2016年10月22日土曜日

ヒマワリ (13) 英国初期(2) ジェラルド-ジョンソン『本草書-改訂版』(1633, 1636)

Helianthus annuus

ジェラルドの『本草書 1597 年版』は誤りが多いものの,その構成や文章が魅力的だったためか,洛陽の紙価を高めた.しかし,その後に出版されたジョン・パーキンソン (John Parkinson 15671650) の,主に園芸植物を扱った『太陽の園,地上の楽園 ”Paradisi in Sole Paradisus Terrestris”』(1629)は,好評を以て迎えられ,この本で扱われなかった植物は続く二冊目で取り上げられることになっていた(1640年出版の『植物の劇場 "Theatrum Botanicum"』)

二冊目出版のうわさを聞いたジェラルドの『本草書』の編集者(John Norton の未亡人 Joice Norton (d. 1643),彼女と結婚した Richard Whitakers (fl. 1619-48) )は、『本草書』改訂版を急ぎ、Thomas Johnson (1600?-1644) に一年間で完成する条件で委託した.ジョンスンは学識のある本草学者・植物学者だったので,全巻に正確な資料で修正を加え*1633年にフォーリオ判(二つ折り本)で1,630ページ,記述植物2,850品,挿画2,766個という大冊の改訂版を刊行した.この書は "Gerard emaculatus" や, “Johnson's Gerard” という名で知られ,1636 年に再版されている.

スイスの植物学者,アルブレヒト・フォン・ハーラー(Albrecht von Haller ,1708–1777) はこの書を "dignum opus, et totius rei herbariæ eo ævo notæ compendium. " と高く評価している (Richard Pulteney (1730-1801), “Historical and Biographical Sketches of The Progress of Botany in England, From Its Origin to The Introduction of The Linnaean System.”(1790))
BHC/MoBot

fl.: floruit 〈ラテン語〉〔歴史的人物の〕活躍期、最盛期

*それでもジョンソンは,補注は加えたものの,ジェラルドの「ガチョウのなる木(CHAP. 171. Of the Goose tree, Barnacle tree, or the tree bearing Geese. Britannicae Conchae anatiferae. The breed of Barnacles.)」の記述は残した(右図 左:1597年版,右:1636年版).

この改訂版では初版と挿図が異なっている.初版の図の大部分はタベルナエモンタヌスが1588年にフランクフルトで出版した『新本草書』の木版を版元から借りたもので,使用後返却された.ジョンスンは,それを利用できなかったためか,この図にはブルンフェルスやボックの書の挿画の剽窃が含まれているのが気に入らなかったのか,オランダの出版者 Christophe Plantin (Dutch: Christoffel Plantijn, c. 1520 1589) が設立したアントワープの出版社プランタンがドドエンス,ローベル,クルシウスらの著書に使用した版木を借りだして使った.

プランタン社はおびただしい数の植物図の木版をストックしていることで有名だったが,それらの原画を主として描いたのはピエール・ヴァンデル・ボルクトPierre vander Borcht, 1545-1608)だった.彼は最初は自由契約者だったが,のちに,1572年,出生の町メヘレン(Mechelen)が,当時ネーデルランドを支配していたスペインに対して反乱を企て,スペイン軍に鎮圧され略奪されたとき,アントワープに逃れ,プランタン社に専属画家として雇われた.
BHL / MoBot
 ボルクトは博物画家としてすぐれていて,ベルリンのプロシア国立図書館が所有している彼の 2117点の作品のなかには1856枚の植物図が含まれていて,十六世紀の植物図の代表作とみなされている.それらのうち六百点前後は,プランタン社のさまざまな出版物用の版木を製作するのに使用された.絵を調べてみると,これらの図のほとんどが1565年から1573年の間に制作されたと思われる.また,プランタン社の社屋は博物館となり,世界最古の印刷機2台や同じ時期の印刷用活字一式などのコレクションと共に「プランタン=モレトゥス博物館」として世界遺産に登録されている.

 改訂版のヒマワリの章 (CHAP. 259. “Of the floure of the Sun, or the Marigold of Peru”,左図) においては,本文はスペルのわずかな変化(例えば flower floure)を除くとほぼ同一で,記述内容に変化はない.
しかし,挿図は全く異なり, 3. The male floure of the Sun 4. The female or Marigold Sun floure の図はない.また, 1. Flos Solis maior. The greater Sun floure. 2. Flos Solis minor. The lesser Sunne floure の図も初版とは異なっている.

参考図(右)に示すように,1. ドドネウス”Florvm et coronariarvm” ”Stirpium historiae pemptade” 及び "Cruydt boeck" に使われた図(右図,左)を用い,2. は,フランシスコ・エルナンデス・デ・トレド(Francisco Hernández de Toledo, 1514 1587) の著作 "Rerum medicarum Novae Hispaniae thesaurus" に収載された図(右図,右)と左右反転(原画をそのまま木版に貼って彫版したため)を除いてほぼ同一である.
"The herball, or, Generall historie of plantes /gathered by John Gerarde of London master in chirurgerie ; very much enlarged and amended by Thomas Johnson citizen and apothecarye of London." By: Gerard, John, 1545-1612, Davies, Robert. , Johnson, Thomas, d. 1644.- , Adam Islip, Joice Norton, Richard Whitakers. Printed by Adam Islip, Joice Norton and Richard Whitakers, (1633, 1636).

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