2018年7月27日金曜日

オオボオシバナ(4)本草綱目啓蒙,本草綱目紀聞,本草図譜,救荒本草啓蒙

Commelina communis var. hortensis
オオボオシバナ vs. ツユクサ 2018年6月 花と葉の大きさの差に注目
 オオボオシバナという名前は明治以降に一般的になったらしく,それ以前はツユクサ(鴨跖草)とは明確には区別されずに記述され,あるいは「アオバナ-青花」や「大寫花」などと呼ばれていた.
尋常の「ツユクサ」に比べて,葉や特に花の大きさ,草丈の高さは認識されていて,水谷豊文『本草綱目紀聞(1820)では,本草誌・植物誌としては,初めて独立した項目に記された.
この花の花弁を摘んで,絞って,和紙に何回も塗り重ねたものが「青紙」で,この紙を切り,水で色素を抽出し,染め物-主に友禅染-の下絵を描くのに用いられた.下絵は,水洗すればこの青色が跡形もなく失われるという特性を生かした利用法である.
一方,光を通しても,青色がくすまないので,舶来の羊皮紙を使った燈籠の着色に用いられたという記録も残る.
(文献画像はNDLの公開デジタル画像より部分引用)

★小野蘭山『本草綱目啓蒙48 (1803-1806) は,『本草綱目』に関する蘭山の講義を孫職孝(もとたか)が筆記整理したもの.《本草綱目》収録の天産物の考証に加えて,自らの観察に基づく知識,日本各地の方言などが国文で記されている.
その「巻之十二 草之五 隰草類下」の
鴨跖草」の項には,
(中略)
江州栗本郡山田村ニハ熟地ニ栽テ花瓣ノ汁ヲ採名産ナリ.ソノ種尋常ノ者ニ異ナリ,苗高サ三四尺,葉ノ潤サ一寸許,長サ六七寸,花大サ一寸餘.毎朝瓣ヲ採,直ニ榨リテ紙ヲ染,四方ニ賣出ス,コレヲ山田ノアオバナト呼,勢州ニテハボウシガミト云.關東ニテハア井ガミト云.衣服ノ下繪ヲ畫クニ必用ノモノナリ.此紙ヲ切,皿ニ水ヲ入テ絞レハ,青汁出ルヲ用テ,衣服ノ花様(モヤウ)ヲ畫キ,糊ヲオキテ染汁ノ内ニ入レハ,皆消脱ス.又扇面ニモ用フ.色彩好ナレトモ水カヽルトキハ皆脱去ス.舶來羊皮燈ノ彩色ニ用ユ火ニ映シテ鮮明ナリ.」
と,通常の「ツユクサ」より,背が高く,葉は大きく,花も大きく,種が異なるとしている.下絵書き以外の利用法も詳しい.

★水谷豊文『本草綱目紀聞(1820) は,小野蘭山門下の豊文(通称は助六,17791833)が,蘭山著『本草綱目啓蒙』植物部の大増補を企てた著作である.項目ごとに『啓蒙』の主要な文を転写し,自己の得た知見・方言を追加,『啓蒙』に無い写生図や印葉図も付した.參考にした資料 NDL 公開本は転写本である.
『本草綱目記聞』の「隰草類」には,「オオウツシバナ(オオボオシバナ)」が,単独の項目として初めて取り上げられている.
前半の記述は豊文の師,蘭山と同一であるが,後半には豊文が聞き取ったとみられる栽培法・青紙の製造法が追加されている.特に摺る際に「」を入れるというのは,ケンペルやツンベルクの記述(”Petala cum furfure oryzae mixta humectantur”, Blog-2, 3)と関連があるのかもしれない.
オホウツシバナ アヲバナ
鴨跖草 一種
江州栗本郡山田村ノ名産ナリ.形ボウシグサニ同シテ.大ナリ.苗ノ高サ三四尺.花大サ一寸余、毎朝辧ヲトリ、直ニ搾リテ紙ヲ染、四方ニ賣出ス.
山田ノアヲバナト呼ブ.又ボウシガミ,ア井ガミト云.
衣服ノ下繪ヲ畫クニ必用ノモノナリ。此紙ヲ切リ、皿ニ水ヲ入テ絞レバ,青キ汁出ルヲ用テ,衣服ノ花様(モヨウ)ヲ畫キ,糊ヲオキテ,染汁ノ内ニ入レハ,皆消去ル.又扇面ニモ用ユ.色鮮紅ナレトモ水力カル時ハ皆脱去ス.舶来羊皮灯ノ彩色ニモ用ユ.火ニ映シテ鮮明ナリ.

