草綱目に出る「坐拏草」と考定されている事が記されている(右図).

この「ツリフネソウ=坐拏草」という考定が初出した文献は調べきれなかったが,『本草綱目』の「坐拏草」への誤考定が,和本草書では度々現れる(後記事).


★岩崎灌園 (1786-1842) が登山中の植物を記録した『日光山草木之図』(1824)の「第五巻」には,「日光・瀧本」で写生したキツリフネの図が色刷りで残る.(左図)

★泉本儀左衛門『本草要正巻之一』(1862)には,
「ホラガイソオ 黄花ノモノヲキツリフ尓ト云ヒ
        紫花ノモノヲヨコムラサキト云」
とあり,ツリフネソウの異名として法螺貝草と横紫が記録されている.

(挿図は全て NDL のデジタル公開文書よりの画像部分引用)

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