江州ニテツクル法.実ヲ小便ニヒタシ置二月下種シ,肥シニハ,タクワンヅケノ塩水ヲカケル.
ボウシガミヲ製スル法.天氣ヲ見合,朝露ノ間ニ花ヲトリ,スリバチニ入,少シヲ入テスリ,ヌノ袋カ,モメン袋ニ入,ヲシヲカケ,絞リ其汁ヲ,カラスノ羽ニテ美濃紙ニハキ,莚ノ上ニノセテホシ乾シテ,又ハキ,數度如此シテ,ア井ガミトナル.」

江戸下谷生まれの幕臣★岩崎灌園(17861842)著作で,野生種、園芸種、外国産の植物の巧みな彩色図で、余白に名称・生態などについて説明を付し、『本草綱目』の分類に従って配列している『本草図譜(刊行1828-1844) の「巻之十七 湿草類」には,ツユクサの一種「たうぼうし(帽子)」として,オオボオシバナが記述されている.Blog-2 に記したように,四世伊藤伊兵衛『地錦抄附録』(1733) の「巻之二△草花の部」には「大寫花(おほうつしばな),うつし花ともいふ」とあり,中国からの渡来品とも考えられていたようだ.
鴨跖草(あふせきさう) つゆくさ 尋常(つね)の物」
(略)
「一種 たうばうし 尾州

大和及近江の栗本郡山田村にて植るものハ,苗葉大にして高サ二三尺直立す.花も尋常(つね)の品より倍せり.此花を早朝に摘て汁を絞り紙に染むるを,あをがみといふ.染家(こうや)の下繪に用ひ,また燈籠等の画具に用ふ.」(適宜,改行・句読点等を挿入)

小野蘭山の孫で,蘭山の講義を『本草綱目啓蒙』48巻にまとめ刊行した★小野蕙畝(職孝)『救荒本草啓蒙』(1842)の「第二巻」には,
竹節菜 即鴨跖草
              つゆくさ あおばな おもひぐさ
              もヽよぐさ はなだぐさ ツミクサ 以上古歌
              つやくさ 倭名抄
原野ニ極テ多シ春月苗ヲ生ス莖地ニ布テ節ゴト
ニ葉互生ス形竹葉ニ似テ厚軟夏月枝梢ノ葉間ニ
花ヲ早天ニ開キ午前ニ凋ム深碧色ニシテ二辧ナリ
江州栗本郡山田村熟地ニ作リ辧汁ヲ採リ紙ヲ染
テ四方ニ賣出ス名産トス此種尋常ノ者ヨリ苗莖
トモノ長大花モ亦大ナリ毎朝花辧汁ヲ搾リ紙ヲ染
ム是ヲアイガミト云衣服ノ下繪ヲ畫ク必用ノ者
ナリ此紙ヲキリ皿ニ水ヲ入レ絞レバ青汁出ルヲ
用テ衣服ノ模様ヲ畫キ糊ヲオキ染ルトキハ自然ニ
消去ル又扇面ノ畫具トス舶來羊皮燈ノ彩色ニ用
ユ燈火ニ映シテ鮮明ナリ」
とあり,オオボオシバナに関しては,ほゞ『本草綱目啓蒙』と同じ内容が記されている.

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